ばにかふぇ☆ばにばに〜黒い下心を添えて〜
『バニーカフェを開くことになりました。無料招待券をあげますので、よければいらしてください』
そんな内容の手紙が届いたのが、今朝。
ルージュ・ロックハートは警戒していた。非常に警戒していた。
だって何故なら去年と同様の手口なのだ。去年は植物園で開催されたアフタヌーンティーで地獄を見たのだ。今年は何だか意味不明な催し事でよからぬことを計画されているかもしれない。
気分の乗らないルージュは深々とため息を吐き、
「でも、行くだけですの……そうですの……」
知的好奇心があれしてああしてしまったので、バニーカフェとやらに行くことを選んでしまった。
☆
バニーカフェとやらは、大食堂で開催されているようである。
「学院長さんがよく許したんですの」
ルージュがそんな独り言を呟きながら、大食堂の閉ざされた扉を見上げる。
いかにもカフェらしく飾り付けされており、看板にも兎の絵が描かれていて可愛らしいことになっていた。バニーカフェということは兎がたくさんいる動物系のカフェだろうか。
そういえば、校舎内にも問題児が兎を散歩させていたところを何度か見たことがある。「ぷ、ぷ」と甲高く鳴く兎は可愛いものだが、実はあの兎は凶暴な魔法動物なのだ。絶滅危惧種に指定されているものの、咬合力が非常に高いので腕ぐらいなら食いちぎれるぐらいの顎の強さを持っている。
そんな兎をカフェの主題として扱うと、間違いなくルージュは四肢を食いちぎられかねない。確かに小動物は可愛いけども!!
「や、やっぱり止めて……」
「おや、ルージュ先生。いらっしゃいませ」
急にバニーカフェの扉が部屋の内側から開かれ、ひょこりと問題児の1人が顔を覗かせる。
アズマ・ショウ――異世界出身の特殊な事情を抱えた問題児の少年だ。最年少問題児で、問題児筆頭と名高い銀髪碧眼の魔女に心酔しており、彼女に害なす行動をすれば暴力でもって応じてくる頭のおかしな狂信者である。ルージュも何度か彼に対して暴力を振るわれたことがある。
そんな彼は現在、可愛らしいメイド服に身を包んでいた。いやメイド服は彼のいつも通りの服装なのだが、今日に限って言えば頭頂部から兎の耳がぴょこんと伸びている訳である。ご丁寧にピロピロと揺れていた。
ショウは赤い瞳を瞬かせ、
「どこかにお行きですか?」
「いえ、あのー……」
ルージュはどう答えたものかと言い淀むが、相手が問題児なので正直にぶち撒けることにした。
「兎がテーマのバニーカフェなるものにやってきましたけど、問題児が主催となっているのであればわたくしの身に何かが起こりそうですの。丁重にお断りさせていただいた上で帰らせていただくんですの」
「そんなことしませんよ」
「そんな言葉を信じられるかってんだですの!!」
怒りを露わにするルージュに、ショウはちょっと唇を尖らせて「そんなことしないですもん」と言う。
「今日はルージュ先生のお誕生日なので、純粋にお祝いしたかっただけですもん」
「去年のようなことがあるんですの」
「それはルージュ先生がユフィーリアに毒草ブレンド紅茶を振る舞って保健室送りにしたからでは? 最近、そのような心当たりはあります?」
「…………」
ショウに指摘され、ルージュは己の行動を振り返る。
そういえば、そんな行動は最近していない気がする。何かと全力で回避されるし、創設者会議でも最近では問題児のお茶汲み係であるアイゼルネがやってくるようになってしまったのでお茶を入れる機会がなくなってしまったのだ。
ショウの行動の規範は銀髪碧眼の魔女に危害を加えたか否かなので、危害を加えていない場合は何も被害はないと見ていいはずだ。絶対にそうである。
可憐に微笑んだショウは、
「さ、どうぞルージュ先生。せっかくのお誕生日ですからね、たくさん楽しんでいってください」
「分かりましたの。そこまで仰るのでしたら楽しませていただくんですの」
「はい、ぜひ。可愛いウサちゃんいっぱいいますので」
ショウの言葉に、ルージュはちょっと嬉しくなってしまう。
動物は何であれ、好きである。猫でも犬でも兎でも好きなのだが、体質なのか香水が悪いのか小動物から警戒されがちなのだ。猫カフェも犬カフェも他の客よりも疎外感を味わう始末である。
問題児が計画するバニーカフェだから、もふもふ兎ちゃんがたくさんいるだろう。彼らの飼っているあの兎ちゃんを撫でられる日が来たのかもしれない。家に帰ったらケルベロスのキャンディーが嫉妬しそうなものだが、今だけは小動物の可愛さで日頃の疲れを癒やされたいところだ。
ショウはルージュをエスコートするようにカフェの扉を開け、
「1名様ご案内です。盛大におもてなしをお願いします」
その声に応じたのは、
