第4話 英雄からの暗算
第4話 英雄からの暗算
「さあ、一緒に踊ろうぜ!」
アレックスはマギーに手を差し出し、マギーは驚きと喜びで目を輝かせ、恥ずかしそうに尋ねた。
「本気?」
アレックスはキラキラした笑顔で答えた。
「もちろん!」
マギーは心が弾んだ。だが、次の瞬間、アレックスはマックスも引っ張り上げた。
「お前ら二人も外せないぜ!」
アレックスは二人を無理やり引っ張って行った。実はこれが彼の意図だったのだ。マギーは呆れ、ムッとして白目をむいた。
「もう……ほんと、いつも私たちを引っ張り出すんだから!」
マギーとマックスはアレックスに半ば強引にキャンプファイヤーのそばへ連れられ、群衆に混じって踊り始めた。アレックスはなんとも思っていなかったが、群衆の中ではひそひそ話が聞こえてきた。
「ほら、あれホーク家の坊ちゃんじゃない? なんでいつも貧乏人とばかり一緒にいるんだろ……ふふっ」
ひそひそ話していたのは、岩丘谷で比較的裕福な暮らしをする若い男女たちだ。嘲笑する者もいれば、羨ましがる者もいた。
「ふん、そういう奴もいるのね」
アレックスはそんな声を耳にしていたが、鼻で笑って無視し、楽しそうに踊り続けた。他人の考えなど気にも留めなかった。
やがて、軽快な音楽が終わり、群衆はまだ物足りなそうだった。すると、バイオリニストが曲調を変え、柔らかく情緒的な音色が流れ始めた。
アレックスたち三人以外の周囲の人々は、男女でペアを組み、ゆっくりと踊り始めた。マギーとマックスは気まずそうに立ち尽くし、三人だけが場に浮いてしまった。
「ペアで踊るなんて、めっちゃ気持ち悪い……もう帰る!」
マギーは不機嫌な顔で立ち去ろうとした。だが、マックスは何か言いたげに彼女を引き留めようとした。それをアレックスは見逃さなかった。
アレックスは、マックスがマギーに片思いしていることをずっと知っていた。だが、マギーはマックスに特別な気持ちを持っていないようで、内向的で自信のないマックスも告白する勇気がない。アレックスはいつも彼を助けようと思っていた。
その時、アレックスの視界の端に、アナ・レインが数人の女性と一緒に広場にやってくるのが見えた。彼はひらめいた。
「おい、ちょっと待てよ!」
アレックスはマギーの肩をつかみ、彼女をマックスの前に押しやった。
「なに!?」
マギーは不満げに文句を言った。アレックスの意図がわからない彼女に、彼はアナの方を指さして言った。
「ほら、アナ・レインが来た。俺、彼女を誘いに行くからさ、お前らはカップルのフリして踊って、俺の援護をしてくれよ!」
マギーは断ろうとしたが、アレックスはすかさず条件を出した。
「いいか、成功したら、縫製工場で1週間有給休暇を取れるよう手配してやる。どうだ?」
1週間も休めて給料ももらえるなんて、マギーにとって願ってもない話だった。強がっていた心も一気に揺らいだ。
「……まあ、それなら悪くないけどさ。どうせアナを誘えるわけないと思うけどね。マックス、行くよ!」
マギーはさっさとマックスを引っ張って広場の反対側へ向かった。マックスは嬉しそうにはにかみながら、アレックスに振り返り、まるで「ありがとな、相棒!」と言っているようだった。
アレックスは後ろで身だしなみを整え、ばっちりカッコいいことを確認してから、アナ・レインに堂々と歩み寄った。
アナは数人の女性隊員と広場の端で談笑していたが、アレックスの登場に、彼女たちは一斉にどよめいた。なにしろ、アレックスは家柄も良く、ルックスも抜群なのだ。
「よお、女英雄。1曲、踊ってもらえるかな?」
アレックスは自信たっぷりに手を差し出した。だが、アナは相手にする気もなく、こういう金と権力だけが取り柄の若造が大嫌いだった。
アナはため息をつき、アレックスを適当にあしらおうとした。
「アレックス坊ちゃん、悪いけど、そのナンパのテク、私には効かないわ。他を当たってよ。」
アナの拒絶にも、アレックスは動じず、笑って答えた。
