第2話:クリスマスケーキ
【クリスマスケーキ】
クリスマスにはケーキを食べるものらしい。それが仏教徒であろうと異世界人であろうと。クリスマスと誕生日は数少ないホールケーキを買うチャンスだ。
ケーキ好きな妻なら絶対に喜んでくれるはず。サプライズプレゼントで驚かせたい。
クリスマスが近づいているのは知っていた。
妻にいたっては忙しくてクリスマスが近づいていることさえ気付いていないようだった。そういう私も忙しくてケーキ屋さんに行くヒマさえないが、スイーツ好きな妻のために何が何でもクリスマスケーキを(こっそりと)予約しておかなければならない。
何食わぬ顔をして、夕食の後にケーキを出すのだ。考えるだけで楽しい。
だが休日ともなればほとんど妻と一緒にいる生活で、クリスマスケーキを予約しに行くスキがない。しかしそんなことでこのサプライズチャンスを失ってなるものか。こっそり隙を見計らってケーキを予約する。
クリスマスが近づいてくるが一向に気付く様子がない妻。いよいよ明日はクリスマスイブだ。その日は土曜日、妻は午後の予定があるため、その間にケーキを受け取りこっそり冷蔵庫に入れておこう。妻の喜ぶ顔を想像してニヤニヤする。
そしていよいよクリスマスイブ当日、2人の都合の合う午前中にスーパーに買い物に出かける。
買い物を進めてようやくレジ付近、だがここに罠があった。これ見よがしにクリスマスの販促ポップと共にケーキが陳列されており、そこを避けて通るのはあまりにも不自然だった。
ぬかった、一人で買い物に来るべきだったか。だが妻だ。あるいはクリスマスに気付かず通り抜けてくれるのではないか。しかしそんな淡い期待もむなしく、妻は陳列している三角ケーキを指差して言い出すのだった。
「ねぇ、こんなケーキだけど一緒に買って食べようか」
くっ、後一歩のところで計画が破綻しようとは! いやまだ分からない。
「えっ? なんで?」
「今日クリスマスだからケーキ買わない?」
妻め、クリスマスに気付いていやがった。事ここに至っては、これ以上隠すことに何の意味もないではないか。
「……予約してある」
その言葉に計画をつぶされた不機嫌さがにじみ出てしまっても許してほしい。
「え!?」
「クリスマスケーキ、予約してあるから買わなくていい」
「ホント~! いつの間に!? ありがとう!」
妻め、なにもこんなところで気付かなくてもいいじゃないか、あるいはわざとやってるんじゃないのか? だが妻が喜ぶ顔が見れたんだ、今がサプライズと思えばそれも良しか。
だが次は成功させる、このサプライズを。
次回、バス旅。お楽しみに。




