第30話 リオの提案
第30話 リオの提案
岩丘谷全体がアレックスの行方を追う反抗軍で溢れていた。そんな中、一人の少女が人目を避け、こそこそと街を移動していた。マギーだ。
マギーは頭巾で髪を隠し、誰も尾行していないことを確認すると、ほとんど道のない川谷へと向かった。彼女はアレックスが逃げ込む場所は一つしかないと確信していた――自分とアレックスだけが知る、川谷の奥底にある月光花園だ。
予想通り、月光花園に着いたマギーは、倒れて意識を失ったアレックスを見つけた。彼女は慌てて駆け寄り、彼の傷を調べた。左肩が血で染まっていた。
「バカ! この大馬鹿者……好きでもない女のために、なんでこんな大騒ぎを起こしたの!?」
マギーはアレックスの傷を包帯で巻きながら、涙を流して責めた。心は複雑だった。アナ・レインが現れなければ、こんなことにはならなかったかもしれない。そうすれば、アレックスと自分はもう一緒にいたかもしれない……。
一夜が過ぎ、アレックスはようやく目を覚ました。無意識に傷口に触れると、誰かに丁寧に包帯が巻かれていることに気づいた。警戒して周囲を見回すと、目の前にマギーが花園の川で水を汲んでいる姿が見えた。
マギーと分かると、アレックスは安堵した。ここは自分とマギーしか知らない場所だ。
マギーは谷底の清らかな水を汲み、アレックスに優しく飲ませた。少し休んだ後、2人は川辺に座り、マギーが口を開いた。
「これでいいの? 一人の女のためにこんな大騒ぎを起こして……これからどうするつもり?」
事ここに至り、マギーは怒る気力もなく、ただアレックスを嘆息しながら見つめた。
アレックスは川をぼんやり見つめ、アナを救うために奔走したことや、2度も平手打ちを受けたことを思い出し、苦笑した。自分がバカだったと。
「どうするって? ……全部ぶっ壊して、めちゃくちゃにしてやるさ。」
アレックスは立ち上がり、何もかもどうでもいいという表情で言った。
「もうこうなったら……連中が科学者の遺物を手に入れたいって言うなら、この力で思い知らせてやる!」
マギーはアレックスの言葉の意味が分からなかった。
「何……? 何を言ってるの?」
アレックスは淡く笑い、左手を上げ、知能腕時計と話した。マギーは驚いた。
「レイ、俺にはまだ一度、気を増幅できるチャンスがあるよな?」
知能腕時計は長い間沈黙し、渋々答えた。真実を明かしたくなかったようだ。
「……気の秘密を明かすべきじゃなかった……これはギャワン博士の意図じゃない。」
アレックスは苛立ち、声を荒げた。
「余計なこと言うな! 質問に答えろ!」
レイは不本意ながら答えた。
「……そう、一度だけ増幅の機会が残ってる……」
アレックスはまた騒ぎを起こす気満々の表情で、立ち去ろうとした。
「ダメ! これ以上騒ぎを起こしたらダメ!」
マギーは慌てて両手を広げ、アレックスの前に立ちはだかり、止めようとした。
「邪魔するな! 俺は絶対やる!」
今のアレックスは復讐心に支配され、マギーの制止を振り切って去った。マギーは挫折感に打ちのめされ、その場に立ち尽くし、涙を流しながら呟いた。
「あなたの目にはアナのことしかないの……? 私なんて、どうでもいいの?」
モンタナ州ビュートは、7号「巣」の拠点により黒煙に覆われていた。
ギャワン博士は縛られ、7号「巣」の知能脳アレスに意識を何度も弄ばれていた。幾日も耐えたが、所詮人間の彼は限界に近づいていた。
昏迷の中、博士は夢を見た。アレックスが目の前に立ち、怒りを爆発させて叫ぶ。
「博士、理論に欠陥があるなんて教えてくれなかった! 俺、超えられないんだよ!」
博士はため息をつき、答えた。
「すまない……だが、私の理論は間違っていない。君が本気なら、必ず超えられる……」
博士が説得しようとしたが、夢のアレックスは聞かず、博士を振り払った。
