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14話 そんなの、アリですか?


 元の席に戻ると、シンが手を合わせて小声で謝ってきた。頭を何度も下げて、申し訳なさそうなのがひしひしと伝わってくる。



 先ほどソフィーに会ったが、お咎めなしだったので私はもうすでに気にも留めていなかった。私は、その手を下げさせて首を緩く振った。




「もういいよ」



 突き放した言い方になってしまったようで、シンは衝撃を受けて固まってしまった。呼吸も止まっているように、完全に停止をしている。




(まあ、動き出したらめんどくさいし。このままでいいか)



 そう思いながら、スクリーンを見上げた。少し感じるイアンの視線には、気がつかないふりをしておく。 視線を絶対に、両サイドに移してたまるものかと真剣にスクリーンを見る。




「あ、あの……」



 おそらくシンが、私に話しかけてきている。しかし、名前を呼ばれたわけでもない。この子犬をどう扱ったらいいのか、分かりかねている。




「エマ、さっきのは……どういう……」



 名前を呼ばれてしまって、視線を動かすしかなくなった。首だけを少し動かして、耳を傾ける。しかし、それ以上何も言ってこなくなってしまった。どうやら私の言葉まち、と言ったところだろう。




「もう気にしてないから。今度は、寝ないでね」



 顔が晴れて、ものすごい勢いで首を縦に振った。もうその様子は、おやつをもらった子犬のようだ。



 左隣のイアンが口に出して、うんうんと言っているのが聞こえてきた。イアン的にも、丸く収まったと納得してもらえていると私はあんそのため息を漏らした。




「さあ、次が始まりますよ」



 スクリーンには、次の対戦の惑星二組が映し出される。金星人と木星人の戦いだ。



 金星人は、全身を真っ白な艶やかな機械的なボディに包まれている。かなり硬質的で、400度近い金星でも溶けない身体になっている。


 私たちの使用していたサイズと同じピコピコハンマーを片手に、頭上にはついているはずの紙風船がついていない。



 金星人のひとりが、器用にバルーンアートを作っている。キュッキュッと風船が擦れる独特の音を漂わせて、大きな瞳をゆっくりと瞬きをする。



 イヌの形やうさぎの形…… と次々に完成をさせていく。スクリーンをのぞいている私たちは、何を見せられているのか興味津々だ。



 そのバルーンアートをそれぞれの頭につけていく……。



(あっ、えっと? そんなのアリですか?)



 白いボディーに、カラフルなバルーンアートが華を飾る。桃色や黄色に緑。首の動きが機械独特で、頭についたカラフルな風船がビヨンと動く。




「何してんだ? 遊んでるのか……? くくく」



 他惑星人たちからも、疑問と笑いが起きている。そんなおふざけモードの金星人は、ぎこちない動きでピコピコハンマーを振り下ろす動作をしている。



 隣に座るイアンは、限界らしく口を押さえて下を向いていた。肩がカタカタと震え、笑いをなんとかして堪えているのがよくわかる。



(この光景は、誰でも笑うよねっ!)



 対する木星人は、画面に映らないほどの小さなサイズだ。3センチの体は、薄紅色の半透明だ。いわゆる彼らは、宇宙微生物と言われる生物だ。



 小さくて、目を凝らしても見えない。もちろんその小さな姿なので、普通に考えれば戦いにすらならない。なので、たくさんの数が集まって一つの大きな生物の姿を形作る。




 小さなイワシの群れのように、空中を泳ぐように飛び回っている。



 薄紅色の木星人は、小さな小さなピコピコハンマーに紙風船を持っている。バタバタとして飛んでいるからか、ずっと同じ形を維持してはいられない。少し波を打つ動きを見せる。





「……あれは、どう戦うんだ?」

 


 シンは、スクリーンに釘付けになって戦い方について思案している。この場でおそらく唯一、そんな真面目にこの戦いを見ているのだろう。



「シンならどうする?」




 私もその答えは、知りたい。どう戦えばこの微生物に、勝つことができるだろうか。単純に考えれば、小さい生き物なのだから手で潰してしまうように叩けばいいだろう。しかし、今回は紙風船を割らなければならない。



 その紙風船をその集団の誰かが、持って移動されたら? きっと、届かなくなってしまう。



「う、う〜ん。どうかな。やっぱり、全部叩いていくしかないかも」




「まあ、それが確実だよね。でも、そんなことしてられないと思うんだよ」




 正論をシンに、ストレートに投げ返す。目を瞑って、目頭を押さえて頭を抱え初めてしまった。そこまで悩ませるつもりは、なかったのだが。




「この戦いを見ていたら、少しはわかるかも。それにもし戦うことになっても、決勝戦な訳だし。まだ時間は、あるよ」



 

 シンが息を呑むのが、視線を落とさなくとも聞こえてくる。



(あの。私じゃなくて、スクリーンを見て)



 シンからの、真っ直ぐに刺される視線が痛すぎる。肌がヒリヒリとする感覚がして、私は一瞥した。ぴくりと肩を跳ね上げ、スクリーンに齧り付いた。


 


 


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