「今は効かなくてもさ、ダイヤモンドは勇者が苦労して手に入れる価値があるものだろ? 俺は諦めないよ。志あるところに道は開けるってね。」
アナはその厚かましさに少し圧倒され、思わず口元が緩んで小さく笑ってしまった。アレックスに好意があるわけではないが、彼女は一言だけ返した。
「ふうん……まあ、ホーク家が反抗軍をずっと支えてくれてるから、その礼として、1曲だけ付き合ってあげる。1曲だけね。」
アナはそう言うと、さっとアレックスの手を取り、キャンプファイヤーのそばへ。二人で優雅に音楽に合わせて踊り始めた。
「ありえない!」
アレックスがアナを誘えるわけないと思っていたマギーは、信じられないと叫び、隣で一緒に踊るマックスががっかりした目で彼女を見つめていることにも気づかなかった……。
アナと楽しそうに踊るアレックスは、せっかくのチャンスを逃すまいと、さらに踏み込んだ。
「なあ、俺、気になってたんだけどさ。俺みたいな金持ちのボンボンが嫌いなら、どんな男がタイプなんだ?」
その質問に、アナは笑うような、言いたくないような複雑な表情でアレックスを見て、こう答えた。
「少なくとも、ある人みたいな人ね。」
そう言うと、アナは意味ありげにアレックスの背後をちらりと見た。アレックスは気になって振り返った。
すると、広場がざわついた。アレックスが会いたくないもう一人の男が現れたのだ——リオ・オースト。
リオの登場に、女性たちのほとんどが彼の方へ群がった。アレックスは少し嫌な気分でリオをにらんだ。
リオはすぐにアナとアレックスに気づき、まっすぐこちらへやってきた。
「やあ、ここにいたのか。」
リオは落ち着いた態度でアナに声をかけた。アナは自然にアレックスの手から自分の手を離し、アレックスはそれに少し苛立った。
アナはリオにアレックスを紹介した。
「彼はアレックス……」
アナが紹介を続ける前に、リオが笑って口を挟んだ。
「ホーク家のひとり息子だろ? 誰だって知ってるよ。イケメンで有名だけど、まだ自分の将来を決めてないみたいだな……ちょっと手助けしてやろうか?」
アレックスの顔色が明らかに暗くなった。リオの言葉が皮肉だと気づかないわけがない。彼は一歩踏み出し、リオと至近距離で向き合って言った。
「いや、結構! 親切はありがたく受け取っとくよ。」
二人の間に見えない火花が散り始めたその時、突然、けたたましい警報が鳴り響いた。
不穏な黄色い警告灯が点滅し、誰もがその意味を知っていた。そう——「巣」が来たのだ!
5キロ先の地上では、木々が揺れ、低く響く轟音が地を震わせ、動物たちが我先に逃げ惑った。巨大な都市ほどの物体が、森を照らす月光を遮った。
それは、まるで都市を背負った巨大なカニのようだった。500メートルの高さの機械の脚が、踏み出すたびに恐ろしい振動を起こす。人工知能の支配都市、9番目の「巣」だ。
「早く! 早く! 総電源を切れ!」
岩丘谷の住民たちは急いで機械の操作を止め、動きを止めた。キャンプファイヤーさえ消され、誰もが小さな呼吸音しか出さず、身動き一つ取らず、じっと待った……。
岩丘谷の天井からは振動が響き、巣がまさに真上に来ていることを示していた。
広場の誰もが動かず、息をひそめ、巣に探知されるのを恐れた。
やがて、振動が徐々に収まり、巣が去ったことを示した。だが、電気が復旧した瞬間、マギーとマックスがあたりを見回すと、アレックスが地面に倒れ、狼狽している姿が目に入った。
「ねえ、大丈夫!?」
マギーが駆け寄って倒れたアレックスを心配した。だが、アレックスは答えず、ただ前方にいるリオをじっと見つめていた。彼は知っていた——さっき、復電の混乱に乗じて、リオが自分を強く蹴り倒したことを。
リオは何も言わず、ただ挑発的な笑みを浮かべてアレックスを見やり、アナを連れて去った。
人々は徐々に散り始め、広場には最後、マギーとマックスが無言でアレックスを支える姿だけが残った……。