第9話:夫婦で行く旅行
【夫婦で行く旅行】
誰かと旅行に行くときは、まず相手のことを考えなければならない。
自分に興味があってもパートナーに興味がなければ意味がないし、体力面なども考慮しなければいけない。
その上で、できればたくさんの場所を巡りたい。だって妻にはたくさん笑顔になって欲しいから。
妻との始めての宿泊旅行に、私は一度訪れたことのある街を選んだのだった。
知っている街なら観光時間も想定しやすいし、ルート選定も楽、食事どころもなんとなく分かるという、今考えれば「失敗したくない」という気持ちが強く出た旅行だった。
何しろ妻には目一杯楽しんでもらいたい。
テントで野宿、移動はバイクが基本だった私は「マトモな」ホテルの宿泊金額と公共交通機関の利用代金に汗が止まらなかったが、ここで使わずにどこで使うと言わんばかりに高級宿を予約し、2泊3日の間、たくさんの観光地を巡れるように計画したのだった。
1日目、目的地に着いた私たちは1つ目の観光名所の見学を終え、2つ目の観光場所に向かって歩いていた。その時、妻が体調不良を訴えてきたのだった。
「ちょっと気持ち悪い」
妻を見るとだいぶ様子がおかしい。おそらく私に気を使って我慢して歩いていたんだろう。すぐに近くの公園で休んだが、妻の体調はなかなか回復することはなかった。
「ここで休んでいるから、一人で見に行って来ていいよ」
そんなことを言われても置いて行けるわけがないだろう。というか、今更だが水分補給が必要なんじゃないか? 近くの喫茶店まで移動し、飲み物と甘いものを頼むと、妻はようやく落ち着いてきたようだった。日も暮れてきたようだし、今日はもうここまでだな。
私はものすごく後悔していた。
いつものクセで自分のペースで考えていなかったか? なにしろ「休憩が必要」なんて基本的なことも私の頭にはなかったのだ。私が朝から晩まで動き続けても(もちろん食事はするが)平気だったから、みんなそうだと思い込んでいた。思いが至らなかった。もっと「妻の体を思いやった」スケジュールが必要だったのに。
翌日は全てのスケジュールを白紙に戻し、1箇所+αに絞ってゆっくりのんびり街を散策した。そう、これくらいがちょうど良いのかもしれない。少ししか周れないってことは、また来る口実になるってことだしそれも悪くない。
それからの私は旅行の度に、妻中心のスケジュールを考えるようになったが、未だにうまくいっている気がしない。何しろ歩くスピードも違うし、歩ける距離も違う。定期的な水分補給とトイレ休憩が必要だし、思わぬところに興味を示して時間を取られたりする。ちょっと寒いだけで動けなくなるし、おなかが減ると気持ちが悪くなったりする。
ああ、私とは違うんだなあ。その度にそう思わされる。例えば「のんびり温泉旅行」など、以前の私にしたらありえなかった。風呂に浸かるだけの「何もしない」時間が耐えられなかったから。
しかし、私の旅行目的は妻の笑顔を見ることなのだ。
いつか完璧に計画してやる、妻に優しい旅行を。
ようやく終わりが見えました。後2回です。次回、病める時も健やかなる時も。お楽しみに。




