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ハズレスキル「逃げる」で俺は極限低レベルのまま最強を目指す ~経験値抑制&レベル1でスキルポイントが死ぬほどインフレ、スキルが取り放題になった件~  作者: 天宮暁
第三章「  」

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「うわっ……!?」


 吹き荒れる暴風に、俺は両腕で顔をかばう。


 吹き飛ばされそうなほどの風速もさることながら、暴風の孕む濃い魔力が、俺の精神をヤスリにかけるように削っていく。


 意志の弱いものなら魂ごと吹き散らされてしまいそうな魔力の嵐。


 竜巻のように渦巻くその嵐の中心に、何かおそろしいものが現れた。


 大きさだけなら、今更驚くことはなかっただろう。

 だいだらより大きくはあるが、巨体も十メートルを超えてくると、感覚が麻痺してくるようなところがある。

 十五メートルだろうと十八メートルだろうと、自分よりはるかにでかいって意味では同じだからな。


 だが、嵐を伴って現れた「それ」は、直視できないほどの圧倒的な威圧感を放っている。

 うかつに「気配探知」なんてしようものなら、その途方もない気配の強さに、神経が焼き切れてしまいそうだ。


 いや、「気配探知」なんてしなくても、俺の全身の肌が粟立ち、身体の芯が震えてくる。


 とくに何かをされたわけじゃない。

 そいつはただそこにいるだけだ。


 濃密な魔力で揺らぐ視界の奥に見えるシルエットは、高くそそり立つギザギザの塔――

 いや、これは……



「ドラゴン……!?」



 俺が呻くと同時に、魔力の嵐が霧散した。


 そこに浮かんでいたのは、漆黒の竜。

 黒い鱗に覆われた身体には、巨大な翼と長大な尾。

 金色に輝く白目の中に、黒い縦長の瞳孔がある。


 その竜が、吼えた。


 ――グオオオオオオッッ!!!!


 その咆哮だけで俺の身体も精神も跡形もなく砕かれる――


 そんな危機感に固まること1、2、3秒。


 吼えたける竜の動きが静止し、その全身が薄紫の輪郭となってその圧倒的な存在感を失った。


 この現象は既に経験済みだ。


「『現実から逃げる』が発動したのか……」



Skill──────────────────

S.Lv2「現実から逃げる」

使用条件:

(5-S.Lv)秒間、現実から逃れたいと強く念じ続ける。


特記事項:

「現実から逃げる」で入ることができる異空間では、自分の意思によって現実と異空間の時の流れの相対速度を変化させることができる。変化させられる幅は(0~S.Lv)倍まで。

元の現実に戻る意思を失った場合には、異空間から出ることができなくなる。

連続して使用するほどに元の現実に戻りたくなくなる。

─────────────────────



 前のときはすぐに戻ってしまったが、今回は時間をかけても問題ない。


 現実側の時間の流れは止まってる。

 この状態でどれだけ時間をかけたとしても、戻る先は「現実から逃げる」が発動したのと同じ時点になるはずだ。


 ただ、気になることはある。


「……なんとなくだが、うっすら現実に戻りたくない気分だな」


 これが特記事項にある「連続して使用するほどに元の現実に戻りたくなくなる」ということか。

 といっても、まだそんなに強いものじゃない。

 月曜の朝に学校や会社に行きたくないと思うのと同じくらいの感じだな。

 前回の発動が昨日の夜だから、連続使用の副作用が少しだけ現れてるってことなんだろう。


「どのくらい間隔を開ければ副作用が出なくなるかは気になるが……」


 その実験で現実に戻れなくなってしまったら本末転倒だ。

 本当にいざというときのための手段と考えるべきだろう。


「前回と今回とで、少しは発動の感覚がわかってきたな」


 どのくらいの強さで「現実から逃げたい」と念じればいいのかが見えてきた。


 口先だけで「現実から逃げたい」と思うだけではまだ弱い。

 でも、凍崎純恋によるいじめを受けてたときやブラック気味の企業で働いてたときの気持ちほどには強くなくてもいいようだ。

 今回のように、瞬発的に「怖い、逃げられない!」と思うだけでも発動はできる。


「どうも、『逃げられない』けど『逃げたい』というのがキモみたいだな」


 「現実から逃げる」以上、現実の中に逃げ場がないと思える必要はあるのだろう。


「……で、問題はこの幻獣だよな」


 俺は改めて、眼前にそびえる巨大な竜を観察する。


 全身を帷子のように覆う鋭利な鱗だとか、咆哮の形に固まった口から覗く牙だとか、巨体を飛翔させるのに十分なほど大きい翼だとか、抜き身の刀のように鈍く輝く爪だとか。

 「竜」という概念をそのまま具現化したような存在だ。


 威圧感を抜きにして見れば、なんとも厨二心をくすぐるかっこよさ。


「こいつは強い。まちがいない」


 問題なのはこいつが俺の言うことを聞くかだよな。


「はるかさんによれば最悪でもとり殺されることはないんだったな」


 そうは言っても、こいつの放つ圧倒的なプレッシャーにさらされれば、まともに立っていることすら難しい。

 気を抜くと意識を失ってしまいそうだ。

 そうなった場合、この竜が召喚者である俺に従ってくれるとは思いにくい。


「そうだ。『鑑定』はできないか?」


 思いついて、薄紫の輪郭と化した竜に「鑑定」を使う。


 が、「鑑定」は手応えなく素通りした。


「無効化された……わけじゃないな。たぶん『現実から逃げる』のせいだ」


 なんとなくだが、この竜が「鑑定」を拒むのなら、力づくで跳ね返すような感じになりそうだ。

 今の素通りした感覚は、「鑑定」が標的を発見できなかったという感じだった。

 この異空間には、この竜は存在していない。

 だから、「鑑定」が空振りしたということだ。


「ステータスが見えれば対応も考えられたんだけどな」


 一瞬だけ現実に戻って「鑑定」し、再び「現実から逃げる」でここに戻ってくる?

 いや、連続使用の副作用が怖すぎる。

 最悪こいつを使役できなかったとしても、現実に戻れなくなるよりはずっとマシだ。


「そうだ。せっかくだから時の流れを変えてみよう」


 「現実から逃げる」で入ることができる異空間では、自分の意思によって現実と異空間の時の流れの相対速度を変化させることができる。

 変化させられる幅は(0~S.Lv)倍まで、と説明にはあるな。


「今の『逃げる』のスキルレベルは2だから、0倍、1倍、2倍の三択か?」


 速くする意味はなさそうなので、時間を進めるなら1倍か?


「……いや、待てよ? 倍率は整数に限らないかもしれないよな」


 0〜2倍ということなら、0.5倍や1.5倍、あるいはさらに細かく刻める可能性もある。


「0.1倍ってこともできるのか?」


 だが、どうやって「時の流れ」なんてものを操作すればいいんだ?


 俺の疑問に応えるように、視界の右下隅に



 x0.00



 と文字が出た。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 遂に幻獣召喚&ドラゴン降臨回だと思ったら「現実から逃げる」の考察と新発見の回とは、中々焦らすねぇ。
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