第32話 知能腕時計の最後の警告
第32話 知能腕時計の最後の警告
「次の攻撃が無効だと思うか?」
300人以上の包囲を前に、アレックスは恐れずにそう言った。彼にはまだ最後の切り札があった。
レオナルドは人数の優勢を信じ、アレックスの脅しを意に介さず、銃を突きつけて言った。
「ふん……口だけは今のうちだ。科学者の遺物を手に入れたら、岩丘谷から追放してやる。地上で野垂れ死にだ。アレックス、決してアナには会えないぞ!」
アナの名前を聞くと、アレックスの目が一瞬揺れたが、すぐに挑発的な笑みを浮かべた。
「無駄話はいい! 俺を捕まえたきゃ、まとめてかかってこい!」
アレックスは「来い」と手招きし、レオナルドも無駄話をやめ、腕を振って命じた。
「全員、突撃! 奴を捕まえろ!」
命令一下、反抗軍が一斉にアレックスに殺到し、まるで恐ろしい人波のようだった。
「いいぞ!」
アレックスが待っていた瞬間だった。彼は自信に満ちた目で、足元の黒い布を勢いよく剥がした。すると、隠されていたのはハンマーや鈍器が山のように積まれた「武器庫」だった。
アレックスは電光石火の速さで高く跳び上がり、空中で一回転。降下の刹那、左手の知能腕時計に命じた。
「増幅、起動!」
知能腕時計のレイが警告した。
「気は人類を助けるためのもので、人間を攻撃するためにあるんじゃない……それでもやるなら、君は適任者じゃないと判断し、もう関わらない。」
だが、復讐に燃えるアレックスには届かなかった。
「うるさい、実行しろ!」
アレックスは結果を顧みず突き進んだ。レイは黙り、眩い青い光を放ち、アレックスが右手を高く掲げると、馴染みの気旋が再び現れた。
煙と塵の気旋が青い火花を帯び、アレックスの右手に急速に集まり、形を成した。それは彼の気が、実質的な攻撃力を持つ第1層級に到達した証だった。
「受けてみろ!!」
アレックスは得意げに笑い、着地と同時に右手を地面に叩きつけた。気をハンマーと鈍器の山に注ぎ込むと、「ドーン!」と爆音が響き、衝撃波と共に無数のハンマーと鈍器が四方八方に飛び散った。その破壊力はすさまじかった。
反抗軍の精鋭たちはこの光景に抵抗する間もなく、衝撃波と飛び散る武器に襲われ、誰も逃れられなかった。
特にレオナルドは、アレックスがもう手札を切ったと高を括っていたが、こんな恐ろしい攻撃を隠していたとは予想外だった。彼はハンマーが胸に直撃し、即座に倒れた。
「うっ!!」
衝撃波が荒れ狂った後、広場は瓦礫と化した。300人以上の精鋭が地面に倒れ、骨折によるうめき声が響いた。
アレックスのこの一撃は驚異的で、精鋭たちに痛烈な教訓を与えた。
「……くそっ! こんなことが……!」
レオナルドは這うように立ち上がり、悪態をついた。彼は最も重傷で、肋骨4本が折れていた。
アレックスはと言えば、元の姿勢を保ち、ゆっくりと中央で立ち上がった。手は震え、前の増幅時と同じく気を全て使い果たし、倒れそうだった。だが、倒れるわけにはいかない。彼は最後まで笑うつもりだった。
「へい……どうだ!? お前ら反抗軍、外見だけ立派で中身はスカスカだな……さっさとテラバンカーに帰れよ!」
汗だくで顔面蒼白、倒れそうなアレックスは、それでもレオナルドに言い放ち、溜飲を下げた。
レオナルドは痛みで反論できなかったが、そこへアナが駆けつけた。
アナは周囲を見回し、アレックスが全員を重傷に追い込んだ事実に信じられなかった。反抗軍は避難所を守り、知能機械に対抗するための存在だ。それをアレックスが壊滅させた。彼女は見過ごせなかった。
「アレックス……やりすぎよ!」
震える声でアナが銃を向け、複雑な心境で叫んだ。
アレックスは悔いなくアナを見つめ、銃口を前に言った。
「撃てよ! 俺を撃ち殺せば全部終わるぜ……」
アナは自己放棄の目をしたアレックスを見て、引き金を引くべきか迷った。
「やめなさい!」
その時、声がアナの躊躇を遮った。月光花園から駆けつけたマギーだった。
マギーはアレックスの前に立ち、アナの銃口を掴んで自分の額に当て、表情を変えずに言った。
「彼を撃つなら、まず私を撃ちなさい! その度胸があるか、見せてよ!」
アレックスは初めてマギーの存在の大きさに気づいた。これまで彼女はいつも自分に反発していると思っていたが、命を賭けて自分を守ってくれるとは。
アナはマギーの姿を見て、以前の平手打ちと彼女の言葉を思い出した。
「アナ・レイン……アレックスをこんな目に遭わせて! 彼を好きじゃないなら、なんでこんな冷酷なことするの? みんなが聖女みたいに崇める英雄が聞いて呆れる!」
アナは自分が先に間違っていたと悟った。アレックスを何度も傷つけ、彼を責める資格はない。彼女はゆっくりと銃を下ろし、失望と虚無感に苛まれ、立ち去った。自分がしてきたことはすべて間違っていた。この件に関わる資格はないと思った。
そこへ副司令官ケイトリンが現れ、アレックスの力に驚愕しながらも、マギーの後ろのアレックスを指さし、捕縛を命じた。
「早く! この化け物を捕まえなさい!」
マギーはその言葉に苛立ったが、別の声がケイトリンに反発した。
「捕まえる? どうやって? あんた、彼より強いのか?」
リオが到着したのだ。彼だけでなく、チャドや第6小隊のメンバー、マックス、岩丘谷の反抗軍も続いて現れた。
リオはアレックスに目配せし、ケイトリンに言った。
「事実が証明しただろ。テラバンカーの反抗軍は大したことない。岩丘谷の守りは俺たちだけで十分だ!」
リオの言葉に岩丘谷の反抗軍が賛同し、ケイトリンは反論できず、副司令官の権威は形骸化した。
チャドや小隊のメンバーはアレックスの状態を心配して近づいた。特に内向的なマックスはアレックスの前に立ち、突然彼の頬を叩いた。アレックスが驚くと、マックスは淡々と言った。
「この平手は無茶した罰だ。でも、よくやった!」
マックスもテラバンカーの精鋭を嫌っていた。アレックスは彼の望みを叶えたのだ。
2人は目を見合わせて笑ったが、アレックスの笑顔はすぐに消えた。
チャドもアレックスに平手打ちを食らわせ、諭すように言った。
「お前……どんなに恨んでても、こんなことはしちゃいけなかった。反抗軍は避難所を守り、知能機械と戦う唯一の頼りだ。それを重傷に追い込むなんて……はぁ……」
チャドは失望して背を向け、去った。アレックスは笑えなくなり、考えもまとまらなかった。だが、この時、彼はまだ自分の過ちがどれほどの災厄を招くか、気づいていなかった……。




