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境界線の先に何を見る  作者: ただの紅茶好き
第1章 私の瞳に写るもの
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第三話 特技という名の必須技能

 超大型ダンジョン、それはこの街ガルドラの最南に位置するダンジョンを指す単語。この世界にはいくつかのダンジョンが存在するがその中でも一際大きく、未だに攻略済みの階層においても未開拓の領域が発見させることも多く今回の依頼もそんな未開拓領域の調査である。


 ダンジョンの入り口には常に2人の冒険者が待機している。理由は2つあり、一つはダンジョンに入る冒険者の依頼の確認とダンジョン入行許可、もう一つはダンジョン入り口の警護である。ダンジョンは稀にダンジョンオーバーと呼ばれるモンスターの過剰出現が起こることがありその対策としてある程度の強さが保証されてるギルド直属の冒険者が配備されてるのである。


 アインは一人のダンジョン入り口にいる冒険者にギルドの依頼の紙とギルドカードを渡してダンジョンに入行して行った。


「さてと…まずは第5階層まで行くところからだな」


 アインは普段第3〜第4階層をメインに活動をしているためその先にはあまり潜ったことがないそのため第5階層に辿り着くことが第一の目標である。


「さてととりあえず2層の浄化の聖域まで走るか」


 浄化の聖域、それはポーションの原材料である水がとれる他に魔物が近づかないという性質があり、多くの冒険者達には休憩スポットとして認識されているのである。


「危ねえ!」


 突如目の前から石が飛んできたのである。あわや衝突という直前でジャンプすることで減速と回避を両立し、止まることが出来た。


 石が飛んできた方向に目を向けると異様な鼻に緑の肌、腰にはボロ衣を纏った魔物、ゴブリンの姿があった。ゴブリンは第1階層から第4階層まで出現するいわば弱い部類のモンスターである。


 ゴブリンのほとんどには知能がない、ただ動くものを見つけたらそいつに突撃していってやられる。そんな魔物だ。だがコイツは明確に走っている相手に殺意を持って石を投げた、つまりコイツは出来るゴブリンなのである。ここでコイツを放置しておくことはあまり良くない。


 故にここでコイツを殺す。そう意識したアインは腰にかけていた剣を引き抜いた。


「◾️◾️◾️◾️!!」


 何を言っているのかも分からない、しかしこちらに危害を加えようとしたのだそれなりの覚悟あっての行為、故に何を言っていようとも殺す。


「フー…()()()


 アインには一つ特技がある、それは魔物の弱点に近い部分を見ることが出来る。アインの目は心を落ち着けることで魔物の弱点に近い部位に線が見える。こその線の少し横を切ることで魔物に大きなダメージを与えることが出来る。今回見えた線は首に一本、身体を斜めに両断するように一本、そして魔石のある位置に一本見えていた。


 しかしこれは高階級の冒険者においては必須とも言える技能である。初見の魔物の弱点を見抜く、コレが出来るか否かで冒険者の強さはある程度測ることが出来るとされている。


「◾️◾️!!」


 線が見えた直後ゴブリンが石を投擲してきた。先ほどの投擲と違い明確な殺意が宿った一撃である。しかしその攻撃はアインに届かない。アインは即座に頭と体を地面スレスレに近づけることで石の下を潜り抜けることが出来た。そしてアインはその体制のままゴブリンに向かって全速力で突っ込み首の線の少し下を手持ちの剣で両断した。


 するとゴブリンは悲鳴一つ出すことが出来ずに頭が地面に転がり直後にゴブリンの死体は灰となって消えた。


「危なかったな、知性あるゴブリンが成長すると厄介だからな、早めに始末できてよかったぜ」


 そう言いながら線を見るのやめたアインはゴブリンの魔石を回収した。


 そして武器を直後に再び走り出し第2階層に向かった。


――――――――――――


 あの後特に魔物との遭遇もなく第2階層の浄化を聖域に辿り着くことが出来た。


 第2階層浄化の聖域、ここでは武器の手入れや使えそうなアイテムの確認をしていた。


 今回アインが持ってきたアイテムは売店で買ったポーション3つ、閃光のスクロール、煙幕のスクロールの他に前のダンジョンに潜った際に残っていた臨時食料、冒険者の必需品外陽の腕輪のみである。


