モグラは自称忍者
里山に暮らす夫婦の物語。
人里離れた山の麓にひっそりと佇む藁ぶき屋根の古い家。
そこには仲のいい夫婦が暮らしていた。アヒルのルンルンとカッパのパッパだ。
二人(2匹?)とも自分を人間だと思っている。
つつましやかでありふれた日常は、奇想天外な出来事に彩られていた。
ルンルンは翼を広げて、盛り上がった土から飛び上がった。
子ダヌキも一生懸命ルンルンにしがみついている。
次の瞬間、土が盛り上がっていた場所にポコッと穴が開いた。かと思ったら、そこから何やら小さい生き物が顔を出した。
ネズミ? いやモグラだ!
「やあ、ジェームズ。久しぶりだな」
「誰だ!?」
モグラは地上へ出ると、パッパの足に飛びつき、そのままスルスルと肩まで駆け昇った。
肩口までたどり着いたモグラは、「隙ありっ!」と言いながらパッパのほっぺにパンチを当てて、すぐさまパッパの肩からクルクルと回転しながら飛び降り、きれいに着地した。体操競技だったら98点の高得点であろう。ただしパンチはほとんど効いていない様子だ。
「ジェームズ、相変わらずだな。元気そうで何よりだ」
「ジェームズなぞ知らぬ! 貴様いったい何ヤツ?」
「今日は頼みがあって来たんだ」
「儂のことを甲賀忍者の末裔と知っての狼藉か?」
「多分ジェームズに聞いたら分かると思ってな」
「儂の天空必殺拳IIを喰らってビクともしないとはお主、かなりの手練れとみた」
「ここにいる子ダヌキさんなのだが迷子になってしまってな」
「なに?」
モグラは、ルンルンの背中に乗っている子ダヌキに気がついた。
「おお、権蔵タヌキのところの子せがれではないか」
「良かった。流石、ジェームズ。やっぱり知っていたか」
「その、『ジェームズ』はやめろ、パッパ!」
「もうスパイごっこはやめたのか?」
「ごっこじゃない! 俺は今は鵜飼裳倶六という立派な忍者だ」
鵜飼裳倶六という人物(?)はキノコの山に住むモグラだ。
スパイ映画が好きで、本人は少し前まで『ジェームズ』と名乗り、MI6の一員として活動している気になっていたのだが、最近はユーチューブで忍者物にはまってしまい、『鵜飼裳倶六』と名乗って忍者の活動(?)をやっている。
裳倶六は、実際地下に潜って近辺の情報を集めるのが大好きである。まあ、情報といってもしがない山奥でのこと、国家機密に相当するような情報が有ろうはずもないのだが、本人は大真面目である。
「そうか、最近は忍者になったのか。鵜飼裳倶六、いい名だ。で、この子ダヌキ君の家まで案内してくれないか?」
「まあ、良かろう。袖触れ合うも多生の縁と言うしな。ついてまいれ」
裳倶六は得意そうな顔で踵を返し、山奥に向かって歩き出した。
のんびりとした気持ちで読んで頂ければ幸いです。
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