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怪談

だれ?

 この前、会社で凄い怖い事があったんですよ。


 私が勤めてる会社って社員数が30人ぐらいなんですよ。それでですね、アットホームっていうのかなんていうのか、オーナーとか社長も含めて割と仲がいいんですよね。


 職場はパーテーションでブースを作ってあって、全員が各々自分の業務を行う形態、っていうのもあるかとは思いますけど、お昼休みとかは他の人と一緒に食べるのが多いんですよ。仕事が終わった後も同じ感じで、飲みに行ったりも多いし、独身の人なんかは宅飲みしたりゲームしに行ったり。仕事中にほぼ他人との会話がないからなんですかね?


 慣れない人には面倒くさいかもしれないですけど、上司も適度に緩い人が多いから気楽ですね。


 丁度一月前ぐらいですかね、オーナーが小さいお子さんを連れてきたんですよ。なんでも、奥様が体調を崩されて入院することになったとか。それで、退院するまでしばらくの間会社に連れてきて面倒見ることにしたっていう事みたいです。


 お子さんは可愛らしい女の子で、年は五歳らしいです。

 幼稚園なんかは丁度夏休みの時期だし、私達としては大人しくしてるのなら別にいいかなって思ってましたね。実際、結構大人しかったですし。


 二三日過ぎた頃から娘さんも馴れてきたのか社内を歩き回っているのを見かけるようになったんですよ。更に数日経つと、休憩中に話し掛けてくるようになったり。


 ある時、仕事が一段落ついたから休憩しようか、ってタイミングで急に視界が暗くなったんですよね。直後に『だ〜れだ』って娘さんの声。どうやら馴れてきたのと、飽きてきたのが合わさって私にイタズラをしたらしかったみたいです。何だか妙な違和感を覚えつつも女の子と少し話をして。数分したら女の子は立ち去って行きました。


 他の人にも同じだったらしく、休憩してたり、休憩に入ろうとするとイタズラされることがあるって言ってましたね。仕事の邪魔をしてるわけでもないので、まあいいかって皆思っていたみたいです。


 更に数日経ったある日。その日は妹が家に泊まりに来ていて、妹にその話をしたんですよね。そしたら妹が怪訝な顔をし始めたんですよね。どうしたのか聞いて見ると妹が話し始めたんですよ。


『その女の子は五歳なんだよね。五歳の子供がどうやって椅子に座ってる大人に目隠ししてるの?踏み台とかあるの?』


 それを聞いたときに背筋が凍る思いがしました。確かに小さな子どもが目隠しをできる高さではないんですよね。


 その晩はきっと何かを踏み台にしているんだと自分に言い聞かせながらベッドに入りました。


 翌日は落ち着かなかったですね。仕事前に、踏み台になるような物があるのか探したりしましたし、仕事中もチラチラとブースの出入り口を気にしながらの作業になってしまいました。


 私の使っているブースって窓際にあって、デスクに向かうと右側に出入り口があって、後ろは窓、左はパーテーションで仕切られているから右側からしか人は来れないんですよ。なので右側を凄い意識して仕事してたんですよ。


 集中力を欠きながらも仕事を一段落させて、いつものように背もたれに身体を預けて椅子を回して右側を向いた時、以前抱いた違和感が何だったのか気がついたんですよね。


 気がついたのと同時に視界が塞がれる。そして続く『だ〜れだ』っていう声。もう、怖くて声出せなかったんですよ。


 身体はブースの出入り口に向いてるのに、私に気付かれないように後ろに回り込めるのはおかしいし、踏み台になるようなものが無いのに私に目隠しできるのもおかしい。そもそも、どうしていつも誰に対しても休憩中か休憩に入るタイミングでイタズラできるんだろう。


 そんなこと考えていると再度『だ〜れだ』って聞いてくるんですよ。わけわからないのと怖かったのとで軽く混乱してたんでしょうね、思わず『あなた誰?』って言っちゃったんですよ。


 そしたらお年寄りみたいな声で、低くて嗄れた声って言うんでしたっけ?…まあそれはともかく、お年寄りみたいな声で『誰だろうね』って。


 気がつくと目を覆っている手の感触が変わってるんですよ。確かに最初に目に当てられた手は子どもの手だったんですよね。


 小さくて目の周りだけに触れてた柔らかな手だったのが、いつの間にか大きなガサガサした手になってたんです。


 怖さで固まってる私に『だ〜れだ』ってまた誰かが聞いてきたんだけど、答えることなんてできないんですよね。なんて答えればいいかもわからないし、答えていいものかもわからないんですから。


 しばらくそのまま動かず喋らずにいたら、ふと手の感触が無くなったんですよ。急いで席を立ちながら振り返ると、誰も居なかったです。


 この場に居たくないから、そのまま休憩スペースに行ったら丁度休憩中の同僚と上司が居たので、今起こったことを話したんですよ。


 私の話を聞き終わった上司が不思議そうに言ったんですよね。『そもそもオーナーがお子さん連れてきたことがあったっけ?』って。


 思い返すと、上司は一ヶ月ぐらい前は出張で居なかったんですよね。会社の偉い人と一緒に営業で地方廻りをしてたんでした。


 私と同僚が、奥さんが入院してるからオーナーが娘さん連れてきてたって説明すると、益々怪訝な表情をし始めるんですよね。

『息子さんは二人いるはずだけど、娘さんいたっけ?』

 そう呟く上司の言葉に、居ても立っても居られなくなって、三人でオーナーのところに向かったんですよ。


 オーナーさんは丁度手が空いてたみたいで、部屋にすぐに迎え入れられたから、一連の出来事を話したんですよ。話を聞き終えたオーナーさんが言うには、『妻は元気だし、娘はいないぞ。もちろん子どもを職場に連れてきたこともない』って。


 絶句してる私と同僚に更に追撃ちをかけるようにオーナーが続けるんですよね。

『そもそも一ヶ月ぐらい前って、ずっと彼と出張してたから会社に顔出してないぞ。会議とかはオンラインでやってたし』って言いながら上司の方を見るんですよね。

 上司も『そうですよね』って言いながら頷いてました。


 すぐに全社員集めて一ヶ月程前の事を聞くと、当時会社にいた人間は全員オーナーと娘さんを見ていたみたいでした。


 結局誰だったのかはわからないままだし、あれが人間だったのかすらもわからないんですけどね。







 というわけで一連の事はよくわからないまま終わった、で済めばいいんですけど、実は私と上司とオーナー三人だけの秘密にしてることがあるんですよ。


 オーナーらしき人物が二件程契約を取ってきてるんですよね。なんですけど、取引先の住所が古びた墓地と立入禁止のオフィスビルだったんですよ。

 私を担当にするからってオーナーに言われてて、それを翌日に控えていた時に一連の事があって、そんな事があったからなんとなく不安になってオーナーに契約の件聞いてみたら、そんな契約は知らないって言われて。


 住所調べてみたら、墓地と廃墟。



 気が付かないで取引先に向かってたら私どうなってたんでしょうね?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の展開と、文章の長さのリズム。 [気になる点] 文体が語り用なのかな?文章を読む前提だと若干ひっかかるところはありました。 子供の手が届かないことに気が付くの遅くない?っていう感じはしま…
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