「お帰りぃ、ご主人様ぁ」
「お帰りご主人!! 待ってたよ!!」
「うむ、よく帰ってきたな主人よ。歓迎するぞ!!」
「おう、お帰りお嬢。お勤めご苦労さん」
「お帰りなさい、お姉さん」
「お疲れ様であるぞ、我が主人。さあおもてなしの時間だ、主人は椅子にかけて待っていてくれたまえよ」
たくさんの、男どもの声である。
待ち受けていたのはエドワードとハルアの問題児男子組と、オルトレイ、アッシュ、リアム、そしてアイザックの冥府総督府の面々が揃いも揃っていた。野性味溢れる顔から正統派イケメンまで勢揃いし、なおかつ彼らの頭頂部では兎の耳が揺れている。バニーガールならぬバニーボーイである。
しかも兎の耳だけではなく付け襟にアームカバー、それから尻肉まで見えてしまうのではないかとばかりに短いズボン、太腿まで届くロングブーツ、付け加えて言うならそれ以外の装備品はないという非常に目のやり場に困る服装をしていた。分厚い胸筋、綺麗な腹筋、鎖骨の溝まで見放題である。
彫像の如き筋肉を晒すエドワードやしなやかで初々しい筋肉のハルア、年齢を重ねていながらも均整の取れた肉体美を見せるオルトレイなどよりどりみどりの筋肉たちがお出迎えしてくれてルージュも我が目を疑った。
「桃源郷ですの!?」
「逆バニーカフェですが」
「可愛い兎ちゃんは!?」
「いるじゃないですか、兎の耳を装備した可愛い雄の兎ちゃんたちが」
朗らかに笑うショウに、ルージュは反応に困った。
いやだって、相手はショウの大切な用務員の先輩である。そしてその他は父親の同僚でもある。確かに普段から「ああ、いい筋肉してるんですの」なんて見ちゃってはいたけれど、これはもう合法的に触りたい放題ではないか。
あまり破廉恥なことをすると、今度はエドワードとハルアの上司である銀髪碧眼の魔女がすっ飛んでくる。仲間を大事にする彼女のことだ、きっとお触りした瞬間に脳天へ氷塊が落ちてくるはずだ。
あらゆることを想定して警戒するルージュだが、
「お、ルージュじゃねえか。いらっしゃい」
「いらっしゃいまセ♪」
「はうあッ!?」
厨房から出てきた2名の追加人員を目の当たりにして、ルージュは声をひっくり返す。
現れたのは銀髪碧眼の長身イケメンと、緑髪が特徴的な綺麗な筋肉が特徴のイケメンである。どちらも筋肉を惜しげもなく晒す破廉恥な格好をしており、これまた目のやり場に困る。
こんな人員がいただろうかと記憶を探ると、そういえば言葉遣いに記憶があった。あの問題児筆頭と優秀なお茶汲み係である。
ユフィーリアとアイゼルネの2人が男性化していやがった。何と言うことでしょう。
「ゆゆゆユフィーリアさんッ!? あな、貴女、何て言う格好を!?」
「今は男だからいいだろ」
ユフィーリアは雪の結晶が刻まれた煙管を咥え、ケラケラと軽い調子で笑う。
現在のユフィーリアは性転換薬でも飲んでいるのか、しなやかな筋肉を兼ね備えた美丈夫と化していた。身長も高く、惜しげもなく晒される筋肉が艶かしい。肌にも傷ひとつないので惚れ惚れしたくなるほどだ。
同様にアイゼルネも性転換薬で性別を変えているようで、いつもの妖艶な肢体は全て筋肉に変換されていた。豊満な胸も今や立派な胸筋である。ムチムチの美女がムキムキの美男子である。
こんな夢のようなカフェがあってたまるか。
「ショウさん、わたくしを殴ってくださいですの」
「どうしました、一体。暴力の気持ちよさに目覚めました?」
「拳を構えながら言わないでもらえませんの!?」
「忙しい人ですねぇ」
拳を構えるショウから距離を取るルージュは、
「こんなッ、こんなカフェなど何か裏があるに決まっているんですの。何が目的ですの!?」
「純粋に誕生日プレゼントですが」
「誕生日プレゼントがこんな天国のような空間ですの!?」
「おや、十分に楽しんでいらっしゃいますね」
ショウはニコニコの笑顔で手を叩くと、
「ほらウサちゃんたち、ご主人様をおもてなししてあげないと」
その合図を受けた筋肉ウサちゃんたちが動いた。
「はい、ご主人様はこっちねぇ」
「きゃあッ!?」
いきなりエドワードにお姫様抱っこをされたと思えば、連れて行かれた先はきちんとテーブルクロスがかけられた机である。真っ白でメルヘンチックな机と椅子の組み合わせは、さすがカフェを名乗るだけはあるデザインと言えようか。
ちゃんとクッションが置かれた椅子の上に座らされ、ルージュはあまりのことに固まってしまう。こんな目のやり場に困る格好をした筋肉野郎どもが、目の前で己の肉体美を惜しげもなく晒しながら動いているのだ。しかも今回は注意してきそうなユフィーリアやアイゼルネでさえも、同じように男性化した上でバニーボーイを演じている。
これはもう、触ってもいいのでは?
