73 模索
引き続き、久留里城ダンジョンの攻略だ。
からくり兵を倒す。
からくりドローンを倒す。
からくり戦車を倒す。
より正確には一体残して「逃げる」。
魔法は極力使わず、武器スキルを取っ替え引っ替え試していく。
「剣技」「弓術」「打撃武器」「短剣技」。
以前から持ってた「体術」や「棍術」も改めて。
からくり兵から「からくりランス」がドロップしたので「槍術」も取得。
事前に5まで上げてた「罠発見」のおかげで道中は戦闘以外は順調だ。
途中「財宝発見」で隠し部屋にある宝箱も発見、「万能歯車」という虹色に輝く用途不明の歯車を手に入れた。
「うーん……悩むな」
悩んでるのはもちろん武器スキルのことだ。
幅広くいろんな状況に対応できるのはオーソドックスな「剣技」だろう。
だが、槍持ちのからくり兵や、ガトリングガン装備のからくりドローン相手では不利が否めない。
「槍術」はリーチが長く、敵との間合いを取りながら比較的安全に戦える。
でも、ダンジョン内の狭まったところでは取り回しが悪い。
両手が塞がるので、魔法を使うために片手を空けておきたい俺には相性が悪そうだ。
手を使わなくても魔法は発動できるが、標的に向かって手をかざしたほうが魔法の精度は上がるんだよな。
「弓術」に関してはおもしろい発見があった。
弓での攻撃にも「強奪」が乗るのだ。
具体的には、弓で射た矢が命中すると「強奪」の判定がなされ、確率でドロップアイテムが手に入る。
敵との距離がどれだけ離れていたとしても、だ。
しかも、「弓術」で弓を連射すればその全てで「強奪」判定がされるため、「強奪」の成功確率を大幅に上げられる。
「便利だけど……気持ち悪い現象だよな」
まあ、もともと敵が手に持ってるわけでもないアイテムをどこからともなく盗むというゲーム的なご都合主義スキルだからな。
今さら、弓で使えたくらいで驚くのもおかしいか。
でも、遠くから「強奪」ができて便利だから弓を使おう!となるかというと、それもちょっと違うんだよな。
そもそもこうして武器スキルを手探りで模索してるのは、接近戦での戦闘手段を確保するためだ。
弓では魔法と射程もかぶり、接近されたら弱いという意味でも重なってる。
ならなんで「弓術」を試したんだよと言われそうだが、弓には命中率やクリティカル率を上げるような補助スキルが比較的多く、スキルシナジーが狙いやすいというメリットがある。
でも、スキルシナジーを狙うならこれまで通り魔法で狙えばいいともいえる。
あえて弓を使う理由は、弓は魔法とは違って物理攻撃扱いなので魔法が通じにくい敵にも対処できるってことだろうか。
その長所を取る場合でも、結局接近戦対策は別立ててで考えることになってしまうけどな。
ちなみに、灰谷さんが言ってた連射のできるボウガンは、からくりドローンの二枠目のドロップで手に入った。
その名もずばり「連射弓」。
重くてかさばる上に、連射には固いハンドルを回す必要がある。
しかも、撃ち切ったあとの再装填は手動。
あきらかに普通の弓のほうが便利なんだよな。
連射したければ「弓術」スキルでやればいいし。
連射弓は灰谷さんへのお土産になること決定だ。
「打撃武器」というのは、ハンマーや棒、フレイル、棍などの総称だな。
それぞれ「棒術」や「棍術」のような特化したスキルも存在するが、ざっくり広めに殴る武器をまとめて扱えるのがこのスキルの特徴だ。
昨日踏破したAランクダンジョンでオークから手に入れた棍棒を使ってみたが……なんというか大味だ。
剣や槍のように、敵の攻撃を弾く、受け流すといった使い方がしにくいんだよな。
将来の発展性の面で微妙だろう。
これはたぶんなしだと思う。
「短剣技」は、「暗殺術」や「忍術」との相性がいい。
「暗殺術」「忍術」の中には、ナイフ・短剣限定の術技もある。
急所を狙えばクリティカルが出やすいから、「致命クリティカル」も生きるだろう。
そういう意味で、既存のスキルとの噛み合わせは悪くない。
