第14話 起動
第14話 起動
アレックスは予想もしていなかった。機械蜘蛛が音もなく近づき、今、ギャワン博士の背後に牙を剥いていた。
電光石火の速さでアレックスは銃を構え、先制攻撃を試みた。だが、彼の動きは殺人マシンに遠く及ばなかった。機械蜘蛛の鋭い脚が、ギャワン博士の腹部を貫くのを、ただ見ているしかなかった。
「うわぁっ!」
ギャワン博士は苦痛に叫んだ。アレックスは絶望の中、機械蜘蛛に銃を乱射した。
博士は傷を負っていたが、激痛を堪え、即座に自作のパルス磁石を投げつけた。瞬間、機械蜘蛛は電源を切られたように動きを止め、アレックスの銃撃で爆散した。
アレックスは一刻も留まることなく、博士を支えて全力で走った。道路の先には、数十体の機械蜘蛛が音を聞きつけて迫っていた。
「早く!」
アレックスは緊張した面持ちで、ギャワン博士を支えながら森を駆け抜けた。背後では、機械蜘蛛が赤外線でスキャンしながら迫ってくる。だが、ついに、顔を真っ青にした博士は力尽き、木に寄りかかって倒れ込んだ。
「博士! 持ちこたえて! 前に進まなきゃ!」
アレックスは必死に博士を起こそうとしたが、博士は青ざめた顔で首を振った。
「どうやら……岩丘谷には行けそうにないな……小僧。」
アレックスは博士と知り合って間もないが、彼を見捨てるような人間ではなかった。
「ダメだ! 博士は大事な人だ。諦めるな! 立て、背負うぞ!?」
アレックスが背負おうとしても、博士は拒んだ。決意を固めた表情で言った。
「小僧、手を出しな……」
アレックスは博士の意図が分からず、左手を出した。博士は再びあの黒い電子腕時計を取り出し、迷わずアレックスの腕に装着した。
「博士……? これは?」
博士は真剣な顔で厳かに言い聞かせた。
「よく聞け。どんなことがあっても、この時計を失くすな。『彼女』はお前に想像もできない変化をもたらす。そして、『彼女』が教えることは、完全に習得するまで絶対に他人に話すな! 早く行け! 俺がこの殺人マシンを食い止める!」
アレックスは混乱し、焦って尋ねた。
「『彼女』って誰だ? 何を学ぶって? 博士、意味が分からないよ!」
博士は答えず、アレックスを押しやり、木の陰に身を隠すと、懐中電灯を取り出して隠形機能を起動した。撓場の気流が瞬時に煙の壁を作り上げた。
「早く行け!」
博士は決意を込めて叫んだ。アレックスは渋々従い、走り出した。
「ありがとう、博士……無事を祈るよ……」
アレックスは何度も振り返りながら呟いた……。
アレックスはまるで頭のないハエのようだった。初めて地上に出た彼は、どこへ向かえばいいのか分からなかった。
「くそっ……どこへ行けばいいんだ!?」
汗だくで周囲を見回した。彼はもうアナを助けることより、チャドたちと合流する方法を考えていた。
機械蜘蛛の気配がないのを確認し、彼は通信機を取り出した。第6小隊と連絡を取るチャンスだった。
「早く繋がれ……!」
アレックスは焦った。
その頃、第6小隊は昨夜からオリンピアの南でアレックスを探し続けていたが、成果を上げられず、皆が焦っていた。
「こんなに探したのに……アレックス、一体どこにいるんだよ?」
マックスは心配そうに呟いた。
その時、チャドの通信機が鳴った。急いで応答すると、向こうからアレックスの声が聞こえた。
「神に感謝、みんな、どこにいるんだ!?」
アレックスの声に、皆が集まった。特にマックスとニックは、どこへ行って見つからなかったのか聞きたくてたまらなかった。
「たぶん……モリソン通りだ!」
アレックスは倒れた道路標識を見て自分の位置を伝えた。だが、そこはチャドたちからかなり離れていた。チャドは言った。
「アレックス、そこで動くな。俺たちが迎えに行く!」
アレックスは合流できると安心したが、すぐに危機が訪れた。通信信号を感知した数体の機械蜘蛛が彼に向かって突進してきた。彼は再び走り出した。
アレックスは道端の廃屋に逃げ込み、隅に隠れた。隠れた直後、屋根から衝撃音が響き、殺人マシンが来たことを悟った。
数体の機械蜘蛛が信号を追って家の周囲に集まり、2階の窓を破って侵入してきた。どうやら人間が隠れていると確信しているようだ。
機械蜘蛛が次々と家に侵入し、アレックスに逃げ場はなかった。彼はキャビネットの中に丸まり、思った。
「笑えるな……俺、アレックス、こんな若さで死ぬのか……ハハ、アナを口説けなかったのは残念だな……」
絶望の中で自嘲するアレックスだったが、頭に最初に浮かんだのは、意外にもアナ・レインではなくマギーだった。彼は右手首のリストバンドを見つめ、マギーの怒った顔や言葉を思い出し、苦笑した。
「まあ……今さら何を言っても無駄か……」
アレックスは絶望的に頭を壁に凭れ、機械蜘蛛に見つかり、死を待った。
その時、突然……
左腕の電子腕時計が再び、規則的に青い光を放ち始めた。アレックスは驚いた。
「何!? どうなってんだ!?」
不気味な青い光に、アレックスは腕を上げた。何か起こる予感がした。すると、腕時計の小さな画面に文字が表示された。
「適任者確認。あなたは生死の危機に瀕しています。腕時計を起動しますか? 下のボタンを押してください!」
画面の下には、大きなボタンが規則的に弱い赤い光を放っていた。アレックスは決断を迫られた。
彼はギャワン博士の言葉を思い出した。
「『彼女』はお前に想像もできない変化をもたらす……どんな変化だ? ……まあ、何もしないよりマシだ、やってやる!」
アレックスは博士が言う「彼女」の意味を理解していなかった。だが、機械蜘蛛がすぐそこまで迫り、死が目前に迫る中、考える時間はなかった。彼は迷わずボタンを押した。
ボタンを押すと、腕時計の光は点滅を止め、ますます明るく輝いた。アレックスが何が起こるか期待していると、腕時計から女性の声が響いた。
「こんにちは、適任者。行動の許可をしますか?」