「はい、ご主人!! メニューあるよ!!」
「食事系も充実しているぞ。腕によりをかけるつもりだ」
そんなことを言いながら、ハルアとオルトレイがそれぞれメニューを差し出してくる。
食事系と飲み物系でメニューが分かれているのかと思いきや、片方は確かに食事系のメニューだった。『兎ちゃんのふわとろオムライス』とか『兎ちゃんのきゅんきゅんパフェ』とか可愛らしい内容の料理がずらりと並んでいる。料理長にユフィーリアがいる時点でそのレベルの高さはお察しだ。
問題はもう片方のメニューである。『なでなで』とか『だっこ』とか『えさやり』とか小動物を取り扱うカフェの代表的なものがずらっと並んでいた。もちろんここには小動物はいない。
つまり、これらのメニューに対応しているのは。
「ハル、ハルア、さん?」
「何!?」
「こちらの『なでなで』とか『だっこ』のメニューは」
「誰がいい!?」
たまたま近くにいたハルアに問いかけたら、まさかの兎が選択制だった。選べるのか。
「ユーリとアイゼはご飯係だから対象外ね!!」
「対象外なんてあるんですの」
「それ以外は選び放題だよ!! 誰でもいいよ!!」
狂気的な笑顔でそんなことを言うハルアに、ルージュはさらに混乱した。
だって、こんなの選べないではないか。筋肉兎ちゃんたちを目の前で可愛がれるなんてまたとない機会である。
だがルージュはここに1人しかいない。2人も3人もいて感覚を共有できるのであれば、全財産叩いてもいいから全員分を堪能したいところだが魔法でもそんな芸当は不可能である。選びたい放題の中から1人を選ぶなんて難しい。
だが、やはりここは本能に従うまでだ。誕生日プレゼントなら楽しむべきである。
「で、では、エドワードさんに『なでなで』を10分ですの」
「ご指名入ったぞ」
「ご指名入りました!!」
オルトレイとハルアの声が食堂内に大きく響き渡る。
選んでしまった。
ついに選んでしまった訳である。ちょっと心臓が壊れそう。
ドキドキしながら待っていると、ついに指名した兎ちゃんが目の前までやってくる。
「ご指名ありがとうございまぁす、ご主人様ぁ」
ちょっと恥ずかしそうに笑うエドワードが、ルージュの目の前にやってくる。
夢にまで見たエドワードとの接触である。普段は遠目から見ることしか出来なかったが、この圧倒的筋肉量を誇るエドワードと触れ合ってみたかったのだ。
撫でやすいように、エドワードがルージュの前で膝を折る。跪いたことでエドワードがルージュを見上げるような体勢になり、銀灰色の双眸がルージュの反応を伺うように見据えてくる。
「『なでなで』は頭だけねぇ。身体の方は別メニューですぅ」
「あら、そうなんですの」
それでは失礼して、とルージュはエドワードの頭を撫でる。
指先で感じる彼の髪はちょっとチクチクしており、日の当たり方によっては銀髪に見えるそれは少しばかり硬めの髪質である。チクチクとした触り心地は小動物にはない気持ちよさである。
頭を撫でられたことで、エドワードは気持ちよさそうに目を細める。頭から耳、頬と順番に撫でていくと、頬を撫でている途中でエドワードがルージュの手のひらに擦り寄ってきた。
「ご主人様、撫でるの上手いねぇ」
ふにゃりと蕩けたように笑うエドワードに、ルージュの心臓が変な音を立てる。
これはもう色々と危ない。
理性が「この男に堕ちるのは危険だ」と告げている。でも本能ではもっと撫でたくて仕方がないので、エドワードの頭を撫でる手を止められない。
このあと、きっかり10分間はちゃんとエドワードの頭を堪能した上で『だっこ』のメニューも注文しておいた。誕生日プレゼントなのだから存分に楽しまなければ。
☆
先輩たちの接客対応を眺めながら、ショウはニコニコの笑顔で「よし」と頷く。
「これで誤魔化せるな」
「な、なあ、ショウ坊よ」
