表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル「逃げる」で俺は極限低レベルのまま最強を目指す ~経験値抑制&レベル1でスキルポイントが死ぬほどインフレ、スキルが取り放題になった件~  作者: 天宮暁
第六章「楽園」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

255/264

251 硫黄島ダンジョン

 夏目青藍からの協力を取り付けたのが十二月の半ば。

 それから二週間ほど経った年の暮れ、俺は振動の激しい自衛隊の輸送機の中にいた。

 もちろん、正式な手続きなんて踏んでない。

 もはや習い性となった感すらあるステルス技能を使って厚木基地に忍び込み、とある場所への輸送任務に着く輸送機へと潜り込んだ。


 厚木を飛び立って二時間半ほどのフライトの末にたどり着いたのは、硫黄島にある自衛隊基地だ。


「ふう……さすがにしんどかったな」


 気配を完全に殺しきったまま二時間半というのはそれなりに神経を消耗するからな。

 おまけに輸送機は揺れが激しく、乗り心地がいいとは言いがたかった。


 「硫黄島 IWO TO」と書かれた建物の陰に身を隠しながら、身体をゆっくり伸ばす俺。


「さすがにあったかいな……」


 東京から1250キロも南にある硫黄島は、師走の寒さとは無縁だった。


 え? どうして俺がこんなところにいるのかって?


 それはもちろん、この島にあるSランクダンジョン「硫黄島ダンジョン」を攻略するためだ。

 俺はアサイラムの活動の裏で国内各地のSランクダンジョンの攻略を進めてきた。

 国内に七つあるダンジョンのうち、未踏破なのはこの硫黄島ダンジョンを残すだけになっている。


 最後にこのダンジョンが残ったのは、純粋に立地の問題だ。

 国内のSランクダンジョンのうち、立地に恵まれているのは新宿駅地下ダンジョンと首里城ダンジョンだろう。

 他のダンジョンもアクセスがよいとは言えないが、それでも硫黄島よりははるかにマシだ。

 硫黄島は自衛官以外の立ち入りが禁止されてる島だからな。

 もっとも、過去に何度となくフラッドが発生していて、その時には協会所属の探索者が派遣されたこともあるらしい。

 その後は現地の自衛隊基地に高レベル探索者の自衛官を配置することで対処するようになったと聞いている。


 俺が硫黄島に渡ろうと思うと、取れる手段は限られる。


 ひとつは、からくりUFOを使って飛ぶという手だ。

 だが、からくりUFOの飛行速度には限界がある。

 魔力さえあれば航続距離は出せるんだが、今はアサイラムの「逃げる」クリスタルに少しでもリソース――MP、SP、DP、マナコイン、アイテムなど何でも――を貯めたい時期だからな。

 同じ理由で、俺が飛行魔法を使って自力で飛んでいくという案も却下した。


 もうひとつは、クダーヴェを召喚して乗っていくという手なんだが……プライドの高いあいつが便利な乗り物扱いすることを受け入れるとは思えないんだよな。


 その点、自衛隊機に(勝手に)相乗りさせてもらえば、無駄に魔力を使わずに済むし、時間の節約にもなるというわけだ。

 ちなみに、硫黄島との連絡任務に着く自衛隊機の情報は、探索者協会監察局の皆沢さんに流してもらった。

 皆沢さんは元自衛官だという話だが、もちろん自衛隊機の発着情報なんていうセンシティブなものを簡単に手に入れられたとは思えない。

 相当なリスクを負って協力してくれたと思うべきだ。


 じゃあ、そうまでして硫黄島を目指す理由は何なのか?

