プロローグ
―おめでとう。君は『白ウサギ』に選ばれた―
声が聞こえ目を覚ますと、そこは賑やかな森だった。
木の幹に寄りかかっていた体を起こし、ぐーっと伸びをする。
周りを見渡しても人の気配はこれっぽっちもなく、木々がざわめいているだけだった。
この森は知っているはずなのに、上手く思い出せない。
仕方ない、誰か探して案内してもらおう。
ふと目の先に白い煙が見えた。
火をおこしているのかもしれない、行ってみよう。
「わっ、すごい煙」
思ったよりも広がっている煙の中を進んでいく。
焦げ臭くなく、甘ったるい匂いが一面に漂う。
煙が発生している所にたどり着くと一匹の芋虫が大きなキノコの上に座っていた。
ふてくされた顔でふぅーと水タバコの煙を吐いて、こちらに気付く。
「誰かと思ったら『白ウサギ』か?またこの森に着いたのかよ」
白ウサギ…?
そういえば誰かにもそう呼ばれたような…。
「きょとんとした顔だな。もしかして、まだチェシャ猫に会ってないのか?」
「チェシャ猫…?」
一体なんの話だろう?
「チェシャ猫め、『白ウサギ』が来てるのに何してやがる」
イライラした様子の芋虫がさらに水タバコを吸うので視界は一層悪くなる。
「…あの、チェシャ猫には会わないといけないんですか?」
「ああ、あいつと話さないことには何も始まらないからな」
近くにいるはずの芋虫の姿は白い煙のせいで見えなくなっていた。
「じゃあ、会いに行きます。どこにいますか?」
「あいつは色々なところに現れるからなあ…。でも、この森のどこかだと思うから、歩いてれば会えるんじゃないか」
ありがとうございます、と軽くお礼をし、煙でおかしくなりそうな鼻を押さえて芋虫から離れた。