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ハズレスキル「逃げる」で俺は極限低レベルのまま最強を目指す ~経験値抑制&レベル1でスキルポイントが死ぬほどインフレ、スキルが取り放題になった件~  作者: 天宮暁
第四章「異聞」

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138 迫る夏

 期末試験は、まずまずの点数が取れたと思う。


 スキル世界に戻ることを考えればテストなんて捨ててもいい――最初はそうも思ったさ。

 だが、もし俺がスキル世界に戻ったあと、この世界にジョブ世界の俺が残ったら?

 そう考えると、高校生活二周目の立場としてはあまりいい加減なこともできないよな。

 ……まあ、二度目なのに「まずまず」程度の成績なんだから、この世界の俺(ダッシュ)にデカい顔はできないのだが。


 ちなみに、俺’は高校卒業後の進路をまだ決めかねていたらしい。


 進学か就職か――

 高校生の一般的な悩みだろうが、俺’のばあい「就職」というのは探索者として食ってくことを意味してる。

 実際、それだけの実力も実績もあるからな。


 だが、あえてスキル世界の俺の意見を言わせてもらうなら、進学できるものならしておいたほうがいいと思う。

 探索者には後からでもなれるが、後から大学に行くのは大変だからな。


 そりゃ、俺’は探索者として成功してはいる。

 老後まで余裕でまかなえるくらいの貯金もある。

 それでも、他の職業の選択肢も広いに越したことはない。


 病気や怪我はエリクサーで治せるから、その意味で探索者ができなくなることはない。

 だが、荒っぽい職業だけに嫌気がさしたりトラウマを負ったりすることもあるだろう。

 世論が探索者を危険視するようになってダンジョンへの出入りを規制する――なんて可能性もある。


 そうなったときに、探索者以外の仕事ができるかどうかは死活問題になりかねない。

 俺一人だけならともかく、ほのかちゃんと一緒に生きてくつもりならなおさらだ。

 どんな過酷な仕事でも可愛い嫁さんのためならがんばれる――というほどタフな人間じゃないってことは、スキル世界の経験からも明らかだからな。


 それに――いいじゃないか。

 「セイバー・セイバー」の四人で大学に入って、探索者をしながらキャンパスライフを送るっていうのも。

 スキル世界の俺にはやりたくてもできなかったことだけに、すごくまぶしく思えるよな。


 そんな人生の先達からの若き俺’への思いはさておき。


 夏休みに入ると、パーティでの探索が一気に増えた。

 旅行の予定は八月の後半だが、それまでのあいだ俺たちは時間を持て余す。

 自然、探索にも力が入ろうというものだ。


「そっちです、先輩!」


「ああ! ブラストノヴァ!」


 俺の爆光魔法がアークワイトを消し飛ばす。

 黒い襤褸、金の王冠、ねじくれた錫杖を持つ魔術師の亡霊が、爆縮する光に呑まれて消えた。


 あ、いけね、と思ったが遅かった。


「アークワイトを一撃かよ!?」


「すごいです、悠人さん!」


 戦闘を終えると、春原とほのかちゃんが言ってくる。


「……魔法にクリティカルが乗るようになったとは聞きましたが……ここまでですか?」


 と、紗雪は顎に指を添え、小首をかしげて黙り込む。


 偽装したジョブと本来のジョブとの差をごまかすため、俺は魔剣士の一部のユニークボーナスを、「いつのまにか増えてた」と言って三人に明かした。


 だが、今のブラストノヴァは魔剣士の技能によるものじゃない。

 とっさに、魔王の技能を使ってしまったのだ。


 魔法全般に「言語を絶した」適性を持つ魔王の技能で、爆光魔法を再構築。

 外に爆ぜる力を内向きに換え、爆発を爆縮へと書き換える。

 そうすることで本来は外向きに拡散してた爆発力が発動空間の中心へと集約され、魔法の威力が飛躍的に高くなる。


 俺が「ブラストノヴァ・インプロージョン」と名付けたこの魔法は、広域殲滅魔法では取りこぼす耐久性の高いモンスターを潰すために編み出した。

 崩壊後奥多摩湖ダンジョン第四層攻略のための、オリジナルの改造魔法である。


 スキル世界のスキルでも、ジョブ世界のジョブアビリティでも、魔法を自在に組み替えるなんてことはできなかった。

 しいていえば、ジョブ世界のアビリティのほうが、威力や範囲など魔法をアレンジできる幅が広いというくらいか。

 Sランクに達した魔王の魔法技術は、まさに「言語を絶した」という表現にふさわしいものだ。


「……何かつかんだのかもしれないな」


 と口を濁す俺。

 実際、スキル世界のスキルとは異なり、ジョブの技能は自由度が高い。

 創意工夫や経験によって技能の新たな使い方を閃くこともある。


「それにしたって威力が……」


 腑に落ちなそうにつぶやく紗雪に、


「紗雪ちゃん……」


 とほのかちゃんが目配せし、


「え、ええ。まあ、威力が下がったのならともかく、上がる分にはいいでしょう」


「だよね。次行こ、次」


 紗雪は疑問を呑み込み、ほのかちゃんがダンジョンの奥を向く。


「……ったく、水くせえな」


 春原のつぶやきを耳が拾ったのは、簒奪者の効果だろう。

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