第二話 その瞳に写るのは
「決めました、俺はこの依頼を受けます」
そう言って自分が選んだ依頼は第5階層で発見された謎の横穴の調査である。
「お前本気か?ハッキリ言うがこれは明らかに7級どころか5級にすら荷が重い内容の依頼だ。それでもお前はこの依頼を受けるのか?」
どうやら本気でこちらのことを心配しての言葉なのであると分かってしまう。だがこの依頼をこなすことが出来なければ彼女に近づくとこすらできない。
「はぁ…お前がそんな本気の目をしてるってことは止めても無駄だろうな、分かった依頼を受理しよう」
その言葉にアインは思わず目を輝かせていつもよりハイテンションに答えてしまった。
「え!?いいのか「ただし条件がある」条件?」
気分が有頂天になっていたのを遮るようにギルスがその言葉を伝えて来た。それは冒険者にとっては当たり前のことでありアインが最も得意としていることであった
「条件は2つ、1つはやばいと思ったらすぐに撤退すること、どんな些細な情報でもギルドとしてはありがたいからな。そしてもう1つは生きて帰ってくること、これが約束できないのならこの依頼を受理することは出来ない」
それは普段のギルスからは想像もできないような真剣な眼差しであった。
「なぁギルスさん、なんであんたそんなに俺に忠告してくれるんだ?俺なんてギルドにとってもそんな重要じゃないだろ」
なぜ彼がここまでただの一介の7級冒険者なんかにここまで気をかけるのか、代わりなんていくらでもいるだろうに少なくともアインにはなぜこんな対応をするのか理解に苦しんでいた。
「なんでだって?そんなの決まってんだろ、もう誰かが死ぬのが見たく無いからだよ。お前ら冒険者はいつもそうだ、俺ならやれる、俺なら大丈夫って言って死んでいくんだ。もう辛いんだよ…知ってる誰かが、止められたかもしれない誰かが死ぬのは」
静かに、されどその言葉には強い意志が込められていた。おそらくそれはギルスという男が初めて腹の内を晒した瞬間だったのだろう。
ならばその思いを踏みにじることは決して出来ない。
「分かった、その条件でいいなら従おう」
彼が覚悟を見せたのなら自分がその覚悟を見せないのでは筋が通らないではないか。
「感謝する、それと少し時間をくれ気持ちの整理をつけたい」
どうやら先ほどの言葉は無意識に出てしまった言葉だったのだろう。それが今になってようやく色々な感情が押し寄せごちゃ混ぜになっているのだ。
「分かりました、少し売店で必要な物を揃えてきます」
「すまん、助かる」
――――――――――――――
売店には様々な物が売っている。ダンジョンの攻略において必須とも言えるポーションに始まり魔法使いが魔法行使に使う魔素の吸収効率を高める装備品、目眩しの魔法が込められたスクロール、果ては使い道のない対人アイテムまで幅広く売っているそれがギルドに設置してある売店なのだ。
アインは今ポーションの吟味をしている。売店並ぶ物のためある程度の質は保証されているがそれでも良し悪しはあるものだ。
良いポーションを見極めるにはいくつかコツがある。一つはポーションの透明度が低くこと。理由としてはポーションの製造にはダンジョンに自生している魔草とダンジョンの2層にある浄化の聖域に流れている水を調合することで完成するのだが魔草の割合が高いほど効能が高く色が濃い傾向にあるのだ。
もう一つのコツは魔力の含有量が多いことである。魔草とダンジョンに自生しているため高濃度の魔素を蓄えている。故にそれを魔力に変換するために浄化の聖域の水を使用しているのだが前述の理由と同様で浄化の聖域の水の割合が高いほど魔力の含有量が多くなるのだ。
しかしこの矛盾する二つの条件を満たす物は限りなく少ない。そのため片方を満たす物が有ればそれを買うつもりで今ポーションの吟味をしているのだ。
「お、これいいな。あとこれとこれも」
