第11話:小説家になろう
【小説家になろう】
日本最大の小説投稿サイト。とはいえそこには小説のみならずあらゆる文章が投稿されている。
ならば利用してやろうじゃないか。妻のための言葉を、感謝を綴っておこう。
老後に読むのも楽しそうだし、ケンカした時に仲直りの1手になるかもしれないしね。
毎日使っているコーヒーサイフォンが割れた。
割れたのは「上ボール」と呼ばれる部分で、妻が落として割ったのだった。って、アレ? 以前も全く同じ事をエッセイに書いた記憶があるが、今回で2回目だ。
前回同様、妻が落ち込んでいる。
しかしガラス製品というものは使っているうちに見えない傷が入り、放っておいても脆くなるものだ。それに「モノ」である以上いつかは壊れる。妻が怪我しなければそれでいいではないか。大切なのは「妻」であり、それ以外はどうでもいい。以前のエッセイでもそう書いた記憶がある。
その時は、既に廃盤になっていた上ボールをコーヒーメーカーに探してもらい、同等品を手に入れることが出来たが、あれから数年、どこをどう探しても同じものは手に入らなかった。
落ち込む妻。
「君が怪我しなければそれでいいよ、ガラスなんていつかは割れるんだからさ。前にも言ったろ?」
「自分のものならいいの、でも、あなたが大切にしていたものだから……」
「いつかは割れるのが分かってたんだから、次は『2人で』選ぼうって言っただろ?」
私は「小説家になろう」のマイページから当時のエッセイを呼び出し妻に見せる。
「ほら、前にも言ったろ? 今でも気持ちは変わらないよ」
エッセイを読んだ妻はようやく気持ちを落ち着けたようだった。
今までも何度かあった。妻の気持ちが落ち込んだ時、ケンカになりそうになった時、私がどんなに妻を愛しているか、言葉ではなく文章で見せる。妻は自分のペースで文章を読み、当時を思い返し、自分の中に落とし込んでいく。
こんな事に「小説家になろう」を使っている者が私の他にいるのだろうか。これならあるいは「ラブレター」とか「プロポーズ」の手段として使う者が現れてもおかしくないし、本来の目的から外れているのは間違いない。
でもいいんだ。私は妻が大好き。
ケンカをした時、不安になった時、そんな時に振り返れるように。私の愛を思い出してもらえるように。笑顔になってもらえるように。
今日も、これからもここに書いていこう。
「今夜は月がキレイですね」と。
 