ただ、どうしてもリーチが短いんだよな。
からくり兵の槍を相手にするといかにもつらい。
相手が剣でもきついだろう。
魔法をメインとした場合の護身用と割り切る手もあるが、それなら「剣技」でもよさそうだ。
接近戦対策には、対人戦対策の意味合いもある。
探索者の中で最も使用率の高い武器はダントツで剣だという。
その剣に対して不利な武器をあえて選ぶ理由がない。
「体術」も、欠点は「短剣技」と似てるな。
刃物を持たない分、「短剣技」より使いにくいくらいだろう。
このあいだハイヒューマン様を取り押さえたときのように、無手でも使えるというメリットはある。
だが、現状既に「体術」のスキルレベルは3もある。
探索者同士のちょっとしたもめごとに使う程度ならこれ以上上げる必要はなさそうだ。
「棍術」は、魔法のためのロッドでそのまま殴れるメリットがある。
でも、刃がない武器はやはり決定力に欠ける。
対人戦を想定するなら、刃物のほうが相手の動きを牽制しやすい面もあるだろう。
エメラルドロッド以外の専用の棍を探すにしても、光が丘公園ダンジョンのフラッド中のホビットメイジLv2941からドロップしたエメラルドロッド以上の棍を探すのは大変そうだ。
それ以外では、ホビット系400体撃破の特殊条件で取得可能になった「相撲」を取る手もあるにはあるが、「体術」と同じような弱点がある。
そのSPで「体術」を上げきったほうがいいだろう。
「無難さなら剣かな……」
でも、ダンジョンで前衛を堡備人海に任せるなら、剣より槍のほうが戦いやすいような気もする。
今後芹香と一緒に探索するようなことがあったばあいも、剣同士でかぶらないほうがやりやすいのかもな。
いや、芹香がいる状況を想定するなら、接近戦を芹香に任せて俺は魔法攻撃に徹すればいいような気もするが。
「からくり兵みたいに、『片手持ち』で槍を使うって手もあるな」
それなら片手を魔法のために空けておける。
対人戦を想定するなら剣に対してリーチで有利な槍は悪くない。
堡備人海を前衛にして背後から槍というのもアリだ。
だけど、懐に入られたときの対処には困る。
「結局どれも一長一短か」
なんだか中途半端なことをしてるような気もしてくる。
どれでもいいからこれと決め、その武器に専念したほうがいいんじゃないか?
優柔不断は器用貧乏になるだけだ。
「いや、大量にSPが稼げる俺だからこそいろんなスキルが試せるわけで。この試行錯誤は無駄にはならない……はずだ」
どの武器を使ってもしっくりこない。
困ったら最後は「上級雷魔法」で倒すだけ。
こんなことで本当に接近戦のセンスが磨かれるんだろうか?
「いかん。どうも弱気になってるな……」
そんな悩みを抱えながら進むうちに、思ったより早く第一層の終わりにたどり着いた。
次のフロアへのポータルを潜ると、そこはあいも変わらぬバウムクーヘンの中――ではなかった。
剥げかけた朱塗りの鳥居が奥まで続く長い石段。
最初の鳥居の前には「断時世於神社」と刻まれた石碑がある。
「ダンジョン神社か。ひさしぶりだな」
ダンジョンの階層移動の際に低確率でつながることがあるこの神社。
「前は天狗峯神社ダンジョンのときだったよな。お参りしていくか」
前と違って「逃げる」のスキルレベルが上がったことで、「逃げる」成功時に落とすお金の額は控えめにはなった。
とはいえ、全所持金の10〜50%をランダムで落とす。
その戦闘における入手金額ではなく、全所持金の10〜50%だ。
運よく低目の10%を引いてプラスになる瞬間があったとしても、いずれ高目の50%を引けば、そのプラス分もごっそり削られる。
さいわい、ダブルフラッドのときの入手金と雑木林ダンジョンを枯渇させたときの入手金は手元に残り、今は銀行口座に預けてある。
「どうせなくす金なら賽銭にしよう。この神社はちゃんとご利益もあるしな」
さて、あののじゃロリ女神様はいるだろうか?
 





