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小説 祇園精舎の鐘の声  作者: 積 緋露雪
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 闇に染まるとは自己喪失の最も楽(、)な術であったが、全身これ闇色に染まってみせた「透明な存在」のその少年は、さうすることで、反社会的な行為を全て自己肯定してゐたのであらうか。仮にさうならば、何に依って自己肯定できたのであらうか。思ふに、その「透明な存在」と己を名指して悦に入ったであらうその少年は、己を「透明な存在」と名指したことで、自己免罪符を己に与へ、とはいへ、それは徹頭徹尾欺瞞の中での足掻きでしかないのであるが、「透明な存在」と名指して己を宙ぶらりんの状態に保留する形で、または、返って「透明な存在」といふAmorphous(アモルファス)様に己を規定することで、少年の内部に巣くふ異形の吾が自在を嗜むことを覚え、その少年に対して拍手喝采を送り、もしかしたならば、その少年は異形の吾に丸呑みされてしまったのではなからうか。つまり、その少年は魂魄すら闇色に染まってしまったのではなからうか。人身御供としてその少年は既に異形の吾に丸呑みされてゐたことで、「にんげん」であれば越えられない一線を何の迷ひもなく、猫殺しに始まったといはれる殺戮といふその少年にとっては性欲を昂進させ、これ以上ない至福の時、それはMasturbationによるOrgasm(オルガズム)を深く深く深く堪能するためのオカズ(、、、)としての殺戮であって――それは血腥い臭ひを放たなければならず、その臭ひが少年のMasturbationには必要不可欠で、血の臭ひを嗅いだだけで少年の性器は勃起した筈だ――その少年にのみ当て嵌まる「にんげん」であれば必ず嘔吐を催すその独特の自己耽美の世界を創出するべく、少年は生き物を血祭りに上げたに違ひない。殺戮が「美」と結び付いてしまったその少年と、その少年を丸呑みしたに違ひない少年内部で大手を振るってゐた異形の吾が手を携へて「美的世界」に惑溺しながらMasturbationをして果てるOrgasmを体験したその少年は、生き物を殺戮する度に異常興奮した筈である。その挙げ句が、その少年よりも羸弱な幼子を殺して、血腥い臭ひを思ひっきり堪能できる首の削ぎ落としなのだ。その時のその少年の惑溺ぶりは尋常ぢゃなかったに違ひない。興奮も絶頂を通り越した自己陶酔に惑溺する悦楽も気絶するほどで、その少年の悦楽の欲求は男性といふよりも女性のOrgasmの欲求に近しいのかも知れず、その少年の欲深さは底知れぬもので、凄惨な現場でその少年は何度も何度も射精しながら、幼子の首を削ぎ落としてゐた筈である。

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