第3話:バス旅
【バス旅】
TV番組の企画で、行き当たりばったりのローカル路線バスを乗り継ぐ旅が放送している。妻はこのバス旅が大好き。最近は旅行先でバス停を見つけるたびに、「バス来るかな~」と乗りもしないバスの時刻表を見て楽しんでいる。
ん? バス旅を計画したら妻は喜んでくれるだろうか。
温泉旅行に行く事になった。
妻の行きたい温泉はなにやらとてつもないイナカだった。できれば車で行きたいところだが雪国で遠いし、電車でも良いかと調べてみると、新幹線を降りた後はバスの乗り継ぎしか交通手段がなかった。
一応聞いてみる。
「温泉、不便なところにあるけど車で行く? それともバス旅したい?」
「えっ! バス旅もいいなぁ」
なんだと!? バス旅をするのか? だってバスだよ? イナカだよ? 一日数本しか走ってないよ? 偏見かもしれないけれど。しかし妻がそう言うのなら仕方がない。
でもさ、乗り継ぎで2時間待ちとか、イヤじゃん。絶対寒いじゃん。寒いのがニガテな妻が耐えられるわけがないじゃん。間違いなくとばっちりを食らうじゃん。それは避けねばならないじゃん。仕方がない。
妻には内緒で快適なバス旅をプロデュースしよう!
綿密な計画を立てた旅行当日、新幹線を降りて最初のバスを待つ。バス停で時刻を見ると10分後と70分後にバスがある。
「すごい~10分後にバスが来るよ~」
妻が喜ぶがちょっと待て。このバスに乗ってはいけない。
ちょうどお昼時だし、駅で食事をして1時間後のバスに乗ろうと提案する。食事を終え地元の物産館で時間をつぶすといよいよバスの時間だ。
やってきたバスに妻のワクワクが止まらない。たかがバスに乗るだけでこんなに楽しめるなんて、妻め、私の何倍人生を楽しんでいるというのだろうか。そしてやってきた次の乗り継ぎ地点はまさに「何もない」場所だった。いや、郵便局だけあったが、郵便局でいったいどうやって時間をつぶせというのか。まったくイナカというのは恐ろしい。
バスの時刻表を見た妻が言う。
「見て見て~次のバス15分後だって!」
時刻表の数字を追ってはしゃいでいる。
「こんだけしか走ってないんだね~」
「そうだね、ちょうどよかったよ」
もちろん事前に調べてたからね。乗り継ぎも考えてたからね。待つのが分かってたから駅で食事をしたんだからね。妻はおなかがすくと機嫌が悪くなるのを知っているからね。
だいたい1日に4本しか走ってないってどういうことだよ、イナカのバスめ。最終便が15:15ってどういうことだよ、イナカのバスめ。バスに合わせて新幹線の指定席をとるのに苦労したじゃないか。
バスを待つ少しの間、近くの雪を丸めて妻にぶつけてみると嬉々として雪合戦に乗ってきた。雪合戦は1分で終わったが、待ち時間の足しにはなっただろうか。
旅行はあっという間だった。
バス旅ならば途中で本を読んだりのんびりできるかと思ったが、まったくのんびりできなかった。でも妻は満足そうだ。
「またバス旅する?」
「ううん、もういい、乗り継ぎ調べてくれてありがとう」
コイツ、知っていやがった!
次回、たくさんの荷物。お楽しみに。