第29話 アレックスの逃亡
第29話 アレックスの逃亡
アレックスが驚異的な能力を隠さず披露した後、さらに多くの人々が噂を聞いて駆けつけ、反抗軍副司令官のケイトリンも現れた。レオナルドはさらに多くの武装した部下を呼び寄せた。
ケイトリンはアレックスが科学者を見つけ、特殊な能力を得たことを知り、真剣な表情で彼に呼びかけた。
「ホーク家の若様、科学者を見つけたならなぜ報告しなかった? 科学者が君に託したものを渡してほしい!」
ケイトリンが叫ぶ中、さらに多くの反抗軍がアレックスを包囲した。レオナルドは欲望を隠さず、ストレートに言った。
「これが超能力か! 絶対に手に入れる!」
アレックスはこうなることを予想していたが、もう覚悟を決めていた。
「かかってこい! 俺を捕まえられるか試してみろ!」
アレックスの表情が真剣になり、気を最大限に高めた。鍋や皿だけでなく、屋台の服や地面の石までが浮かび上がり、彼の周りをゆっくりと回転する無形の気旋を形成した。壮観な光景だった。
レオナルドは逆に確信に満ちた笑みを浮かべ、命令を下した。
「反抗軍、奴を捕まえろ!」
武装した反抗軍が鎮圧棒を手に一斉にアレックスに突進した。
「みんな、落ち着いて!」
アナは事態を収めようとしたが、既に誰も彼女の言うことを聞かず、収拾がつかなかった。
「ふん……!」
アレックスは冷笑し、一気に攻撃を仕掛けた。手を振ると、浮かんでいた物が猛烈な勢いで反抗軍に襲いかかり、秋風が落ち葉を払うように武装兵をなぎ倒した。
「どうだ! これでまだ俺を捕まえたいか!?」
アレックスは反抗軍を叩きのめしながらレオナルドを挑発したが、レオナルドは自信満々に彼を見つめ、まるで何かを待っているようだった。
アレックスの猛攻が続く中、レオナルドが待っていた瞬間が訪れた。
アレックスの攻撃が徐々に弱まった。第0層級の気は所詮第0層級で、すぐに枯渇し、強力なダメージを与えられない。
「くそ……もう限界か……? そんなわけない!」
アレックスは気が尽きかけていると悟り、全力を振り絞って残りの気を放出した。だが、武装した反抗軍は彼の攻撃に慣れ始め、影響を受けなくなっていた。
ついに、屈強な反抗軍の一人が隙を見つけ、標槍を投げつけた。それはアレックスの左肩をかすめ、激しく擦過傷を負わせた。
「くそっ!!」
アレックスは吹き飛ばされ、地面に倒れた。気旋は停止し、彼は無防備になった。
這うように立ち上がったアレックスは、左肩から血を流し、気旋の防御を失った状態で反抗軍にじりじりと囲まれた。アナはもう見ていられず、武装兵から銃を奪い、レオナルドに突きつけた。
「やめなさい、レオナルド! でなければ容赦しない!」
レオナルドの顔が曇った。アナがここまで反応するとは予想外で、アレックスが彼女の心にどれほどの存在感を持つのか疑い始めた。
その時、チャドが第6小隊のメンバー――ジョイ、ブレンダ、シェリー、スーザン、ゴードン、ディラン、ジョン、そしてマックス――を連れて急行した。
彼らはアレックスの前に立ちはだかり、守った。ブレンダは声を張り上げて叫んだ。
「誰か彼に近づいたら、ぶっ倒すから!」
現場は混乱を極め、群衆もアレックス側につき、騒ぎ立てた。
「彼を逃がせ!」
チャドはレオナルドの前に立ち、毅然と笑って言った。
「レオナルド大尉、君はまだ岩丘谷の司令官じゃない。ただの若造だ……ここまでする必要があるか?」
さらに、ケイトリンにも遠慮なく言った。
「副司令官、アレックスの能力の秘密を得るために、ここまでしていいのか?」
ケイトリンは恥じ入って顔を背けた。
群衆の騒ぎは大きくなり、アレックスを守る者たち、そして銃を突きつけるアナに、レオナルドとケイトリンは追い詰められたが、面子を捨てられなかった。
突然、誰も予想しない中、アレックスは残った気を足に集中させ、十数メートル高く跳び、近くの家の屋根に着地した。
「跳んだ! 彼、跳んだぞ!」
群衆が驚嘆する中、アレックスは不安定に屋根に立ち、傷ついた肩を押さえ、アナを振り返った。その目は心が死んだような虚無だった。アナはそれを感じたが、もう何もできず、取り返しがつかなかった。
アレックスは絶望に満ちた目で顔を背け、次々と屋根を跳び越え、人々の視界から消えた。現場は混乱のまま残された。
アレックスの逃亡を見て、レオナルドは怒りに震え、アナを睨んだが言葉が出なかった。ケイトリンが代わりに命令を下した。
「すぐに彼を見つけ出せ!」
その頃、ようやく目を覚ましたマギーは騒ぎを聞き、現場に駆けつけた。混乱の中、彼女はマックスを見つけ、掴んで尋ねた。
「アレックスは!? 彼、どうなったの!? 一体何が起きた!?」
マックスは事の顛末を詳しく話した。マギーは事態がここまで悪化したことに信じられず、アレックスの不遇さに拳を握りしめた。
マギーは一言も発せず、怒りに燃えて人群をかき分け、アナを見つけた。そして、予告なしにアナの頬を平手打ちした。
「アナ・レイン……アレックスをこんな目に遭わせて! 彼を好きじゃないなら、なんでこんな冷酷なことするの? みんなが聖女みたいに崇める英雄が聞いて呆れる!」
マギーは怒りをぶつけ、アナは自分が悪いと知りながら、弁解せず、平静を装って一言だけ言った。
「これで満足した?」
アナは悄然と立ち去った。
マギーはまだ怒りが収まらなかったが、アナの姿を見たくなく、今はアレックスの居場所が最優先だった。
突然、ひらめいた。彼女は……分かった気がした。
アレックスは傷を負い、人目を避けながら逃げ続けた。ついに、彼は自分とマギーだけが知る場所――岩丘谷避難所の奥底にある月光花園にたどり着いた。
「うっ……」
一路耐え抜いたアレックスは、月光花園に着いた瞬間、力尽きて月光の花海に倒れ、意識を失った。
その頃、反抗軍はアレックスを捜索するため総動員し、ホーク家にもやって来た。
「何? 副司令官、もう一度言ってみな?」
ケイトリンの訪問に、ホーク家の当主ブライアンはわざと聞き返した。息子が騒ぎを起こしたことは知っていたが、我が子を守るために強気に出た。
「あなたの息子アレックスが、我々に渡すべき秘密を隠している。すぐに連れて帰ってほしい。」
ケイトリンが厳しい顔で言うと、ブライアンは軽く答えた。
「いないよ! どこにいるか知らない。探してみな!」
ケイトリンは信じず、ホーク家を捜索したが何も見つけられず、憮然と去った。去り際に部下に命じた。
「この一家を監視しろ。」
ブライアンは岩丘谷最大の工場主で、反抗軍すら彼の支援に頼る存在だ。ケイトリンなど恐れなかった。だが、彼と妻のカミラは内心、息子の安否を密かに心配していた。
「息子、どこにいるんだ……?」




