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ハズレスキル「逃げる」で俺は極限低レベルのまま最強を目指す ~経験値抑制&レベル1でスキルポイントが死ぬほどインフレ、スキルが取り放題になった件~  作者: 天宮暁
第六章「楽園」

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246 雑誌記者・春原

 芹香はどちらかといえば反対のようだったが、俺は春原と会ってみることにした。


 親友のようによく知る初対面の相手……というのは奇妙な感覚だ。


 俺の中にはジョブ世界の俺’の記憶もある。

 いくら別の並行世界の存在だと言っても、まったくの他人とは思えないのだ。


 レストランの個室で会った春原は、思った以上に多くのことを知っていた。

 凍崎は、ダンジョン崩壊の危険を知りながら、異世界への回廊を開くために放置したのではないか。

 小選挙区で落選した凍崎が総理大臣になれた裏にはなんらかのダンジョンスキル――おそらくは凍崎本人の固有スキルがあるのではないか。

 部分的な情報を繋ぎ合わせ、確信に迫る推理を披露してくれた。


 凍崎の「作戦変更」が他者の認識に影響を及ぼすことを考えると、取材と推理だけでそこまで真相に迫っているのは驚きだ。


 春原が俺から得たかったのは、自分の推理の確証となる情報だろう。


「なんか変な気分だな。あんたとは初めて会った気がしない」


 春原が首を傾げてそう言った。

 俺が最初から砕けた話し方をしたせいで、春原は早くもタメ口になっていた。

 春原に会うに先立って、アイテムボックス経由の文通であちらの春原からいくらか情報を得ておいたのもよかった。


「じゃあ、そのクローヴィスとかいうエルフの親玉が、元の世界に帰ろうとして引き起こしたのが奥多摩湖ダンジョンの崩壊だったんだな?」


「ああ。といっても、クローヴィスの実在を証明するものは……いや、なくはないか」


「なんだよ。いやにもったいぶるな」


「驚くなよ?」


 俺が「英霊召喚」を使ってクローヴィスの亡霊を召喚すると、春原は大きく仰け反った。


「と、とんでもねえな」


 と言いながら、クローヴィスに取材を試みる春原の記者根性に感心する。


「くそっ、亡霊だけあって、話にまとまりがねえな」


「それはしょうがないな。証人として法廷に立たせるわけにもいかないだろうし」


「じゃあなんで見せたんだ?」


「少なくともおまえは信じるだろ?」


「ああ、なるほどな……いくら『召喚師』でもゼロから亡霊をでっち上げることはできないだろうしな」


 ひと通り話したところで、春原は気まずそうに切り出した。


「実は俺、あんたと同じ高校だったんだ。すぐに辞めたから覚えてないだろうが……」


「覚えてるよ」


「……そうか。あの後、大変だったらしいな」


 さすが記者だけあって、そのことも調べてるのか。


「俺が学校に残ってたとして、何ができたとも思えねえけど……あんたのやったことは立派なことだと思う。ダンジョンも出現する前で、力なんて何もなかっただろうに、あんたは悪に立ち向かったんだ。なかなかできることじゃない」


「……そう言ってくれると救われるよ」


 俺は小さくため息をつき、


「その氷室純恋(すみれ)が凍崎の養女になったことは知ってるよな?」


「ああ。探索者ギルド『羅漢』を任されてたが、探索中の事故で死んだ。凍崎は他にも身寄りのない者を引き取って施設で育ててるらしいな。コールドハウス、と呼ばれてるとか。なんでそんなことをしてんのかは不明だが……」


「へえ。よくそんなことまで調べたな」


「ってことは、知ってるのか?」


「ああ。海ほたるダンジョンで探索者同士が衝突を起こした事件のことは?」


「解散総選挙の直前にあった事件だよな。性差別を撒き散らすネット組織と行き過ぎた女性至上主義の研究者が衝突したとかいう……あの事件もまさか関連があるのか?」


「女自会の神取桐子がコールドハウスの出身なんだよ。そもそも男児会と女自会の衝突自体、ゲンロン.netというウェブサイトが原因で……」


 春原は事情をよく調べてるし、記者だけに話の聞き方もうまかった。

 ジョブ世界の春原もそうだったが、仕事柄さらに磨きがかかってるように思えるな。


 過去の出来事については、話してしまっていいだろう。

 俺の話が事実である証拠なんてないが、俺には別に立証する義務があるわけでもない。

 優秀な記者なら俺の情報をもとに細かな証言を拾い上げていくはずだ。


「思った以上にとんでもねえな……」


「怖くなったか?」


「いんや。おもしろくなってきやがった」


 そう言って、春原はにやりと笑う。

 ジョブ世界の春原本人から受けたアドバイスでは、危険を隠して安心させるより、どれだけ危険かを強調したほうがおもしろがって乗ってくるはずだ、という。

 さすが本人だけはある的確なアドバイスだよな。


「コールドハウスこと『ザアカイの家』では『人格の強さ』が評価の基準だったらしい。凍崎の言う『人格の強さ』ってのは、自分の目的のためには他人を支配することを厭わない性格のことみたいだけどな」


「自分に代わって他人を支配する手駒が欲しかったってことか?」


「たぶんな」


 もちろん、人格の強さっていうのは、何も凍崎の言う通りのものじゃないと俺は思う。

 自分を抑え、人を思いやって行動するのにだって、人格の強さは必要だろう。

 凍崎の言う「人格の強さ」は、その意味では視野の狭い見方だと言って間違いない。


 だが、凍崎の鑑定眼はある意味では正確だった。

 ダンジョン出現後、コールドハウスからは強力な固有スキルの持ち主が何人も生まれたのだから。

 神取もそうだし、以前芹香が捕らえた雑喉という探索者もそうだ。

 高校生にして男児会のイデオローグになっていたお隣さんの弟のほう――桜井大和も、コールドハウスにスカウトされかけたことがあったらしい。

 結果的には、凍崎の言う「人格の強さ」の要件は、ダンジョンが要求する強力な固有スキルを付与される条件とかなりの精度で重なってたことになるな。

 もちろん、俺や芹香みたいに、その条件に当てはまらなそうな探索者もいるんだが。


 凍崎自身も強力な固有スキルの持ち主だが、そのこととも何か関連があるんだろうか?


 そこで春原は、少し考える様子を見せてから、


「関係があるかどうかは知らねえが、ひとつおもしろい話を聞いたぜ」


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