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境界線の先に何を見る  作者: ただの紅茶好き
第1章 私の瞳に写るもの
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第五話 何者にもなれない

 開戦の狼煙が挙げられた。それと同時に全速力でカロナの死角に行き首を狙う。勝負を一瞬で決めるために。


 カロナの首に刃が当たる。あと少し刃を食い込ませれば首に傷が出来るその間合いにまで行った次の瞬間、アインの意識は闇に落ちた。


 意識を失う前にカロナが呟いていた言葉が聞こえた。


「やはりお前はいいな、最高だ」


 その言葉を発するカロナの口元はどこか不適な笑みを浮かべている様に感じた。


―――――――――――


 意識がしだいに回復する。目が覚めて最初に見えた景色はカロナの顔である。


「おぉ、起きたか。それじゃあ勝者の権利を行使させてもらうとするか」


 カロナは早速自分を弟子にするつもりなのだろうとアインは思った。しかしカロナから出た言葉はアインの想像を超えるものだった。


「お前、煉獄の受け皿になれ」


「は?」


 思わず素で驚いたアイン。


 ――煉獄?受け皿?一体何を言っているんだコイツは?


 今アインの頭の中は困惑で埋め尽くされていた。当然だ、無理もない。何せいきなり意味不明な言葉を叩きつけられたのだから。


「ん?あぁすまん、煉獄やらなんやら伝えていなかったな」


 アインの困惑を先程まで理解できていなかったカロナだったがすぐさま理解して単語の解説に入ってくれた。


「いいか、煉獄って言うのはあの世とは異なる世界で唯一ここからは繋がらない場所だ」


 なるほど合点がいった。先程カロナが言っていたここから繋がらない場所が煉獄だったのか。しかし同時にある疑問が出来た。そこでアインはカロナにその疑問をぶつける。


「煉獄とあの世の違いはなんなんだ?」


 それはアイン以外が聞いても当然に思う疑問であった。


「いい質問だな、結論から言うと煉獄は邪悪な魂を循環させない為に存在するあの世だ」


 邪悪な魂を循環させない。それはまるで祓いではないか、少なくともアインはそう考えた。


 その考えを見透かしているがごとくカロナは回答を言い渡して来た。


「祓いと煉獄の役目は全然違うぞ。煉獄は祓いと違って魂は殺さないからな。煉獄は魂を捕え続ける事が目的だからな」


 捕え続けることが目的、しかし自分にはカロナが言っていたそれはまるで何かを隠している様だと感じた。


「カロナさん、煉獄の目的は魂を捕え続けることそう言っていましたよね。それって本当にそれだけですか?」


 カロナにそう伝えた瞬間、カロナは口元を大きく歪ませ笑い出した。


「アッハッハ、いやぁまさかお前がそこまで見抜くとは思わなかったよ。だがまぁそこまで察しているならこっちとしても都合がいい。教えてやるよ、煉獄の本当の目的、それは邪悪な魂を生かし続けて罰を与える事だ」


