第19話 リオの拳を受け止める
第19話 リオの拳を受け止める
「君を救いに来たよ、アナの女神様。」
アナはその言葉に呆然としたが、今はそんなことを話している場合ではない。彼女が反応する前に、チャドが叫んだ。
「急げ! みんな、ここから離れるぞ!」
樹脂で知能機械を一時的に足止めできても、すぐに追ってくる。皆は負傷者を背負い、屈強なジョイが疲れ切ったリオを支えた。
その時、樹脂で覆われなかった骸骨ロボットが炎の中から現れ、機関銃を構えて皆を狙った。
誰も反応できない中、雷のような速さでアレックスが密かに「気」を発動させた。この数日の気功の成果を見せる時だ。気は一瞬でロボットの手を絡め取り、引き金を引けなくした。
わずか数日で、アレックスは気を遠隔操作する技術を驚くほど習得していた。
骸骨ロボットは引き金を引けず、滑稽な動きで硬直した。
「早く倒せ!」
チャドが叫ぶと、アナが一瞬早く銃を撃ち、ロボットの頭を撃ち抜いた。
「走れ!」
今はさっきの出来事を詮索する時間はない。チャドは再び皆を急かした。
アレックスは迷わずアナの手を掴み、全員で全力疾走して撤退した。
皆は高速道路を越え、必死で走り続けた。ようやくチャドが言った。
「もう大丈夫だ。走らなくていい……」
その言葉に、皆はへたり込んで息をついた。
突然、アナが冷たく口を開いた。
「なんで私の手なんか握るの!」
アレックスはまだアナの手を握っていることに気づき、慌てて離した。
「ごめん、わざとじゃないんだ……」
アナは無表情で冷たくアレックスを見つめたが、内心は動揺していた。
「……誰が来いって言ったの……」
アナは平静を装って尋ねた。チャドがアレックスを庇うように言った。
「俺が彼を選んだんだ。レインが追加の救援チームを派遣したかったが、結局『巣』に科学者を奪われた。この若者は好きな女を救いたいって言い張ってな……仕方なく来たんだよ!」
チャドはかつてアナとリオの教官だった。その言葉にアナは信頼を寄せ、内心少し感動したが、それを表に出さず、素っ気なく言った。
「ありがとう!」
アナがアレックスに初めて「ありがとう」と言った瞬間だ。アレックスは内心で喜んだ。「苦労して救いに来た甲斐があった。この『ありがとう』はいいスタートだ!」
アナに話しかけようとした時、突然、目の前に人影が立ちはだかった。
リオだ。
リオは挑発的な口調で言った。
「ホーク家の坊ちゃん、アナには近づかない方がいいぜ。」
アレックスは動じなかった。以前の彼なら怖気づいたかもしれないが、今の彼は違う。
「大英雄リオ・オースト……お前だってアナをちゃんと守れなかっただろ。それでよくそんなこと言えるな?」
リオはそれを聞いて挑発的な表情で振り返り、突然右手を振り上げ、アレックスに恥をかかせようとした。
皆が目を丸くして止めに入る間もない瞬間、驚くべきことに、アレックスは素手でその拳を受け止めた。
リオは驚いたが、アナの前で面子を潰すわけにはいかない。彼は力を込めてアレックスを押し込もうとしたが、アレックスは微動だにしなかった。
リオが知らないのは、アレックスが「気」を使って彼の手をがっちり封じていたことだ。リオは手を引こうとしたが、アレックスの余裕ある視線に動揺した。
「いい加減にしろ!」
チャドが間に入り、仲裁した。アレックスは密かに気を解除し、リオも何事もなかったように手を引いた。
「みんなくそくらえの状況で一緒なんだ。こんなことで揉める前に、女の子の意見を聞いたのか?」
皆の視線がアナに集まったが、彼女は冷たく一言。
「知らない! 私に聞かないで。」
アナは踵を返して去った。リオはアレックスを睨みつけた。彼には信じられなかった。数日前に会ったこの若造が、まるで別人のように変わっている……。
一方、アレックスは自信に満ちた目でリオを見返した。
夕暮れが近づき、気まずい雰囲気を和らげるため、チャドが2人の肩を叩いて言った。
「お前ら、行くぞ! 今夜はいい場所で祝うぞ!」
ニューヨークでは、1号「巣」の知能脳ガブリエルが「人塔」を巡視していた。人間を生質エネルギーとして扱い、まるで菜園の野菜のように管理している。
突然、遠方の「巣」から通信が入った。
「報告:7号アレスが科学者を捕獲しました。」
その知らせに、ガブリエルの金属の顔に不気味な紫の光が揺らめいた。目的を達成した傲慢な表情だ。
ガブリエルは無意識に動く人間の「人塔」を撫でながら言った。
「いいだろう、急ぐ必要はない。どうせ人間は彼がいなくても何もできない……しばらくアレスの巣に拘束し、時期を見てニューヨークに送還しろ。それでいい。」
ガブリエルは科学者の驚くべき秘密を急いで知る必要はないと考えていた。彼は街の中心、自身の本体直下に移動した。そこには巨大な車輪状の機械構造物――建設中の装置があった。
ガブリエルは両腕を広げ、得意げにその構造物を見上げて言った。
「人間どもよ、この装置が完成すれば、お前らはもう必要なくなる。そして、お前らを滅ぼすのは一瞬だ。どんな手を使おうと、お前らの運命は変えられない。ハハハ!」
ガブリエルは自信満々だった。彼が次に実行する計画に対し、人間がどんな手段を使っても対抗できないと確信していた。
本当に人類に抗う術はないのか……?
月明かりの下、荒廃したオルティング市は静寂に包まれていた。だが、ある大邸宅の地下室では、第6小隊と第4小隊が炉の前で賑やかに過ごしていた。
ディランとジョンは小型ドローン以外のもう一つの宝物を取り出した――ダンスロボットだ。数センチの小さなロボットは、ゼンマイを巻くと音楽を奏で、コミカルに動き回り、皆を爆笑させた。
もちろん、彼らは近くに知能機械が接近していないか警戒を怠らなかった。だが、この数日の過酷な経験を経て、久しぶりに笑い声が響いた。
しかし、皆が楽しい雰囲気に浸る中、3人だけが浮いていた。
地下室の長テーブルの両端に、アレックスとリオが座り、中央にアナがいた。3人は無言で夕方捕まえた野生の肉を食べていた。アナは冷静かつ優雅に肉を切り、食べ進めたが、両端のアレックスとリオは食べながら互いを監視し、まるでスパイ同士の睨み合いのような緊張感が漂っていた。
チャドは3人を遠くから見て首を振ったが、口を挟む気はなかった。
アナは無言で肉を食べ終え、表情を変えずに席を立った。残された2人の男は、どちらが先に折れるかの我慢比べのようだった。
アレックスが余裕の表情で先に口を開いた。
「大英雄リオ、さっきからずっと俺を睨んでるけど、どういうつもり? もしかして、俺がカッコいいって思ってる?」
リオは不屑に答えた。
「ふざけたこと言ってないで、外で一対一で勝負しろ……」