第34話 岩丘谷の終焉
第34話 岩丘谷の終焉
「お前は最低だ!」
アレックスは予想外の拳に驚き、隣のジュディは困惑した。この拳を振ったのはマックスだった。
「マックス……どうした?」
普段は内向的で争いを避けるマックスが我慢の限界を超えた。彼はマギーがアレックスを想う気持ちをずっと受け入れてきたが、アレックスがその心を無視する姿に怒りが爆発したのだ。
「分かってんのか……」
マックスはアレックスの胸ぐらを掴み、マギーがどれだけ彼のために努力したかを伝えようとしたが、マギーが叫んで止めた。
「言わないで! 行かせて……」
マックスは眉をひそめ、マギーの決断に心を痛めたが、受け入れるしかなかった。
彼は頭を下げ、何も言わずに立ち去った。もう親友のアレックスに言うことは何もなかった。
親友二人が次々とアレックスに失望したが、酔っ払った彼はそれを気にも留めず、ジュディを連れて岩丘谷避難所の小さな扉から地上へ向かった。
「わあ! あれが星!?」
地上に連れ出されたジュディは、夜空の星を初めて見て興奮した。女の子の気を引こうと、アレックスは言った。
「ほら、銀河がもっとよく見える場所に連れてってやるよ。」
酒のせいで危険を忘れ、知能機械の脅威も頭になかった。アレックスは大胆にもジュディの手を引き、南へ歩いた。やがて廃墟の小镇に着き、家の屋根に登った。
「見て、ここなら視界が開けて、銀河が全部見えるぜ。」
アレックスは酔った勢いで両腕を広げ、得意げに広大な星空をジュディに見せつけた。
ジュディは甘く微笑み、アレックスを喜ばせようと遠慮なく彼の首に腕を回し、熱いキスを交わした。
キスの後、ジュディは何かおかしいと感じ、アレックスをよく見ると、彼はキス中に寝落ちしていた。
せっかくの雰囲気とチャンスを、アレックスは疲れ果てて寝てしまい、ジュディは怒りと笑いの間で呆れた。
「アレックスったら……」
ジュディはどうやっても彼を起こせず、仕方なく一人で生まれて初めて見る銀河を眺めた。美しい銀河だったが、彼女は知らなかった。恐ろしい災厄が迫っていることを……。
「ブー! ブー! ブー!」
岩丘谷に警報が鳴り響いた。機械移動都市「巣」が来たのだ。
「早く! 早く! 電源を全部切れ!」
岩丘谷は大混乱に陥り、住民たちは眠りから覚めて急いで電源を切った。
避難所は一瞬で真っ暗になり、皆が恐怖に震えながら声を出さず、いつものように「巣」が通り過ぎるのを祈った。
地上500メートル、岩丘谷の上空では、夜空が徐々に遮られていた。3つの巨大な「巣」、合計十数キロメートルの規模が、機械の虫脚を動かし、ついに避難所の真上に来た。
地下の住民たちは振動で「巣」の到来を感じ、発見されないよう祈った。
だが、今回は違った。「巣」は岩丘谷を狙ってやって来たのだ。
3つの「巣」には大きな数字が記されていた。3号「メデューサ」、4号「ハデス」、8号「ミカエル」。
3つの「巣」が虫脚で立ち止まり、中央の3号「メデューサ」が底部を開き、60メートルの巨大なドリルが轟音と共に地面に伸びた。その光景は恐怖そのものだった。
さらに恐ろしいことに、ドリルが回転を始め、地面は土煙に包まれた。「巣」が掘り始めたのだ。
「大変だ! 掘ってる! 俺たちが見つかった!」
天井の激しい振動で、岩丘谷の全員が最悪の事態を悟った。知能機械がとうとう岩丘谷を攻撃しに来たのだ。
もう隠れる時ではない。電源が一斉に点けられ、岩丘谷は驚叫と混乱に包まれた。
リオは即座に反抗軍を集め、装備と武器を準備させた。装備管理のマックスも急いで駆けつけ、隊員の装備を整えた。
病床のレイン司令官もこの日が来ることを知っていた。彼は瀕死の体を起こし、揺れる天井を見上げ、静かに呟いた。
「来るべきものが来た……この老いぼれの体で、岩丘谷のために最後まで戦うよ……」
ジョイや元第6小隊のメンバーたちも急いで装備を整えた。かつてない恐怖の中、震えながら準備した。
シェリーは震えながらブレンダに言った。
「どうしよう、ブレンダ……怖いよ。前回の地上任務よりずっと怖い……」
そこへ教官のチャドが現れ、未曾有の危機にもかかわらず、彼らを励ました。
「怖がるな、子供たち。ここで終わりじゃない。殺人マシンが侵入してきたら、全力で倒す。もし敵わなくても、住民を連れて地上に逃げて隠れるんだ。絶対に生き延びられる!」
チャドの言葉に皆が顔を見合わせ、恐怖が薄れ、手を重ねて互いを鼓舞した。
アレックスを逃がして以来、アナは一言も発せず、落ち込んで部屋に閉じこもっていた。だが、知能機械が岩丘谷を襲う今、沈んでいる場合ではない。彼女は気持ちを切り替え、完全武装し、武器を準備して故郷を守る覚悟を決めた。
アナは鋭い目で部屋を出、まず重病の父レインを安全な場所へ移そうとした。だが、医務室に入ると、死に瀕した父が装備を整え、銃を持って立っているのに驚愕した。
「お父さん! 何してるの!?」
アナが困惑して尋ねると、レインは震える手で彼女の顔を撫で、言った。
「死にゆくこの身でも、岩丘谷のために最後まで戦うよ……いい子だ、テラバンカーでしっかり生きてくれ……」
アナは父の言葉に戸惑ったが、考える暇もなく、レインがスプレーを彼女の顔に吹きかけ、アナは気を失った。すぐさま誰かが彼女を支えた。
レオナルドだった。彼は重傷を負っていたが、屈強な若者だ。この緊急事態で、彼はプランBを実行する――アナを連れてテラバンカーに戻るのだ。
レインは重々しくレオナルドに言った。
「君たちが傷ついたのは私の予想外だった……ただの父親として、娘が生き延びてほしいだけだ。今、岩丘谷の滅亡は避けられない……娘をテラバンカーに連れて行ってくれ。」
レオナルドの背後にテラバンカーの反抗軍が現れ、アナを受け取った。彼は複雑な表情でレインに尋ねた。
「実は、反抗軍が知能機械に勝てるとは最初から信じてなかったんだろ? だから最悪の事態に備えて、私にアナを連れ出すよう頼んだんだな?」
レインは微笑んで答えた。
「司令官として、岩丘谷の住民全員に責任がある。だが、娘は違う。彼女は生き延びるべきだ……早く連れて行ってくれ!」
レオナルドは父親としてのレインの思いを理解し、敬意を込めて頷き、言った。
「幸運を祈る。」
レオナルドはすぐさま去った。
レインは外の混乱と揺れる天井を見つめ、死を目前にしても毅然と言った。
「かかってこい、機械ども……!」




