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05 『ゴミまみれ』聖女になる


 えーと、確か、今日は食事抜きだっけ?

 でも、さっきの傷を【吸着】したおかげで、あんまりお腹は空いていないから大丈夫。

 私が寝室へ向かう途中……普段は使われていない部屋から男女の声が聞こえて来た。


「神官長様ァん、……あの、本部からの連絡はっ、本当、なのでしょうか?」


 ねっとりと甘い嬌声交じりの不安気な声はキャシーヌさんだ。


「ふむ、冥界の大穴より魔神の魔力が溢れ出ている、との事か?」


「アァん、左様でございますわ。冥界の大穴から溢れた穢れを治める為に、穢れ無き聖女を捧げなければならないのでしょう? しかも、今年は我が神殿が『聖女』を出す当番だと……」


「ふふふ……まさか、私がそなたを手放すと思っているのかね」


「そんなことは……! でも、わたくし、不安なのですわ。『聖女』はわたくし達『聖女候補生』から選ばれるのでしょう?」


「なぁに、ワシの力を持ってすれば、そなたは何の心配もいらん」


「ふアァんっ!! 神官長さまっ! 神官長さまぁッ!!」


 キャシーヌさんの嬌声がさらに大きくなり、お餅でもついているような音を響かせている。そこから先はキャシーヌさんの犬の鳴き真似みたいな声が激しくて、話しているのかよく分からなかった。


 正式な聖女様になる話なら、私には縁遠い世界の事だ。

 そう考えて、私はその部屋の前を離れ、寝室へ向かったのだった。

 



 だが、数日後にその話が、私に関係する話になるとは……

 その時は、思ってもみなかったのである。




「聖女候補生、マリクルシアよ。そなたを『聖女』と認め、冥界の大穴への奉仕を任命する」


「……!?」


 珍しく朝一番に、普段は夕方の清掃時間にしか立ち入ることを許されていない神殿の祭壇室に呼び出された。

 私がそこに入ると、すでに神官長と副神官長、それに複数の神官さんとキャシーヌさん始め数名の聖女見習いの女の子達が立っている。

 そこで、すごくひさしぶりに呼ばれた自分の名前に、思わず目を見開いた。


 へ?

 わ、私が聖女……!?


「良いな。すでに聖女としての登録は済んでおる。そなたは、これより冥界の大穴へ向かうのだ。」


 神官長の言葉が終わるや否や、神官さん達が、私の両腕を後ろ手で縛り上げた。


 え? え?? どうして?


 と私を押さえつけている神官さんを見上げると、ニヤニヤと楽しそうに笑っている。

 その笑顔に、お腹の中に氷の塊を押し込まれたような冷たい、嫌な予感が押し寄せる。


「あらぁ、半人前以下の『ゴミまみれ』が聖女になれたんだから、神官長様に推薦した私たちに感謝すべきよ」「キャシーヌ様が、昨日【光魔法】の『ライト・ヒール』を習得なさったのよ」「そうそう。もうアンタなんかこの神殿に必要無いのよ」


 キャシーヌさんが勝ち誇ったように私を見下ろす。

 【光魔法】はレベルが上がると『ライト・ヒール』という癒しの技が使えるようになる、というのは有名な話だ。


「それに、キャシーヌのいうとおり冥界の大穴に投げ込まれる『生贄』だって、れっきとした聖女だぜ」「クスクス……でも、こんな汚い『ゴミまみれ』でも、魔神様は静まってくださるかしら?」「それは平気よ、だって、私たちと違って、穢れ無き乙女であることには違いないわ」「ふふふ、こんな『ゴミまみれ』抱きたいと思う殿方なんていらっしゃるのかしら?」「俺なら、大金を貰ってもゴメンだな」


 神官さんや聖女候補生の少女達が口々に嘲る。


 つまり、皆の話をまとめると、私は『聖女=生贄』ってこと?

 


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