そう言ってアインが手に取ったのは3つのポーションであり全て魔力の含有量が多いポーションだった。
「じゃあ後は…あれを買っておくか」
アインが向かった場所はいくつかのスクロールが売ってある場所であった。
「転移のスクロール…は高すぎて買えねぇなぁ…仕方ない、これとこれ買っとくか」
アインが選んだのは煙幕のスクロールと閃光のスクロールである。煙幕のスクロールは使用直後にスクロールから煙幕が出現する魔法が込められており、視界を塞ぐ他に煙幕の先の魔力を探知出来なくする効果も仕込まれている。もう一つの閃光のスクロールは発動後投擲して着地時閃光が起こる魔法が込められている。
必要な物を買い揃えて会計を行うためにカウンターに向かうアイン。しかしいつもなら誰かしら会計のためにいるのだが今日は珍しく誰もいないのである。
「すいませーん、誰かいませんかー」
しかし返事はない、どうやらもぬけの殻のようだ。
「おかしいな...いつもなら呼べば出てきてくれるんだけどなぁ」
そんなことを考えていると奥から声が聞こえてきた
「すみませーん...いま向かいます〜」
その声が聞こえた直後には細身で背丈の高い黒髪糸目で笑顔の男がカウンターに入って対応をしてくれた。
「いや~すみませんねぇ、今の時間売店にいるの自分だけなもんで...ほんとお客さんには迷惑かけてすいませんねぇ〜えーとポーションが3点に煙幕のスクロールが1点、閃光のスクロールが1点、全部で銀貨1枚と銅貨3枚になります〜」
アインは心の中でなんかコイツ胡散臭いなと思いつつ銀貨1枚と銀貨2枚を手渡した。
「まいどあり〜今後ともどうかご贔屓に〜」
なんだかモヤモヤする気持ちを抑えながら売店をあとにするアイン。
そしてアインの姿が見えなくなるまでお辞儀をし続けていた店員は頭を上げて1人呟く。
「おー怖っわ、なんやあの人、何が見えとんねん...気ぃつけんと」
その言葉を呟く男の顔には冷や汗が滲んでおりなにかを企んでいる...
「おい!!遅ぇぞ!!早くこい!!」
「はい!!すんません!!今行きます!!」
などということはとくになく、同僚のいない職場で一人せっせと働いていた。
――――――――――――――
買い物を済ませたアインは買ったものを持って再びギルスのいるカウンターに向かった。
「おーいおっさーん戻ったぞ、気持ちの整理はついたか?」
アインは恥ずかしさで顔をカウンターに顔を埋めているギルスに声をかけた
「おっさん言うな、で改めてクエストの説明はいるか?」
ギルスは埋めていた顔を持ち上げ真剣な面持ちで答えがわかりきっているであろう質問を投げかえてきた。
「いいや大丈夫だ、それより依頼の許可を出してくれ。」
その言葉を聞いたギルスは真剣な面持ちになり手順を話し始めた。
「分かった、まずはギルドカードの提出を、次にコチラの紙にサインを」
まずギルドカードをギルスに手渡しその後依頼の契約書にサインを書いた。
「ギルドカード及び契約書へのサインを確認しました。これより第5層に存在する横穴の調査をお任せします。横穴の場所はコチラに」
そう言ってギルスが手渡してきたのは横穴の場所が示された第5層の地図であった。
「了解しました。おっさん、行ってくる」
それは聞くものが聞けばあまりにも簡素な受け答えであると思うだろうがそれでも彼らにとってはこれだけでいいのだから。
「おうよ小僧行ってこい、それと生きて帰ってくるんだぞ」
「了解した!」
かくして一人の男はダンジョンに向かった。その背中に一人の男に告げられた一つの思いを乗せて。
えーまずは謝罪を、申し訳ありませんでした!!
Xでもご報告したんですがなんか突然疲れでぶっ倒れたように寝てしまったので投稿が遅れました。
明日はいつも通りに12時投稿の予定です。ですがコチラの予定で投稿が遅れる可能性がございます。
コチラの都合で申し訳ないのですがどうかご理解いただけますようお願いします