 それはまあ、達成できた時に話そうか。

 空振りになる可能性もないわけじゃないからな。


「こうしててもしかたない。さっさと行くか」


 現地での足なんてもちろん用意してるはずがない。

 俺は「縮地」「健脚」「筋疲労無効」を組み合わせた高速移動を使って、島内を飛ぶように駆けていく。

 新幹線に追いつけるくらいの速さが出るからな。

 岩山を駆け登り、用意してきた地図を見ながら、戦時中の壕の跡を見つけ出す。


 硫黄島ダンジョンは、新宿駅地下ダンジョンと同じく入口のポータルがない。

 地上に直接開口部ができている。

 その開口部は壕の奥にある。

 ここからダンジョンと明確に区切られているわけではなく、戦時中の壕からそのままダンジョンへとつながっている感じだ。


 開口部ということでは、最近他のSランクダンジョンやAランクダンジョンの一部でポータルが消滅し、地上に開口部ができる例が増えている。

 ダンジョンの外部と内部の境目が曖昧になっているのは、それだけダンジョンというものが常識化しつつあるってことなんだろう。

 今はまだ、フラッド以外の形でダンジョンからモンスターが溢れる事態にはなってないが、この先もずっとそうだとは限らない。


 日頃からSランクダンジョンのそばで暮らすこの島の自衛官たちは、その点には意識的なんだろう。

 壕の近くには監視カメラが無数にあるし、少し離れたところにはバリケードのような設備があった。

 バリケードのそばには最新の10式戦車が一輌置かれ、その主砲をダンジョンへと向けている。

 バリケードには歩哨の自衛官もいたが、もちろん見つからないようにすり抜けた。


 完全にダンジョンの中に入ったと確信できたところで、


「これで一安心か」


 Sランクダンジョンに入っておいて一安心もないものだが、俺にとっては勝って知ったるフィールドだ。

 といっても、Sランクダンジョンに慣れているというだけで、この硫黄島ダンジョンは初めてた。


「事前情報もないからな……。油断しないようにしないとな」


 他のSランクダンジョンであれば、浅い層に関しては多少の情報がある。

 だが、この硫黄島ダンジョンに関しては話が別だ。

 島そのものの情報だって半ば軍事機密みたいなものだからな。

 硫黄島ダンジョンについての情報を自衛隊が外部に開示してるはずもない。


「火山系統のモンスター、あるいは死霊系のモンスターが多いんじゃないかと思うんだが……」


 硫黄島は太平洋戦争の激戦地だからな。

 壕に隠れた日本兵をアメリカ兵が火炎放射器で駆逐する、という地獄のような光景が、現実にこの島では起きていたんだ。


「帰りには慰霊碑に手を合わせておくか」


 この島を荒らす非礼は、計画を成就させることで許してもらおう。

 凍崎を総理の座から引きずり下ろすことができなければ、この国が再び戦争に突入してしまうおそれもある。

 ロシアとの関係は準戦時状態とまで言われているし、東シナ海では中国との摩擦も起きている。

 アメリカとの関係すら、凍崎の演説以来冷えかけているほどだ。

 凍崎は日本の人口を三億にしてアメリカを抜くと公言したわけだからな。

 異世界との回廊というワイルドカードがあれば、日本が再びアメリカと太平洋の覇権を争うライバルとして浮上することもないとはいえない。

 Sランクダンジョンという「資源」のあるこの島は、またしても日米の争奪戦の対象になるだろう。


「っと、最初のモンスターだな。エンシェントフレイムリザードLv7901、冥府の突撃兵Lv7932……」


 ステータスには、Sランクダンジョンだけあって優秀なスキルが並んでいる。


 だが、


「どけ」


 俺の言葉とともに、モンスターの群れを光が呑んだ。

 「スーパーノヴァ」という光属性の攻撃魔法を元に、俺が改造を施したオリジナルの攻撃魔法だ。名前はとくにつけていない。特筆するほどの魔法でもないからな。

 光が消えたあとに、モンスターの姿は残っていない。


「問題ないな」


 俺は高速移動でダンジョンを進む。

 エンシェントフレイムリザードと冥府の突撃兵は名もなき光魔法で一撃。

 唯一、冥府の指揮官というモンスターのみが、魔法攻撃を無効にする「防人の唄」というスキルを持っていて、魔法では片付かない。

 冥府の指揮官は実体のない幽霊であり、通常の物理攻撃も効きづらい。

 でも、俺にはジョブ世界で手に入れた魔剣シャドースレイヤーがある。

 実体のない敵に特効のこの魔剣を使えば、幽霊系のモンスターも普通のモンスター同様切り裂ける。


 戦闘をせずに気づかれないようにすり抜けることもできるんだが、しばらくは調査を兼ねて戦ってみた。

 簒奪者の能力でドロップアイテムをひと通り回収し終えてからは、一気に速度を上げてダンジョン内を駆け抜ける。

 俺にはダンジョンマスターのジョブがあるから、ダンジョン内では迷いづらい。

 唯一の懸念は特殊なギミックがあることだが、硫黄島ダンジョンはどうやらギミックの少ない単純な構成のダンジョンのようだ。


 戦い、駆け、階層を下りながら、俺は心がほぐれるのを感じていた。


 Sランクダンジョンの探索中にリラックスするというのもおかしな話だが、最近はずっとアサイラムに詰め切りだったからな。

