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第1話 チェシャ猫①
いくら歩いたのだろうか。
チェシャ猫は一向に現れない。
歩いていれば会えると言った芋虫が疑わしくなってきた。
チェシャ猫どころか他の生き物もいない。
一回休憩しようと、切り株に腰をかけ空を見上げる。
木々の間から見える空は澄んでいて、時折吹く風が心地よい。
すると突然、空中に何かが現れた。
にやにやした大きな口でふわりと浮いている。
驚いて目を見開くと、猫のような何かは嬉しそうに近付いて来た。
「やあ、元気かい?『白ウサギ』」
この声、聞き覚えがある。
あれは確か夢の中…いや、現実で聞いた声だったのだろうか。
「そんな難しい顔しないでよ。それより、チェシャ猫を探しているんでしょ?」
そうだった、早く会って話をしないと。
「チェシャ猫を知ってる?」
「チェシャ猫を知ってるか知りたい?答えはね、もちろん!
だって君の目の前にいる猫こそチェシャ猫だからね」
より嬉しそうにチェシャ猫は空中をくねくね動き回る。
「『白ウサギ』、ようこそ不思議の国へ」