 罰を与える事、カロナはそう言った途端少し前までのどこか掴みどころの無い雰囲気からうって変わり、まるで何もかもが愉快だと言う様な邪悪な雰囲気を発しはじめた。


 アインはこの先どうしたらいいのか分からなくなってしまった。恐怖で、困惑で、絶望で、先の見えない何かに足がすくんでしまっているのだ。


 それでもアインは勇気を出して質問をした。


「なんで…なんで俺なんですか、この世界の俺じゃなくても別の俺の方が適任だったでしょ…」


 カロナは邪悪な雰囲気を霧散させ最初にあった頃の雰囲気に戻った。


「お前だっだ理由か?そんなもん簡単だよ、この世界のお前に魅力がなく、私が干渉しなければ何者にもなれないからだよ」


 何者にもなれない、アインはその言葉を聞いた途端何かが崩れる音がした。


「じゃあ…俺が、俺がして来たことって一体なんだったんですか!!」


 思わずカロナに掴みかかり怒鳴り上げてしまった。


「お前がやって来たこと?そんなもん何の意味も無いぞ」


 カロナは態度を決して崩さず冷静にアインの人生を否定する。アインの心を砕くにはそれだけで十分だったのだ。


「だから空っぽのお前が、空っぽなお前だからこそ煉獄を受け止めることが出来るんだ」


 だが同時にカロナは決してアインそのものを否定はしない。


「お前には資格があって他のお前に資格がなかった、ただそれだけだ」


 おそらくそれは優しさから出た言葉だったのだろう。しかし今のアインにそれを受け止め切れるほどの余裕はない。


「はぁ…仕方ない、お前を特別にしてやる。アイン、私の手を取れ」


 それは悪魔の囁きであった。手を取れば特別になれる。手を取らなければ自分は何者にもなれない。


 結論など最初からとうに出ていたというのになぜ迷っていたのだろうか。


「お願いします。カロナさん、俺を特別にしてください」


 カロナの手を取るアイン。そして決断をしたアインを見てカロナは口元を歪める。まるで待ってましたと言わんばかりだ。


 だがそれでもいい。自分は何をしてでも特別になってやる。特別になってあの人の横に並ぶんだ。


「いい決断だバカ弟子、ならこれから私はしばらく準備をする。夜に寝たらまたここに来れる。それまで好きにしてろ」


 カロナがそう言って手を叩いた途端世界が流転した。そして意識を失った。


―――――――――――


 目を覚ますとそこは第2階層の浄化の聖域であった。


 手首につけた外陽版を見ると日が沈みかけてることが分かった。


 周囲を見回していると近くの体格のいい冒険者が声をかけて来た。


「おい兄ちゃん、大丈夫か?第3階層で意識を失ってるのを見つけて急いで運んできたんだが…どこか怪我はないか?」


 そう言われて自分の身体を確認するが全てに繋がる湖にいた時と変わらずどこも怪我をしていない。


「どこも怪我は無さそうです。ここまで運んでくれてありがとうございます」


「そうか、それならよかった。冒険者は身体が命だからな。無理せんでくださいね」


 その後軽く会釈してからダンジョンからの脱出を目指す。


 その後は特にモンスターとの遭遇もなくダンジョンから脱出することが出来た。


 ダンジョンの出入り口でギルドカードと依頼の紙を受けとってギルドに帰還した。


 ギルドに帰ってギルスのいるカウンターに向かう。


「よぉおっさん、元気してたか?」


 ギルスに声をかけるとまるで幽霊を見たかの様な顔をしたあと涙ぐみながら話してきた。


「だ、誰がおっさんだ!!お前…お前よく生きて帰って来てくれたな…」


 何だか懐かしい気分になった。ほんの数時間しか経っていないのだろうけどそれでも懐かしいと思ってしまった。


「それじゃあ横穴で見たものを報告してくれ」


 ギルスはすぐに雰囲気を変えて、依頼の報告を要求してきた。


「今回横穴の調査をしたところまず横穴に入ってすぐにデカい階段があった、その階段を調査したが罠は特になかったな。次に階段を降りた先には目測10mくらいの門があった、門も階段と同じで罠ではなかったな。門の先には墓場があった、墓場そのものではアンデット系の出現は確認できなかったが別のものを見つけた」


「別のもの?なんだそれ、早く言ってみろ」


 アインの報告を急かすギルス、そしてそんなギルスを嗜めるアイン。


「いくつかあるんだが、まず墓場には女がいた。見た目は銀髪ショート以外が昔の写真見たいなモノクロだったな。だけど本質はそこじゃない、そいつは人語を喋ったあと消えていったんだ。ギルスさん、あんたはこれをどう受け止める?」


 ギルスはその報告を聞いて顔を深く落とす。どうやらいくつかの答えがあるのだろう。


「アイン、俺はそいつが新種の魔物だと判断した。後で上にも報告しておく」


 ギルスはあの女を新種の魔物であると結論付けたのだろう。そして他にも聞いて来た。


「いくつかあるって言ってたな?他には何があった?」


「そうだったな、見つけたものはもう一つあって墓場の奥に教会があったんだがそこの最奥にリーパーがいた」


 そしてアインはリーパーを見つけた時の詳細な情報をギルスに伝えた。


「まさかリーパーがいるとはな…まぁとりあえず以上だな?じゃあ依頼達成だ、ギルドカードを出してくれ」


 アインは言われた通りにギルドカードをギルスに手渡した。その後ギルスは色々な書類にサインをして依頼達成の手続きを完了して報酬の金貨1枚と銀貨5枚をアインに渡した。


 アインは今回の報酬をどう使おうか悩んでいると売店が目に入った。せっかくならと売店に入ってみると朝対応をしてくれたあの男がいた。


「お?誰かと思ったら朝の冒険者さんやないですか!生きて帰って来れたんですねぇ、いやぁよかったよかった。それで今回はどんなご用件で?」


 アインは改めて思った。


 ――やっぱ俺、コイツ苦手だわ…

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