ルンルン、オリンピックを目指す
里山に暮らす夫婦の物語。
人里離れた山の麓にひっそりと佇む藁ぶき屋根の古い家。
そこには仲のいい夫婦が暮らしていた。アヒルのルンルンとカッパのパッパだ。
二人(2匹?)とも自分を人間だと思っている。
つつましやかな男と女のありふれた日常は、奇想天外な出来事に彩られていた。
ルンルンがいつものように川に魚を獲りに行くと、川辺に2羽のカモがいた。
しばらくすると2羽は翼を広げて素早く飛び上がり、そのまま上流の方へと飛んで行ってしまった。
ルンルンは自分も飛べそうな気がしたので、ヒレの付いた足で助走をつけて水面を走り、羽ばたいてみた。しかし、ほんのちょっとの距離しか飛ぶことができない。
アヒルのルンルンは少しは飛べるのだが、大空高く舞うことはできない。しかしそれでも一生懸命に羽をバタバタさせて飛ぼうとした。足ヒレを勢いづけて水面を蹴り、素早く前進して翼を羽ばたかせる。そしてどうにかこうにか川を横切るくらいの距離を飛べるようになった。
満面の笑みを浮かべて喜ぶルンルン。家に帰るなりパッパに報告する。
「パッパ、わたし空を飛べたよ! 川を飛び越えることができたの!」
「それはすごい。オリンピックに出られるよ」
「オリンピックに出るー!」
ルンルンの目が輝いている。
「何の競技だったらいける? 金メダル、獲れる?」
「そうだな、走り幅跳びなんかいいんじゃないか。確か、女子の世界記録は1988年に記録されたウクライナ出身のソビエト連邦代表ガリナ・チスチャコワの7m52だったはずだ。あの川は幅が大体10mくらいだから、ルンルンは世界チャンピオンだね」
「うーんもう。そういう蘊蓄はいらない! 本当にルンルンもオリンピックに出られるの?」
「そうだなー、考えてみると、参加資格に問題があるな」
「なに? その『さんかしかく』って?」
「国籍については一応日本代表という形になる。性別に関しては女子での参加だ。ただ重大な問題が残されている。生物学的な問題だ」
「なに? 『せいぶつがくてきもんだい』って」
「平たく言うと、オリンピックには翼を持っている人は参加できないんだよ」
「ええー? ルンルンはオリンピックに出られないの?」
急にしょんぼりするルンルン。
ルンルンは自分のことを翼の生えた人間だと思っている。
「ああ、残念だけど、ルンルンにはとても綺麗で立派な翼があるだろ? 他の人にはないんだよ。光輝く純白の翼を持った人が走り幅跳びをすると、出場する人が羨ましがって競技どころじゃなくなってしまうよ」
「そっかー! 分かったわ」
ご機嫌になるルンルン。
「ところでパッパは泳ぐの上手いじゃない。水泳でオリンピックには出ないの?」
「ははははは。水泳には興味ないよ。パッパはアーチェリーで世界を目指すつもりだ」
「え?」
「最近、パラゴンという矢を購入した。真直度は±.0015で、重さのバラつきは±0.5。ベインはスパイダーで、ライザーはウイネックス。そして、センターロッドは、なんたらかんたら、うんたらかんたら……」
話が長くなりそうだったので、ルンルンはまた川に走り幅跳びの練習に行った。
終わり
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