第一話 境界線と恋
「おい聞いたか?また生存者が生き残ったらしいぜ」
「あぁ、なんでもパーティーメンバーを見捨てて一人逃げ帰ってきたらしいな」
ダンジョンから傷を負いながらギルドに戻ってきた自分に追い打ちをかけるような話し声が聞こえた。今日も名前どころか顔すら知らぬ誰かが根も葉もない噂を信じて自分を嘲笑っている。
生存者、誰が言い出したかも分からない自分を指す嘲笑の名前。どうやらまともに魔物を倒すことが出来ずに帰ってくるのも揶揄してつけられた名前。だが悪名は無名に勝るとも言う、自分はこの名前はそこまで嫌っていない。
ちなみに訂正しておくと自分は基本的にソロでしかダンジョンに行かない。理由は単純で撤退するか否かの境界線を見誤るかもしれないからだ。
そんなことを思いながら今日も重い足取りでギルドのカウンターに向かい黒髪の少し筋肉質で無精髭を生やした男に声をかける。
「おっさん、今戻った。」
「お、アインじゃねぇかそれじゃギルドカードと依頼完了が分かるもんを提出してくれ。あと誰がおっさんじゃ」
この男の名前はギルス・バルテン。なんの変哲もないギルドの職員だ。
そしてこのアインと呼ばれている男、本名をアイン・オールスといい濃い藍色の髪にフォスフォファライトのような透き通る瞳が特徴の生存者と揶揄されている冒険者である
「はいはい、悪かったってそれでギルドカードと依頼完了の分かるものだったな」
そんなふうに駄弁りながら持っていた袋の中からゴブリンの魔石とギルドカードを取り出しギルスに手渡した。
魔石とは魔物の心臓に当たる部分であり。全ての魔物が持つ魔力の発生源である。それと同時に魔石は常に魔力を発している。
「ゴブリン10体の討伐依頼の完了を確認した。どうする?このまま換金するか?」
魔石は常に魔力を発している。ギルドはこの特性に目をつけさまざまな物を開発しており現在では魔法使いなどの魔力を扱う者たちの魔術触媒に取り付けることで魔法発動の支援をするアイテムの開発に成功している。
それが何を意味するかと言うと例えダンジョンに潜ればいくらでもいるようなゴブリン程度の魔石であったとしてもギルドは金を積んででも欲しいのである。この冒険者が魔石を回収してきてそれをギルドが買い取る。この関係がギルドと冒険者をつなぐ唯一のものである。
「じゃあ頼む」
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その後ギルドにある売店でポーションを買って傷を癒し、疲れを取れたためそろそろ家に帰るつもりで歩いてた
「マズいな…とりあえずで家に帰ってるけどやることが何もない…」
ソロの冒険者にありがちなことだがパーティーで攻略する冒険者やクランを組んで共同生活をしている冒険者と異なり交友関係が狭い傾向にあるのだ。もちろん例外がないわけではないのだがそれでもほとんどのソロの冒険者は交友関係が狭いのだ。
もちろんアインも例外ではなく交友関係が全くといっていいほど無く、一番仲の良い人がギルスだというなんとも悲しいやつなのである。
「寝るにしてもまだ真っ昼間だし…」
家に向かうために人混みに目を向ける。理由はわからなかった、ただ…そのダークエルフの少女に目を奪われてしまったのだ。長い銀髪、宝石のように綺麗な赤い瞳、とにかく彼女から目が離せない。
でも同時に理解してしまう。彼女は強い、おそらく冒険者の中でも屈指の強さだ。だから今の自分では彼女にこの思いを伝える権利すらない、そう思い踵を返してギルドに走っていった。
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「おっさん!今俺が受けられるなかで一番難しい依頼ってなんだ?」
ギルドに入って他の方には目もくれず寝ているギルスの元に走っていった。
「うるせぇ!!いきなりなんだよ!あとおっさん言うな」
どうやら先程まで人が来なかったから気持ちよく眠れていたのだろう。それをアインが邪魔をしたせいでどうやら機嫌が悪いのだろう。少なくともアインは自分の中でそう答えを出した。
