03 『ゴミまみれ』のマリクルシア②
「さあ、二人共、この穢れを【吸着】せよ」
と、神官長が私をジロリと睨みつけた。
この国では、神様から与えられたスキルという魔法の力を持つ上級民と、それを持たない下級民に分けられている。
私、マリクルシアが持っているスキルは【吸着】
主にゴミや穢れを自分自身へと吸い寄せる能力は、この神殿内で「最底辺」の烙印を押されるのにふさわしいものだった。
付いたあだ名は『ゴミまみれ』
だが、このスキル、そんなに「最底辺」といわれるほど使えない能力ではない。吸い付けた汚れやゴミに力を籠めると、虹色のキラキラに変化させて消し去ることが出来るし、吸い寄せられるものもゴミや汚れだけではない。
こういった、怪我や病気みたいなものまで私の身体に吸い寄せる事ができるのだ。
しかも、私自身は、例えどんな酷い病や傷であっても【吸着】したものが原因で死ぬことは無い。
普通、骨折した場合はひと月からふた月は、骨がくっつくまで安静にする必要がある。
もしも、【回復魔法】のスキルがあれば、その術者の力量によっては完治するまでの期間を短縮することができる。
中には簡単な骨折くらいなら一瞬で治癒させてしまう癒し手もいるらしい。しかし、そんな凄腕は、この地方神殿にいない。
だが、私の【吸着】なら、傷そのものを、瞬時に「相手から、自分の体へ移し替える」ことができる。
つまり、一瞬にして相手を完治させる事ができるという一面を持っている。
もちろん、私自身も、通常からしてみたら、破格の速度で【吸引】した傷や病が体の中でキラキラに変わって行くから、その治癒速度はかなりのものだ。
簡単な骨折なら数刻で治ってしまう。
ただし……死ぬことはないし、いくら早い速度で治癒するとはいっても、傷は傷。
当然、それを引き受けている間中、私は痛みにのたうち回ることになる。
「早くせんか」
神官長がそういって私の身体を小突く。
思いのほか強かったので、私は怪我をした青年の前に膝まづいてしまった。
「早くしなさいよ、その位しか役に立たない能無しの『ゴミまみれ』さん」
キャシーヌさんが私の耳元で、他の人には聞こえないような小さな声で嘲る。
彼女が、私の【吸着】と同時に【光魔法】を発動させる……それが、この神殿でのルールだ。
そうすれば、まるで【光魔法】により、一瞬で傷が治ったように見えるのだとか。
なんでも、私の【吸着】のような無名スキルよりも、過去に勇者の妻となった聖女の持っていたスキルと同じ【光魔法】で癒した、とした方がお布施の金額を多く要求できるらしい。
私は、自分の首に巻かれた『沈黙の首輪』に触れる。
『沈黙の首輪』を付けさせられた理由が、このからくりを公にしないためなのだとか。
それに、拒絶しようものなら、折檻が酷くなるだけだ。私自身が普通に負ってしまった怪我を【吸着】することはできない。
ぐずぐずしていると、いらない折檻で、無駄な怪我を増やされかねない。
私はニヤリと笑顔を浮かべると、さっさと【吸着】のスキルを発動させた。
と、同時にキャシーヌさんが【光魔法】を発動させる。
ヌズルッ!
理を捻じ曲げるような音を響かせ、青年の腹の傷が私の身体へと吸着される。
ズキィィッ!!!
私の脳髄のてっぺんからつま先まで、鋭い痛みが駆け抜けた。