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09 大聖女は自重しない



 どのくらいの間【吸着】を発動していたのか分からないけれど、ようやく、激流のような快楽フィーバータイムが終わったら、目の前に青い銅貨が浮かんでいた。


 へ……?

 あ、違うわ……私、この大穴の底で寝てたんだ……


 青い銅貨と思っていたのは、はるか頭上にある、この穴の入口。

 そして、そこから見えている空の青さだ。

 どうやら、冥界の大穴の穢れは全部【吸着】できたらしい。


 確かに、眠りに落ちる直前に【魔神の魔力を全て吸着しました】と脳内音声の響いて来ていた記憶が蘇る。


 見回せば、この冥界の大穴の底は、岩自体がうっすらと青い光を放っているらしく、周りにはロングソードやら、鎧やら、杖やら、アクセサリーやら、薬瓶ポーションやら……色んなものが落ちている。


 そっか……これって、今まで生贄にされた人とかの持ち物なのかな?

 これ、このまま置いておいたらゴミだよね。

 勿体ないなぁ。この剣なんてピッカピカで全然使ってないのに。


 私は、すぐ傍に落ちていた剣をひょいっと持ち上げる。

 すると、剣はシュルシュルと縮み、私の手にもピッタリ収まる短剣……いや、使い慣れた包丁みたいな形になってしまった。


 おー……これなら、お料理する時に便利そうだ。

 あ、でも、こんなの、私が神殿に持ち帰ったら、また取り上げられちゃうんだろうなぁ……


 ……ん?

 神殿に持ち帰る……?

 その時、ふいに脳裏に神官長の声が蘇った。


『そうだな……聖女マリクルシアよ、せめてもの情けだ。仮に、冥界の大穴にたゆたう穢れを全て【吸着】できたなら、そなたは自由にしてよいぞ』


 そうだ……そうだよ……!

 ここの吸着は終わったんだから、私、これから、自由なんだ!!!


 いや、むしろ『戻って来い』と言われていたとしても、もうあそこに戻る気には、なれない。


 ふと、幼い頃、優しい両親に読み聞かせて貰った英雄譚を思い出す。

 冒険者として時には強大なモンスターと戦ったり、時にはダンジョンを巡ったり……

 多彩なスキルを活用し、仲間と共に力を合わせて勝利をつかみ取る。そんな幸せな物語。 

 そうだ。小さい頃は、そんな自由な生活に憧れていたんだ、私。


 よし! もう、私は自由なんだから、冒険者になろう!!

 それは驚くほどあっさりと決まった。


 そうと決まれば……私、【異次元収納】を習得していたんだっけ!!

 あの快感の津波の中でも、それだけはしっかり覚えていた。


 このスキルは母様の憧れのスキルだったから、特に印象深い能力なのだ。


 【異次元収納】が有るなら、ここに落ちているゴミ……全部拾って行けば、冒険者として、生活する最初の装備品とかに使えるに違いない。


 よーし! ここにあるものぜーんぶ、【吸着】!


 ぎゅぼぼぼぼぼぼぼッ!!!!


 凄まじい勢いで、周りのものが根こそぎ私の胸に吸い込まれていく。

 どうやら、私の【異次元収納】は胸元に出し入れ口があるみたいだ。


 メリメリバキバキバキッ!!


 ……ってぇえええ!? この、周りの青白く光っている石も全部ゴミなの!?


 【鑑定】によると、高濃度の魔力に長時間浸かった鉱石が変化したものらしい。

 それらも音を立てて引き剥がされ、私の中に収納されてゆく。


 ま、いっか。元は石だし。

 吹っ切れてからというもの……私、少し性格が図太くなってしまったのかもしれない。

 

 きゅぼんッ!

 

 そうこうするうちに、最後の、ひときわ明るい青白い石が私の胸元に張り付いた。

 まるで【吸着】に抵抗するしているみたいに。


 え!? もしかして、【異次元収納】が詰まっちゃった!?

 せっかくの母様、憧れの魔法が! こんなモンで目詰まりとか勘弁してください!

 ……この石、押し込めば、私の中に入るかな?


 えい! ……くぅっ、ちょっと、大きくて苦しい感じするけど……ん、んむむっ!


 ずッぷん……!


「はぁ、はぁ、はぁっ……」


 良し! 挿入はいった!!

 その時、例の脳内に響く声が聞こえた。


 【マリクルシア様の存在のステージがお上がりになられました】


 ファッ!? な、なんで突然、そんな言葉遣いなの!?


 【魔神の核を浄化し、無事に同化なされた為、『大聖女』へと進化なさいました】

 【スキル:女神の翼にお目覚めになられました】


 ……おー……おお? え? さっきのあの石、魔神の核……だったんだ?

 それに、女神の翼って何だろう?


 ばさっ!!


 そう思った途端、自分の背中にほんのり青白い光を放つ翼が生えて来た。


 あ、この羽……自分の意思で動かせる。


 試しにぐぐっと広げてみたら、ふわり、と体が浮いた。

 すごい!! これ、飛べるんだ!!


 試しに『翼を隠したい』と念じてみたら、ゆるりと虹色の煙を残して背中の翼は闇に溶けた。

 これなら、目立たずに冒険者ができそうだ。


 よし! だったら準備をしなきゃ。

 私は、収納の中から、さっきの包丁を取り出すと、腰まで伸び放題だった髪をザックリとショートカットの長さまで切る。

 あ、髪は当然ゴミとして【吸着】。


 どうだろう? これなら、少年に見えるかな?

 普通、冒険者というのは、8割が男性の職業だ。

 これから私……いや、僕は普通の冒険者生活をエンジョイするのだ!!


 ボディラインは貧相であることに自信がある!

 これなら、きっとバレっこない。


 私……いや、僕は【女神の翼】を発動させると、自由の空へと文字通り飛び出した。



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