「んでいきなりなんだよ、お前が受けられる中で一番難しい依頼か、確かお前は7級だったよなちょっと待ってろ裏から探してくる」
ギルスはそう言うとカウンターから離れて背中側に合った資料保管室に入って行った。
しかしここでアインは一つ疑問に思ったことがある。普段、依頼を受ける際は資料保管室では無く総合依頼板に貼ってある物から取ってきていたからだ。
そんなことを考えているとギルスが帰ってきていくつか資料を手渡してきた。
「待たせたな、お前が今受けられる依頼の中だとこのあたりが難しい依頼だな」
ギルスが手渡してきた資料のほとんどがパッと見ただけでも自分が受けられる依頼の中でもかなりのものだと分かった。だがアインはそれよりも気になったことを質問する事にした。
「なぁギルスさん、なんで資料保管室から依頼を取ってきたんだ?いつもならあっちの総合依頼板から取ってきてるだろ。」
そういいながらアインは総合依頼板を指差した。
「あーそうかお前は知らないんだったな、よしじゃあ1から説明してやろう」
そう言うとギルスはカウンターの下から小さい黒板とチョークを取り出し文字を書き始めた。
「まずギルドには大きく分けて2種類の依頼がある、一つがあそこの総合依頼板に貼り出される一般依頼、10級から6級くらいの依頼は大体一般依頼だ、んでもう一つが特殊依頼、主に5級から1級までの高難易度依頼で特殊依頼は基本的に総合依頼板に貼り出されず資料保管室に置いてある。ここまで聞いて何か質問はあるか?」
そこまで聞いていて疑問を持った部分についてアインが質問をする。
「じゃあなんで俺は7級なのに特殊依頼を受けれるんだ?5級から1級の高難易度依頼なんだろ?」
その疑問についてギルスが黒板に新たに文字を書きながら答える。
「いい質問だな、じゃあ簡単に説明してやろう。まず結論から言うとあくまでもこの区分は大きく2種類に分けた場合の分け方であって実際はこれにプラスしていくつかある、というのが結論だ今回用意した依頼は要審議依頼という区分になる。要審議依頼を簡単に説明するとある程度の難易度は判明しているが正確な調査が上手くいってない場合に使われる区分だと思って貰えればいい」
説明を終えたのかギルスは黒板をカウンターの下にしまった。
「じゃあ改めて聞くぞ、お前はどの依頼を受けるんだ?」
その質問を聞きアインは改めて手元の資料に目を通した。依頼の内容はそれぞれ
第6階層に生息するブルーサーペントの巣の発見及び討伐
第8階層に出現した特殊個体のガーゴイルの討伐
第5階層で発見された謎の横穴の調査
この3つである、おそらくこの中で一番難易度が低いのはブルーサーペントの巣の発見及び討伐だろう、逆に一番難易度が高いのは第5階層にある横穴の調査であると推測できる。ならば自分が選ぶ依頼は決めている。
「決めました、俺はこの依頼を受けます」
ギルド
ダンジョンの管理を行い冒険者に依頼の斡旋を行う組合の総称、ギルドの中には売店や鍛冶屋、食事処も存在しており売店ではポーションや簡易的な魔法が込められたスクロールなどが売られている。
総合依頼板
今作ではクエストではなく一律依頼表記のためクエストボードが名称で使えないので代案としてつけた名前。
総合依頼板には10級から6級くらいまでの依頼かつ一般依頼の区分に当てはまる物が張り出されている。
冒険者の階級
冒険者には階級が存在し一番低い階級が10級で一番高い階級が1級である。自身の階級はギルドカードに表示されておりギルド側はギルドカードを確認することで冒険者の階級を把握している。
階級を上げる方法は様々だが主な方法は自身より強い敵に勝つ、長期間の訓練を行うなどである。
ギルドカード
ギルドカードには持ち主の名前、生年月日、階級が書かれており身分証としても使うことができる。
何もしていない時は鉄の板だが血をつけることで情報が刻まれる。
冒険者の状態と連動しており冒険者の階級が上がるとギルドカードも連動して表示される階級も上がる。
別にステータスが見れたりなんてことはない。ステータスを出す予定もない