「アイテムは特に落としてないし武器も錆びたり刃こぼれしていない。よし行くか」


 休憩もでき、すっかり疲れの取れたアインはそのまま第5階層に走っていくつもりであった。


 アインは剣を鞘に納めず、抜き身で走り出した。


 そして実際最短ルートで走り出し第5階層に向かって行った。


 第3階層では特に魔物との遭遇もなく突破することが出来た。


 そして第4階層、ここでは魔物との接敵があった石のような肌、先が鋭利に尖った尻尾、1対の豪翼を携えたガーゴイルである。


 精神を統一し線を見るアイン。今回見えた線はそれぞれの翼の付け根付近に一本ずつ見えていた。おそらくまずは機動力を奪えということなのだろう。


「ハッ!!」


 大きく跳躍をし、一息でガーゴイルの翼にあった線の付近を切断した。ガーゴイルは翼を失った結果墜落し地面に叩き付けられることとなった。


「◾️◾️◾️!!」


 自慢の翼を落とされた挙句地面に叩き付けられたガーゴイルは怒りコチラに突進してきた。


「それは見切っている」


 そう言い放ったアインの直後剣を突進してくるガーゴイルの頭の位置に合わせて振るった。


 結果ガーゴイルは体を右と左に分けて逝くこととなった。


 しかし運悪く魔石を破壊してしまった為魔石の回収は出来なかった。


 そのことは気にせずアインはそのまま第5階層に向かって走り出した。


――――――――――――


 ダンジョンにおいて第5階層以降には階層そのものが異名を持つことがある。そして第5階層もとある異名を持っている。その異名とは


「なんとか日が上りきる前に着いたな、第5階層…黒獣の巣」


 黒獣の巣、それは第5階層全域に出現する魔物が全て全身黒色の動物型であることに由来し付けられた異名である。


「さてと、横穴の場所は…うげ、黒蛇の森かよ…」


 黒蛇の森、それはこの黒獣の巣の南西に位置し、黒蛇が多く棲息している領域である。


 そしてそこに生息する黒蛇は一体一体が非常に小さいため補足しづらいが更には透明化の魔法を使える為不意打ちをやからことはまず不可能な魔物である


「仕方ない、ずっと線見続けるか。あれ疲れるんだよな」


 そう独り言を呟いたアインは息を整えて線を見る。未だ周囲には魔物の線は見えない。


 いつでも線を見れる状態になって南西の黒蛇の森に向かって走った。


――――――――――――


 線を見れるの利用して魔物との接敵を回避しつつ黒蛇の森に到着することが出来た。


「さてと…ここからか」


 黒蛇の森は黒獣の巣の中でも最も踏破が難しく、ここだけ第7階層に並ぶ難易度だと言われている。


 より集中し、より意識を線に向ける。そうすることで本来姿を見せぬ者の線を見ることが出来る。


 それによって黒蛇との接敵を極限まで減らすことが出来る。


 しかし接敵を0に出来るわけではない、当然コチラの考えに気づいて自分に追跡してくる個体もいるわけだ。今回は森を半分ほど通過した頃に1体の黒蛇ざ襲撃をしてきた。


「チッ!!」


 黒蛇は常に姿を消している。故に奴を補足する手段は2つ、一つはパーティーを組んでタンクが初撃を受け他の仲間が黒蛇を発見すること、もう一つは黒蛇の音を聞くこと。


 黒蛇は名の通り蛇の魔物である。蛇であるが故に動くたびに鱗が擦れる音がする。ならばその音を聞いて攻撃を回避することは理論上可能である。


 今回アインが行ったのは周囲の音を聞くことと線を見て動きを予想し初撃を回避した。そして回避が出来たのならやる事は一つ、線の付近を切る事だ。


「◾️◾️!!」


 次に黒蛇は背後に回り込み奇襲を仕掛けて来た。


 しかしアインにその攻撃は届かない、アインの首を狙って飛び跳ねた黒蛇の一撃を僅かに身体を捻ることで回避しそのまま黒蛇の頭部の位置に合わせた突きを放った。


 黒蛇は自身の頭が2つに分かれて死亡していった。


 そして黒蛇が落とした魔石を回収しつつアインはそのまま森を抜けるために走り去った。


――――――――――――


 幸いなことにあの後黒蛇に遭遇することなく横穴にたどり着くことが出来た。


「ここか、周囲に黒蛇はいないな…よし」


 アインは周囲の警戒をしつつ横穴に入っていった。しかし未だ線を見ることをやめてはいなかった。


