第11話 言えないマギーの想い
第11話 言えないマギーの想い
夜、第6小隊が結成され、10人が同じ宿舎に集まり、装備の点検を始めた。普段は反抗軍で軽視されがちな装備係のマックスが、武器や装備の使い方を熱心に教え、他の隊員たちは彼を先輩のように慕って質問を浴びせた。
アレックスはドアにもたれ、親友がようやく才能を発揮している姿に満足げだった。その時、背後からマギーの声がした。
「死にに行くつもり?」
マギーはアレックスの決断を知り、腕を組んで不機嫌そうに彼をにらんだ。
アレックスは両手を広げ、どう答えたらいいか分からなかった。どう言ってもマギーは納得しないだろう。
マギーは怒って踵を返した。アレックスは慌てて彼女を呼び止め、言った。
「なあ、確かにちょっと衝動的だったよ……でも、アナが危険に晒されてるのに、俺がここで何もしないわけにはいかないだろ?」
マギーは真剣な顔で問い返した。
「あなた、彼女の彼氏なの? リオより強い? 何であなたが助けに行くのよ?」
その言葉はアレックスの痛いところを突いた。彼はリオと比べられるのが一番嫌いだった。
「そうさ、リオが一番すごい、リオが最高だ! だからお前もリオが好きなんだろ?」
アレックスはムッとしてマギーに言い返した。マギーは一瞬、言葉を失い、何か言いたげにアレックスをじっと見つめた。だが、結局何も言わず、黙って立ち去った。
アレックスは彼女の態度が理解できず、ため息をついてつぶやいた。
「違うのかよ……?」
翌朝、夜明け前、第6小隊はレーニア山の西にある森の秘密通路を通り、地上に出た。そしてすぐに出発した。
隊員は総勢11人。男子はジョイ、ブレンダ、ディラン、ジョン、ニック、マックス、アレックス。女子はシェリー、スーザン、ゴードン。そして、教官チャドがこの捜索任務の隊長として同行した。
彼らは田舎道を進み、オリンピア空港を目指した。そこが飛行機の最後の可能な墜落地点だった。
岩丘谷中央の裁縫工場では、皆が昼食に出かけたが、一人だけミシンの前に座ってぼんやりしていた。マギーだ。
マギーは誰かのために作りかけていたコートをじっと見つめていた。完成させるべきか、迷っていた……。
突然、マギーはイライラして立ち上がり、コートをゴミ捨て場に投げ捨て、つぶやいた。
「なんであのバカのためにこんな頑張ってるのよ!」
彼女は怒りながら立ち去った。
だが、しばらくしてマギーは戻ってきた。冷静になり、ゴミの中からコートを拾い上げ、ぎゅっと抱きしめた。まるで誰かを抱くように。彼女はその想いを捨てきれなかったのだ。
プジェット湾では大雨が降りしきり、霧の中でシアトルからオリンピアにかけて4つの知能都市「巣」がそびえ立っていた。壮観で、かつ恐ろしい光景だ。4つの「巣」が同時に現れるのは前例がなく、科学者を必死に追っている証だった。
第3小隊はタコマの家の地下室に隠れていた。周辺は機械生体兵がうろつき、海岸には巨大な「巣」が陣取っていた。
リオは地下室の通気窓からこっそり外を観察し、脱出の機会を探っていた。
すでに4日間ここに閉じ込められ、食料は底をつきかけていた。さらに悪いことに、6人の隊員を失い、2人が負傷していた。
アナ・レインは地下室の隅で目を閉じ、静かに座っていた。この窮地をどう打破するか考えていたが、意外にもアレックスの姿が脳裏に浮かんだ。
「そうさ……俺にはまだまだ伸びしろがある。それって良いことだろ? 絶対諦めないぜ!」
あの言葉が、なぜかアナの頭を離れず、集中を乱した。
「大丈夫か?」
リオが突然声をかけ、アナを現実に引き戻した。アナは答えず、冷たく聞き返した。
「……外の状況はどう?」
リオは答えた。
「機械生体兵だらけだ。今は動くべきじゃない……それにさ、もっと普通に話せねえか?」
アナは答える気になれず、立ち上がって負傷した隊員の様子を確認しに行った。
「誰と話す時もこんな感じよ。考えすぎ。」
アナのそっけない返事に、リオはムッとして言い返そうとした。だが、その時、機械生体兵が何かを察知したのか、彼らの隠れる家に近づいてきた。
リオとアナは即座に武器を構え、警戒した。機械生体兵が家に入れば、最悪、血路を開いて突撃する覚悟だった。二人とも銃の名手なのだから。
機械生体兵が家に近づく中、リオはアナを庇うように前に立ち、ドアに向けて銃を構えた。いつでも先制攻撃の準備ができていた。
「ワン!」
突然、犬が家から飛び出し、機械生体兵に向かって吠えた。機械知能は人間にしか敵意を持たない。犬の生体信号を確認すると、兵は立ち去った。
地下室にいるリオとアナはひとまず安堵した。アナはリオを見やり、普段の高慢な態度とは裏腹に、かすかに言った。
「さっき……ありがと。」
リオは一瞬、呆気にとられた。アナと知り合って以来、彼女が自分に礼を言うのは初めてだった。彼は思わず笑みを浮かべた。
だが、ひとまず安全とはいえ、どれだけここに閉じ込められるのかは分からなかった。
もしくは、思いがけない援軍が来るかもしれない?
大雨の中、第6小隊は田舎道を進んだ。機械軍に見つからないよう、森の縁に沿って移動した。遠くの湾を見ると、巨大な「巣」がそびえ立つのが望遠鏡で確認できた。恐ろしい光景だった。
隊の最後尾を歩くアレックスは、隊長のチャドを見ながら、ある疑問を抱いていた。彼はチャドのそばに近づいた。
チャドはアレックスが何か言いたげなのを感じ、先に口を開いた。
「言ってみろ……わざわざ近づいてきたんだろ? 何か用か?」
アレックスは少し躊躇し、尋ねた。
「なんで俺が捜索任務に志願した時、驚かなかったんですか? 止めもしなかった。俺のこと、ダメだと思ってたんじゃないんですか?」
チャドは笑って答えた。
「前に言っただろ? 『人の能力に高低はあるが、良い人間になれなきゃ意味がない』って。もし貴族の坊ちゃんが、能力の高い奴らより勇敢に立ち上がれるなら……そいつはもう、誰よりも立派だ。」
チャドはアレックスの肩を叩き、励ますように去った。アレックスは立ち止まり、呆然とした。彼の頭にあるのはアナを助けることだけで、他のことは考えていなかった。チャドがそんな風に高く評価するなんて、予想外だった。
チャドの背中を見ながら、アレックスは自問した。
「俺、本当にそんな奴なのか?」
だが、アレックスの頭はすぐに捜索任務の後の計画に戻った。任務が終わったら、マックスと一緒に隊を離れ、アナを探しに行く。アナを救えば、彼女はきっと自分を見直し、受け入れてくれるはずだ。だから、チャドの言葉はあまり心に響かなかった。
そんな思いを抱きながら、アレックスたちはついに目的地に到着した。道端の標識にはこう書かれていた。
「オリンピア空港」