第20話 アナの意外な本音
第20話 アナの意外な本音
「ふざけたこと言ってないで、外で一対一で勝負しろ……」
英雄と称されるリオが苛立ちを露わにし、アレックスに食ってかかった。アナが彼の心の中でどれほど重要かが伺える。彼は追い詰められていた。
「いいぜ……」
だが、アレックスは少しも怯まなかった。彼はもうかつての「軟弱な坊ちゃん」ではない。2人の対立は一触即発だった。
「いい加減にしなさい。」
その火花を、アナの冷たい一言が遮った。アナは2人を冷ややかに見つめ、続けた。
「まだ岩丘谷に帰ってないのよ。面倒起こさないで!」
リオは不服そうに立ち上がり、去った。アレックスも席を立とうとしたが、アナが呼び止めた。
「屋上で待ってる。」
アレックスは驚きつつも、アナが自分から話しかけてきたことに心が躍った。この救出の旅が、アナの心を動かしたのかもしれない……。
夜空に星々が輝き、銀河が天空を横切っていた。アナは腰に手を当て、格好良く屋上に立ち、星空を見上げていた。
「なんて綺麗……こんな美しい星空、初めて見た……これが銀河なのね……」
遅れてやって来たアレックスは、目の前の星空に感動した。これまで地上に出たことのない彼は、星を見たことすらなかった。
アナは星を見つめ、静かに語り始めた。
「……地上で知能機械と戦う唯一の慰めは、こうやって星空を見ること。だって……そうすれば宇宙の広さが分かるから。犠牲なんて大したことじゃないって思えるの……あなたがわざわざ私を救いに来たから、この星空は私からのお礼よ。」
アナはアレックスをちらりと見て、珍しくほのかな笑みを浮かべた。アレックスの心は高鳴った。アナが自分に微笑んだのは初めてだ。
アレックスはアナの隣に立ち、この旅が無駄ではなかったと実感した。アナを抱きしめたい衝動に駆られたが、紳士であろうとその気持ちを抑えた。今この瞬間を台無しにしたくなかった。
アレックスは静かにアナと並び、夜空で輝く銀河を眺めた……。
どれほど時間が経ったか、アナが突然ため息をついて言った。
「よし、銀河も見たし、もうあなたに借りはないわ……下りましょう。」
その言葉にアレックスは戸惑った。「借りはない」とはどういう意味だ? アナのそっけない態度にも違和感を覚え、彼女を呼び止めた。
「アナ! どうしたんだ? 俺、何か間違えた?」
アレックスが説明しようとしたが、アナは多くを語りたくないようで、振り返らずに言った。
「あなたが私を好きになろうと頑張ってるのは分かってる……でも、ごめんなさい。私とあなたが一緒になることはない。」
アレックスは納得できず、必死に食い下がった。
「どこがダメだった? 教えてくれよ! 直すから!」
アナは無反応か、あるいは言いにくい事情があるのか、ため息をついてようやく口を開いた。
「岩丘谷に戻ったら、私、結婚するの。」
その言葉はアレックスを完全に動揺させた。彼は立ち尽くし、何も言えなかった。
なぜこんなことになったのか、考えることすらできなかった……。
夜が明け、チャドは小隊を率いて野道を進んだ。今日、岩丘谷に帰還する予定だ。皆は上機嫌だったが、アレックスだけは厳しい表情で物思いに沈んでいた。
実は昨夜、アレックスはアナにもう一言尋ねていた。
「誰と結婚するんだ? まさかリオ?」
アナはしばらく黙り、何も答えずに去った。
今、最後尾を歩くアレックスはそのことを考え続け、気分はどん底だった。
突然、先頭のチャドが足を止め、緊張した表情で皆に静止を命じた。
「……静かにしろ。喋るな……」
チャドは何かの異常を察した。低周波の振動が、近くに知能機械がいることを示唆していた。リオとアナも異変を感じ、素早く銃を構えて警戒した。
次第に低周波音が周囲を満たし、皆は銃を手に緊張しながら構えた。
「うわぁっ!!」
突然の悲鳴。草むらに潜んでいた機械の触手がブレンダを絡め取り、引きずった。皆はすぐに駆け寄り、ブレンダを掴んで救おうとした。リオ、アナ、チャドが触手に銃撃を浴びせ、激しい格闘の末、触手を撃ち切り、ブレンダを救出した。
「気をつけろ!」
チャドが叫んだ瞬間、地面が揺れ、土煙の中から複数の機械体が這い出し、彼らを取り囲んだ。6体の4メートル級の機械イカだった。
これらの機械イカは待ち伏せしており、チャド一行を一網打尽にする機会を窺っていたのだ。
機械イカは恐ろしい触手を広げ、振り回し、先制攻撃を仕掛けた。触手が次々と人を襲い、皆は散開して避けながら、退路を断たれ、必死で銃を撃ち返した。
たちまち銃弾が飛び交い、戦場は混乱に包まれた。
その中で、シェリーが最初に触手に捕まり、引きずられた。
「助けて! 早く!!」
皆は自分を守るので精一杯で、華奢なシェリーが空中に吊り上げられ、近くの人間捕獲籠に放り込まれるのをただ見ているしかなかった。
だが突然、シェリーを掴む触手が目に見えない力に引っ張られ、捕獲籠に投げ込むのを阻止された。
アレックスが間一髪で駆けつけ、右手を密かに使い、気で触手を封じていたのだ。
アレックスは気を操り、触手の部品を故障させ、シェリーを解放させた。彼は飛び込んで落下するシェリーを受け止めた。
「……ありがとう!!」
シェリーは目を大きく見開いてアレックスに感謝したが、機械イカは休息を与えず攻撃を続けた。アレックスはシェリーを掴んで走り、機械イカの触手が執拗に追いかけてきた。
アレックスはシェリーを連れて野原を全力疾走したが、機械イカの追跡を振り切れなかった。彼は考えた。
「くそ、このままじゃダメだ! ……何か考えなきゃ!」
アレックスはシェリーを皆の元へ連れ戻した。だが、戦況は機械イカ側が優勢になりつつあった。チャド、リオ、アナの弾は残りわずかで、他のメンバーは弾を使い果たしていた。機械イカは包囲を狭め、このままでは全員が捕まるだけだ。
「もう方法はない……やるしかない……あれを使うぞ!」
アレックスに選択肢はなかった。皆を救えるのは彼だけだ。やむを得ず、彼は貴重な2回目の気場増幅を使う決断をした。
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