 アインが横穴に入って目に入ったのは下に続く大きな階段である。


「先が見えないほどの大階段があった…これはギルドに報告だな」


 アインはギルドに報告が必要だと思う情報は記憶するように念入りに調査をしていた。


「階段に罠は…特にないな」


 アインは階段に罠がないか一段一段触っていき階段には特に罠がないことを確認して先に進んでいった。


 アインを次に迎えたのは大量の人々が何かに縋るような姿が彫られた巨大な扉である。


「デカいな…俺が160cmくらいだから…目測で10mくらいねぇかコレ…」


 まずアインが持って感想はシンプルにデカい、これにつきる。アインの目測ではおおよそ10mはあるのだからこの感想が出るのも無理はない。


 しかしアインは常に罠を警戒していた。しかし今回は触らなければ罠がどうかわからない状況である。


 ゆえにアインがとった行動は


「罠かもだが…仕方ない開けてみるか」


 アインは罠を覚悟していつでも動けるように慎重に扉を押し開けていった。


 しかしアインの予想と裏腹にその扉や扉の奥に罠が設置されていると言う事はなかった。アインは思わず拍子抜けだなと思ったがその思いをすぐに捨てることとなった。


 アインが目にしたのは無数の墓が規則的にならぶ墓地であった。


「最悪だ、よりによってアンデット系の巣窟の墓地じゃねえか」


 アンデット系、それはこの世に未練を持ってあの世へ行かことを拒んだ者が魔物に変わった姿の総称である。


 アンデット系の魔物を倒すには浄化の聖域の水を教会で浄化した聖水か教会所属の魔法使いが使う神聖魔法を用いなければ討伐出来ないのである。


 そして今回アインが持ってきた装備に聖水は入っておらずアインは教会所属どころか魔法がほとんど使えない。


 ギルドなら聖水を買えたのではないか?もちろん買う事は可能である。しかしアンデット系の魔物が出現するのは第18階層から第20階層、すなわちいくら想定外の魔物出現を予想していたとしてもアンデット系は出ないだろうとアインはタカを括っていたのである。


 ――どうする…撤退か…


 アインは今撤退と前進の境界線にいる。アインは悩む、このまま帰ってもいいが扉以降の情報をほとんど持っていない。


 アインが出した結論は


「アンデット系の魔物が出たら急いで撤退だな、それまでは進んでみよう」


 前進であった。


 そうしてアインは墓が並べられた道を進み、何かないか探す。


 アインはこの場には似つかわしくない一つの異常を見つける。


 女性がいたのである。


 アインは思わず目が丸くなるがアインが本当に驚いたのはそこではない。


 その女は自身のショートの銀髪以外がまるで昔の写真から取り出したかのようにモノクロだったのだ。


 どのアンデット系の魔物の特徴とも一致しない外見、アインは警戒して線を見た。


 だが()()()()()()


「は?」


 アインはその女性に対して二度目の驚愕をした。


 線が見えない。そんな事は今まで一度も無かった。どれだけ自身より格上だろうと線が見えないなんて事はなかったのだから。


 やばい、逃げないと、そんな感情が頭の中を支配した。しかし直後に目の前にその女性が現れて


「見つけた」


 そんな言葉を残して姿を消したのである。


 アインの頭の中には新たな感情が支配した、困惑である。


 魔物らしき者が人語を話した、絶対にあり得ないと思った。魔物とは絶対に言語が伝わらない、それは冒険者以外でも知っている常識なのだから。


 アインはどうするべきか分からなかった。それが自分の判断を鈍らせた。本来なら撤退するべき状況、それなのにアインは進んだ、進んでしまったのだ。


 あの後どれだけ進んでもあの女性が現れる事はなかった。


 そして墓場の最奥にあった神殿らしき場所に立ち入った。


 神殿でさえも間抜けの殻でありどこにも罠はなかった。そして最後に神殿の最奥にある祈りの間に向かった。


 そこにいたのは祈りを続ける聖職者の霊でも無ければ、シスターの霊でもなかった。


 そこにいるのは黒のフードと黒の外套を身に纏い自身の骨姿を隠し、自身よりも大きな大釜を持った魔物、リーパーがそこにいた。




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