ちょっと恥ずかしそうに厨房から顔を出したのは、性転換薬を飲んだユフィーリアである。男性になってもその美しさは損なわれず、ショウは何度見ても惚れ惚れしてしまうほどだ。
「あの、これいい加減に恥ずかしく」
「既成事実」
「すんません、黙ります」
旦那様からの要求を四字熟語で押さえつけたショウは、
「ユフィーリア、忘れないでくれ。これは罰だぞ?」
「ひゃい……」
「俺に意見があるのか、ユフィーリア? あるなら言ってくれ、その格好のまま俺は貴女をお買い上げして既成事実に持ち込むぞ」
「勘弁してください、想像しただけで鼻血が出そうになるんです……」
魔法の天才にして問題児筆頭を言葉だけで黙らせたショウは、ユフィーリアがすごすごと厨房に引っ込んでいくのを見送る。アイゼルネも何だか申し訳なさそうにしていた。
実は、純粋にルージュの誕生日をお祝いしていなかった。ちゃんと下心があるのだ。
その下心を、ショウは弱みとして握っている。だから誰も文句は言えないし、あんな破廉恥極まる格好をしていてルージュに撫でくりまわされていても誰も助けられないし文句も言えないのだ。
きっかけは2週間ほど前に遡る。
☆
「…………」
ショウと、その実の父親であるキクガは目の前の惨状に白目を剥きたくなった。
大量の魔導書を擁する魔導書図書館――そこが何故か、ものすごーく荒れ果てていた。
本棚は軒並み倒れ、魔導書は散乱し、何故か床にはタイヤの跡が残されており、大量の鳩がそこかしこにくるっぽーしていた。「夢かな」と思って頬をつねったりもしたが、夢ではなかった。
そして、この現状を作り出した馬鹿野郎どもは仲良く並んで正座していた。
「ユフィーリア、エドさん、ハルさん、アイゼさん」
「オルト、アッシュ、リアム君、アイザック君」
ショウは頼れる先輩たちと愛しの旦那様の名前を呼び、キクガは同僚たちの名前を口にする。
「何してるんだ」
「何してるのかね、君たちは」
それに対して、4組の馬鹿親子どもは揃って土下座をした。
「ごめんなさい」
「悪気はなかったんですぅ」
「ちょっと盛り上がっちゃったんです!!」
「本当に悪かったワ♪」
「すまなんだ」
「悪い」
「ごめんね」
「申し訳ない」
本人たちは痛く反省しているようだが、この惨状はさすがにどうにもならない。
父親と親子2人で購買部までお出かけしていたら、ハルアから「大変だ、ショウちゃん!!」と通報を受けた訳である。来てみたらユフィーリアとオルトレイのエイクトベル親子は喧嘩をし、エドワードとアッシュのヴォルスラム親子は魔導書を食いちぎり、リアムとハルアのアナスタシス親子は二輪車で本棚を薙ぎ倒しており、アイゼルネとアイザックの親子は手品対決をするという混沌とした空間が出来上がっていた。
諸々を仲裁して取りなしていたら、もう見事な大惨事であった。これは一体どうすればいいのか。考えたくない。
ショウはため息を吐き、
「ユフィーリア、さすがに擁護できない。ルージュ先生に大人しく怒られてくれ」
「そ、それは困る!!」
ユフィーリアは泣きそうな顔で、
「次に魔導書図書館で何かやらかしたら、性転換薬を飲まされた上でご奉仕させられるんだよ。どうにか回避してえ」
「もはや貴女の自業自得ではないか」
ショウも悩むところである。
最愛の旦那様も、頼れる先輩たちも助けてやりたいのは山々である。でもこの惨劇をルージュに見つかる前にどうにか出来ない。
本は食いちぎられているし、本棚は倒れているし、たくさんの鳩がくるっぽーしている時点でもう頭を抱えたい。これをどうにか出来るのは異世界知識でも無理な話である。
「どうにか出来たらユフィーリアに既成事実を作ってもらうしかないな……」
「鼻血で死ぬってそれ!!」
「ユーリぃ、いい加減に腹を括りなよぉ」
「男を見せなよ、ユーリ!! 旦那様でしょ!!」
「ファイト♪」
「何言ってるんですか。エドさんとハルさんとアイゼさんは俺が抱き潰します、脱げ先輩ども」
