08 目覚めてはいけない方向に
突然、脳内に鳴り響いた声に、嵐のように荒れ狂っていた心の中の幼い私が、思わずその激情を忘れて目を丸くする。
その不思議な声はそれだけでは終わらない。
【スキル:魔力吸着・魔力変換・魔力操作を習得しました】
【スキル:時空収納を習得しました】
【魔力量最大値を超えたため、異次元収納に進化しました】
【魔神からの祝福を得ました】
【スキル:才能開花を習得しました】
【スキル:鑑定・神霊対話を習得しました】
【スキル:超再生・超回復を習得しました】
【どMの性癖が変態淑女に進化しました】
【魔神の寵愛を得ました】
えぇぇっ!?
連続で聞こえて来る声に、私の理解が追い付かない。
そこへ、更なる異変が体を襲う。
使い続けている【吸着】に浄化能力が付いたことで、今まで痛くて苦しいだけだった行為が驚くほど楽になっている。
いや……楽になってる、と、いうか……むしろ……これ、傷を吸着してる時と同じ……
いや、それよりも、もっと、ずっと、気持ちいい?
ギュゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
先ほど、『ぜんぶ吸い尽くすまで』と発動させてしまった【吸着】は、まだまだ終わりの見えない穢れの海をどんどんと体内に取り込み、同じ速度でガンガン浄化を繰り返す。
「ッ……はっ、はっ、はぅっ……!?」
ちょ、ちょ、ちょっと待ってね!?
んんん??
今までが今までだったのでちょっと色々頭が追い付かないんだけど……
ぞくぞくぞくっと私の背骨を駆け抜けた『快感』に思わず身震いをする。
そう、痛みとか、苦痛とかではないエクスタシー。
えーと、冷静に考えよう?
この穢れが私に触れた途端に、私の中に吸着され、瞬時に浄化ってことは……
と、平常心を引っ張り出したつもりの思考回路を粉砕する声が響いた。
【レベルが上がりました】
「ひぅっ!!」
ビクンッ!!
こ、この声が響くたびに、快感のステージがワンランク上がるというか……
ふぇ? わ、私、おかしくなってるのかな?
……いや、そりゃ、こんな仕打ちを受けていれば、多少おかしくなって当然か……
そう思った途端、私の中で別の何かが吹っ切れた。
ま、いいや。
どうせ、ここの穢れ……ぜんぶ【吸着】するんだし。
激痛で血反吐と涙を振り撒きながら作業をするより、キモチイイと感じながら作業するほうが絶対イイに決まっている。
「うぉぉおおおおおおおおっ!! 【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】……」
ズギュルゥゥゥンッッ!!!
【レベルが上がりました】
あッ、あっ、アーーーーーッ!?
こ、これ、凄くキモチイイんですけどっ!?
【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】……
ズギュン、ズギュン、ズギュゥゥゥン!
アーーーーーッ!?
私、開いてはいけない扉を開いちゃったの!?
はじけちゃう、はじけちゃうぅぅぅぅ、ふぐぅぅぅぅ、おおおぉぉぉッッ!!!
【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】……
あひゃはぁぁやはぁぁぁぁッ!!??
ナニコレ、ナニコレ!?
知らないッ!! こんな、しゅごいのッ!! しらないよぉぉぉっ!!
【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】【吸着】……
【レベルが上がりました】【レベルが上がりました】【レベルが………
もはやエンドレスに響く脳内の声に合わせて、上限突破を繰り返す快感。
全身の筋肉がデンキウナギに感電させられているように、ビクン、ビクン、カクン、カクンと痙攣を繰り返す。
暗闇のはずなのに、目の前にチカチカと光のフラッシュバックが。
はじけて、飛んで、またはじけ。
あばばばばばば……おぼぼぼぼぼぼ……
ここが暗闇で本当に良かった……
本当に、ほんとうによかった……
色んな意味で。