 人に囲まれて何かをしてるより、黙々とダンジョンに潜ってるほうが性に合ってることは否めない。

 シャイナを始め、保護した異世界人たちは揃いも揃って俺を救世主扱いしてくるしな。


 硫黄島ダンジョンは、一階層は広いが階層数は少ないダンジョンだった。

 最短経路がわかる俺にとってはやりやすいダンジョンだ。

 全5層を抜ける間に、残念ながらシークレットモンスターとの遭遇はなし。

 隠されている宝箱をいくつか見つけたが、他のSランクダンジョンで手に入れたアイテムと比べて特に優れているわけでもない。


 だが、途中でモンスターから銃がドロップした。

 例の特殊部隊――内閣官(E)房探索(C)犯罪即(R)応部隊(T)の連中が装備してた「三十年式歩兵銃」だな。

 俺にとってはあまり使いやすいとはいえない武器だが、回収はしておく。


「で、最奥についたわけだが……」


 探索時間半日ほどで、俺はダンジョンボス部屋前にやってきた。


「おっ、シークレットモンスターじゃないか」

 

 ダンジョンボスは、戦車だった。


 「自立思考型高性能戦車零々弐式 Lv12095」。

 未来的なデザインの戦車からは複数のドローンが発進し、空中から機銃やミサイルで攻撃してくる。


 だが、それがどうしたって話なんだよな。


 俺は新宿駅地下ダンジョンのシークレットダンジョンボスだった「超電磁トランスモード搭載エクスプレスウォーリアー」改め「雷電」を召喚する。


「頼むぜ、雷電」


 見上げるほどの人形ロボットが小さくうなずき、戦車との戦闘に突入する。


 俺はその隙に長めの詠唱を終えると、戦車に巨大な雷槌を落とす。


 さすがにSランクダンジョンのシークレットダンジョンボスだけあって、一撃では落とせない。

 俺がさらに何度か雷槌を落とした後、雷電が超電磁レールキャノンを発射して戦車を仕留めた。



《ダンジョンボスを倒した!》


《ダンジョンボスに経験値はありません。》



 以下、いくつかの「天の声」を聞き流していると、



《特殊条件の達成を確認。スキル「全体化(極)」を手に入れました。》



Congratulations !!! ────────────

特殊条件達成:「人口5000万人以上のいずれか一国の国内に存在するSランクダンジョンをすべて踏破する」

報酬:スキル「全体化(極)」

────────────────────

Skill──────────────────

全体化(極)

MPが許す限り、単体を対象とするスキルの効果を複数の対象に同時にかけることができる。

────────────────────



「これだ!」


 おっと、ひさしぶりに声が出てしまったな。

 最近は「天の声」も意外性がなくなってきてたとこなんだが、このスキルはさすがにすごすぎる。


 俺は手に入れたスキルの説明文をしばしとっくりと鑑賞する。


「これがあれば計画を早められるかもしれないな。おっと、せっかくのボス部屋なんだから、戦車の名付けもやっておくか」


 ついさっき倒したばかりの「自立思考型高性能戦車零々弐式」を召喚し、いつもの要領で命名する。


 ダンジョンを枯渇させて支配下に置くところまでやることはないだろう。

 「全体化(極)」がなければリソース確保のためにやったかもしれないけどな。


 帰りは自衛隊機に便乗する必要はない。

 【ダンジョントラベル】があるからな。

 ダンジョンの入口ポータルがなくなっている場合でも、【ダンジョントラベル】は発動可能だ。

 ダンジョンマスターの感覚でこのあたりからダンジョンに入るという地点を見つけ、その付近に立てば問題ない。


「おっと、慰霊碑を見ておくか」


 すっかり薄暗くなった島内を駆け、慰霊碑に手を合わせる。

 ダンジョンの入口に戻って【ダンジョントラベル】でアサイラムへ。

 【ダンジョントラベル】も燃費の悪いスキルだが、さすがに時間優先でいいだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版・コミックス好評発売中です!
1c5u8rmvlxl54n9vn1j7a80g1xm_dhm_go_np_6ifk.jpg
書籍版①~③はこちらから:
https://kc.kodansha.co.jp/title?code=1000041583
コミックス①~④はこちらから:
ttps://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000361655h
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000366526
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000370276
https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000370578
最新話はヤンマガWeb、マガポケ、ニコニコ漫画にて連載中!
― 新着の感想 ―
[良い点] オッ 思考戦車 ”シンク”とルビを振るとこですな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