「「「あれぇ!?」」」
予想外の答えに、エドワード、ハルア、アイゼルネが目を剥いた。
「え、と。ショウちゃん、それはさすがにぃ」
「無理があるよ!!」
「別におねーさんはいいけれド♪」
「お使いになりますのはこちらです」
ショウはポンと手を叩く。
足元から生えた腕の形をした炎――炎腕が、何本も彼らの前に何かを置く。
それは大人な【自主規制】であった。しかも割と大きめである。痛えどころの話ではない、凶悪な代物がたっぷりである。
泣きそうな表情で見つめてくる先輩たちに、ショウは笑顔で「大丈夫ですよ」と言う。
「こちらの商品、皆さんのお父様にも使わせていただきますので」
「その凶悪なブツをどうする気だ!?」
「妻子いるんだぞこっちは!?」
「酷いよ」
「考え直したまえ!?」
オルトレイたちの冥府組から文句が噴出するが、
「…………ほう?」
キクガの発した声で、場の空気が2度ほど下がった。
「ではどうすると? ルージュ君にバレる前にこの魔導書図書館の惨状を片付けると言うのかね? 誤魔化すのは誰が? 我々か?」
「それは……」
「そのー……」
「考えて発言をしなさい。君たちは文句を言える立場ではない」
怒らせると怖いを体現するキクガに一喝され、ショウを除いたその場の全員が土下座の体勢に戻る。
とはいえ、最愛の旦那様と頼れる先輩がご奉仕させられるのはどうだろうか。お金をもらえるならまだしも、無料でそこまでやらされているのを見たくはない。
ならばどうしようか。どうやって誤魔化そうか。
――意外と簡単な方法がある。
「ユフィーリア、どうにかしてほしいか?」
ショウの問いかけに、ユフィーリアは青い瞳を瞬かせた。
「どうにか出来るぞ」
「ほ、本当か!?」
「ああ」
女神のように微笑んだショウは、
「まあ多少の犠牲は払うことになるが、お金も稼げるし一石二鳥だ」
そんな訳で、提案されたのがこの逆バニーカフェである。
雇われた兎ちゃんは、全員ショウに弱みを握られた可哀想な兎ちゃんなのであった。文句は言えない立場である。
魔導書図書館の荒れ具合は、学院長のグローリアに直してもらうことにした。「実は俺がやりました、ユフィーリアのあれがあれしてああだったので」という理由で納得してくれたし、あとで学院長とルージュから怒られるという事案が発生したが、旦那様と先輩たちの名誉を守れるなら罪を被るのも悪くはない。
文句が飛べば既成事実という状況で弱みを握られた兎ちゃんを眺め、ショウはバニーカフェの運営に精を出すのだった。
《登場人物》
【ルージュ】本日の主役。誕生日だからとバニーカフェを堪能。筋肉好きなのでよりどりみどりの筋肉たちに鼻血を出しそうになりながらも楽しんだ。
【ショウ】バニーカフェの支配人。魔導書図書館で暴れたという旦那様と先輩たちの罪を被り、反省文と掃除を真摯に対応した。代わりにルージュにお詫びの品として逆バニーカフェを開催し、弱みを握った連中を兎に仕立てて店頭に立たせた。意外と怖い。
【ユフィーリア】お料理担当逆バニー。お料理大好きな兎ちゃん。気が向けばお話ししてくれるかも?
【エドワード】バニーカフェきっての筋肉兎ちゃん。抱っこが得意で、お客様をお席まで運んでくれるよ!
【ハルア】元気いっぱい兎ちゃん。なでなでされるのが大好きだよ!
【アイゼルネ】お茶汲み担当バニー。手品が得意だよ! 頼めば見せてくれるかも?
【オルトレイ】ちょっと偉そうな兎ちゃん。色々と物知りだよ!
【アッシュ】狼さんっぽいけど兎ちゃん。恥ずかしがり屋だけど毛皮のふわふわさは店内随一!
【リアム】無表情な兎ちゃん。でもなでなでされると笑ってくれるかも?
【アイザック】お芝居大好き兎ちゃん。本物の兎ちゃんをたくさん連れてくるよ。
【キクガ】実は店舗の隅で、脱走しようとした兎ちゃんを捕まえる役目をしていた。脱走は許さねえ。