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小説 祇園精舎の鐘の声  作者: 積 緋露雪
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十四

 この高度情報化科学技術文明の目覚ましい発展の、然し乍ら、問答無用の驀進は、ある人人にとってはとても生きやすい環境に違ひなく、時流に上手く乗れた人人にとっては笑ひが止まらぬであらうが、一方で、この高度情報化科学技術文明と水が合はずにありながら、それでも時流に乗り遅れまいと歯を食ひ縛り、必死にしがみ付く人人がゐて、多分、其方が大多数だと思はれるが、生き残るためにはいくら水が合はぬからといって、自分が生まれ落ちた時代に対してそれに真っ向から楯突く人は稀と思はれ、大抵は自分が生まれ落ちた時代に対して、文句の一つや二つはあらうとも適応しやうとするのが、そして、時代に自分の居場所を見つけては倹しい暮らしをして行くことで幸福を見出す人たちが殆どであると思はれるのである。ところが、天から絨毯爆撃で爆弾が降ってくることがない代はりに、災害で家が壊され已む無く家を追ひ出されるまで家の部屋に籠もる人人が膨大な数に上ってゐるのであった。それは先に書いたやうに高度情報化科学技術文明に傷ついた人人や、結果としてこの高度情報化科学技術文明に因があると思しき人間関係の(こじ)れで多勢に無勢で徹底的に、中には死すまで追ひ詰められたこともある、陰湿を極めた残酷な人間による仕打ちを受けたことで、人間不信に陥り、最早社会との接点を取り結ぶその術が断ち切られてしまった膨大な数の人人が籠もってゐるのである。在り来たりの人が極度の人間不信に陥ることは日常茶飯事で、また、それはある日突然やってくるのであった。それには例外は存在せずに、多数派の多勢に狙はれたならば、最早逃げられぬのである。その因はもしかしたなら多かれ少なかれこの高度情報化科学技術文明が齎す過重なストレスによるのか、陰湿極まりない虐めが始まるのであった。それに手加減はなく、徹底的に相手が苦悶の中で滅んで行くまで、虐めは行はれるのである。歯止めが利かぬのであった。それは幼き頃他者と一緒に群れなして外を駆けずり回って人の痛みや群れのルールなどを学ぶ機会を失ったために歯止めが利かなくなったともいはれてゐるが、虐められてゐる方は生き地獄である。虐めから逃れるためには死するか籠もる外ないのであった。絶望の世界から逃れるにはそれ以外ないのである。他者の普通の日常を奪った虐める側にしても事情は差して変はらず、やらなければ、やられるといふ関係性しか他者と関係が結べないその怯えが事の本質に横たはってゐるのであった。ハラスメントも同じやうなものであった。ハラスメントする側には本質として他者に対する怯えが潜んでゐるのであるが、当の本人はそれには全く気付かず、エヘラエヘラ、と嗤ひながら他者に対して徹底的なハラスメントを行ふのである。これまた、容赦がないのであった。これも、例へばAI(人工知能)と過度に関はらざるを得ぬ現代文明が、生身の対他者に対する怯えを増幅させてしまふからなのだらう。

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