ルンルン、川にお仕事に行く
里山に暮らす夫婦の物語。
人里離れた山の麓にひっそりと佇む藁ぶき屋根の古い家。
そこには仲のいい夫婦が暮らしていた。アヒルのルンルンとカッパのパッパだ。
二人(2匹?)とも自分を人間だと思っている。
つつましやかでありふれた日常は、奇想天外な出来事に彩られていた。
やま深い里山のそばに流れる小川に、透き通った水がしぶきをあげながら流れている。
里山には一軒の古ぼけた藁ぶき屋根の山小屋があった。そこには若い夫婦が暮らしている。
今日も妻はつばの広い帽子をかぶり、肩からは小さなポーチを提げて玄関先に立った。
「さーてと、今日もお仕事に行ってくるわ」
そう言って妻は、玄関にある鏡を見ながらマスクの位置を調整する。
「なんだかこのいでたち、アヒルみたいね」
自分の嘴に合ったマスクをはめて笑う妻。
笑顔の絶えない妻を微笑ましく思いながら見つめる夫。
「ああ、可愛いアヒルちゃんだね、キミは」
夫は、はにかむ妻の頭に手をかざして優しくなでた。
妻は玄関の戸を開けて外に出た、夏の日差しがまぶしい。
「行ってきまーす。るんるん」と言いながら、水掻きの付いた足で地面を小刻みに踏みしめる。白い尾っぽの付いたお尻を振りながら、ひょこひょこと歩く妻の後姿を見送るのが夫の日課だ。
「あのアヒルは自分のことを人間だと思っているようだな。近所の小川に魚を捕りに行くのが楽しそうだ。なんてけなげなアヒルなんだろう」
夫はひとりごとを言いながら山小屋の台所に行った。台所の隅には水が入ったツボが置いてある。
「あのアヒルは小川に魚を捕りに行くのを仕事だと思っているみたいだ。いや、立派な仕事だ。俺たち人間も怠けてはいられない」
そう言いながら夫は水が入ったツボの蓋を開け、横においてある柄杓を手に取ると、おもむろに水をすくって自分の頭に掛けた。
夫の頭にある皿に水が満たされる。
「さーて、俺も仕事に行くとするか」
そう言って夫は山小屋の外に出ると、近くを流れる小川に飛び込んだ。そして、手足の水掻きを使ってスイスイと泳ぎ、小川の下流にある湖まで魚を捕りに出かけた。
終わり
のんびりとした気持ちで読んで頂ければ幸いです。
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