「嫌だ! こんな修行って何だよ? 痛すぎる……悪いけど、俺、スーパーヒーローにはなれない! もうやめる!」
夢のアレックスは怒りに任せて背を向け、去った。博士が叫んでも戻らなかった。この夢は博士に気の理論が本当に機能するのか、実際に人類を救う力になり得るのか、疑念を抱かせた。
その疑念がまずかった。博士の自信の揺らぎが、アレスの意識防壁突破を許した。アレスは博士の記憶を自由に読み取り、ついに欲しかった情報にたどり着いた。
「アレックス……」
人型のアレスがその名前を繰り返し呟く。その響きは、恐ろしい予兆を孕んでいた……。
アレックスは顔を隠し、暗い路地の角でこそこそと身を潜めていた。街を行き交う反抗軍――岩丘谷の者も、テラバンカーの精鋭も――が総出で彼を捜索していた。
アレックスは彼らを観察し、考えを巡らせた。
「全員を一か所に集めて、一気にまとめて片づけてやる方法を考えないと……」
その時、背後から声がした。
「連中を叩きのめしたいなら……俺が手伝えるぞ。」
アレックスは誰か分からず、反射的に振り返り、気を使って相手を絡め取った。
「……お前、リオ!? 何のつもりだ?」
よく見るとリオだった。アレックスは彼の動機を問いただした。リオは初めて気を見て驚き、言った。
「これが、お前が強くなった秘密か……信じられない……もし俺もこんな力を……」
アレックスは無駄話を聞く気になれず、苛立った表情を見せた。リオは本題に入った。
「お前はレオナルドに一泡吹かせたい。俺もだ……一緒に組めばいいじゃないか。どうだ?」
リオは自信満々に、2人で大騒ぎを起こせるという目でアレックスを見た。アレックスもまた、意味深な笑みを浮かべた……。
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「なるほど……あれだけ大勢で科学者を探しても見つけられなかったのに、ホーク家の若造が見つけたなんて……天のいたずらだな……」
アレックスの一件はレイン司令官の耳にも届いていた。病床で顔色蒼白のレインは、レオナルドとケイトリンからの報告を聞き、感慨深く呟いた。
だが、そばに立つアナは心ここにあらずだった。
マギーに平手打ちされて以来、アナは深く考えていた。自分が間違っていたのではないか? アレックスに冷酷すぎたのではないか?
「何を考えてる? ホーク家の若造のことか?」
父レインの問いに、アナは冷たく装って答えたが、レインは娘の心を見抜いていた。
「レイン、アレックスという男は、科学者から重要な技術を隠し持ち、それを我々反抗軍に敵対して使った。こんな問題児は生かしておけない。」
ケイトリンが焦って進言したが、レインは難しい顔をした。ホーク家の工場は避難所の命脈だ。
「それはまずいだろ……ホーク家がどう反応するか? あの若者を説得して、科学者から受け取ったものを渡させればいいじゃないか……」
レインの穏健な姿勢に、レオナルドが我慢できず、声を荒げた。
「私も彼を放っておくべきではないと思います。第一、彼は特殊な力を持っている。第二、アナと何か関係があるようだ。長引かせたくない。」
その言葉にアナが黙っていられるはずがなく、レオナルドを睨み、父に言った。
「お父さん、こんな狭量な男が本当にあなたの後継者にふさわしいの? 私が嫁ぐ価値があると思う?」
3人からの圧力に、レインは体調を顧みず、テーブルを強く叩いた。
「ふざけるな!」
その一撃で、アナ、レオナルド、ケイトリンは口を閉じ、気まずい沈黙が流れた。
その時、反抗軍の一人が慌てて医務室に駆け込み、緊張した声で報告した。
「奴が戻ってきた……!!」
4人は困惑し、レインが尋ねた。
「誰だ……?」
反抗軍は目を大きく見開き、叫んだ。
「リオだ……!」




