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死にかけの説得

サブタイトル中々「これだ」っていうのが思いつかないですね……。

一生の悩み。

「お、ごっ……」


  彼女の固く握られた拳が、俺の腹部を貫かんまでにめり込んでいく。

  もちろん説得に夢中になってて、完全に不意打ちだったっていうのもあるけど、それは単なる言い訳だ。


  こちらまで詰め寄ってくるスピードとか、

  単純なパワーとか、

  一撃の重さとか、


  とにかく、さっきまでのものとは比じゃないくらい、速いし、強いし、重い。

  たとえ何かに気をとられる、みたいなことがなかったにしても、反応できたものではないだろう。


  体がくの字に折り曲がる。

  体が痺れて、息がつまって、腹から重く、鈍い痛みが全身に伝わって。

  佐倉さんの声が、遠くから聞こえてくるようだ。


「五月蝿いっ……!五月蝿い五月蝿い五月蝿いッ! 貴方にっ、貴方に私の何がっ! 何がわかるっていうんですかッ!」


  今まで聞いたことのないほどに荒く、激しい佐倉さんの声。ずっと抑えていた感情が、一気に吹き出してしまったのだろうか。


  力なく膝を地面につけたところに、続けて脇腹に重い痛みがのしかかる。体から鈍い音が聞こえてきた。

  体が宙に舞って壁に叩きつけられる。

 

「がっ……!」

「貴方に、私の何がっ……!何もっ、何も知らないクセにっ!!」


  壁に押し付けられて、顔を殴られる。

  意識が遠のく。視界がぼやけて、頭がチカチカしてきた。


  でも、おかしいな。

  そんな状態にも関わらず、彼女の顔だけははっきりと見える。


「ごぶっ……!ごぼっ……!」


  彼女の細い膝が、俺の鳩尾にめり込んだとき、

  口から、赤いものが溢れ出した。錆びた鉄の味が口全体に広がっていく。



  これ、血、か。

  あ、死ぬのか、俺。

  自分の命が危ない事を、今、改めて実感する。


  意識が薄れていく今、正直、意識を手放してしまった方が楽なんじゃないか。そんな事が頭をよぎってしまう。

  でも、今、意識を手放してしまったら。

  そう思って佐倉さんを改めて見る。ああ、やっぱりだ。


  唇を強く噛んで、体を震わせて、

  すっごく辛そうな顔してる。

  さっき佐倉さんの言った通り、俺は、佐倉さんの事、何も知らないのだろう。


 でも、多分、今、「辛い」って思ってることくらいはわかる。


  もし、彼女が迷いを抱えたまま、俺を殺してしまったとしたら。

  ずっとこのままなんだろうな。

  こんな辛そうな顔を、ずっとさせ続けるんだろうな。

  それだけは、嫌だな。

  佐倉さんには、そんなこと、絶対に––––––。


  動いてくれ、と願って腕に力を込めると、手が、伸びてくれた。

  佐倉さんが振り上げた手を、残った力を振り絞って掴む。少しだけでいい。少しだけ、気を引ければ。


「あ––––––、」


  ほら、落ち着いてくれた。

  体の力が抜けてしまったのか、崩れ落ちて、ぺたんと尻餅をつく。佐倉さんの俺より少しだけ小さい身体が、小刻みに震えている。


「なんで、なんで認めてくれないんですか……。敵なんだって言ってくれるだけで私、もっと、もっと割り切れたのにっ……!」


  か細い声。でもはっきりと耳に届く。

  桜色の髪の合間から見える目は、ぎゅっ、と固く瞑られている。


「なんで、って、本当に、違うし……。それ、に、佐倉さんに誤解された、ままなのは、イヤだったから……」


  痛みで言葉が途切れ途切れになってしまうけど、言葉を必死につないでいく。


「それになんかさ、オートマで俺のこと、脅してる時から辛そう、だったから。辛い顔するくらいなら––––––––、」


  信じて欲しかった。

  佐倉さんにも、きっと色々あるのだろう。侵入者は即刻排除するように命令されれてるのかもしれないし、「俺を殺せ」と指令されたのかもしれない、

  けど、もし、俺が佐倉さんの敵だと勘違いされたまま、殺されたとして、それで佐倉さんがちょっとでも辛い思いをするのなら、


  悪いが、殺されてやることはできないのだ。

  最もこれは、突然出てきた咳に邪魔されて、続くことはなかったが。


「全く、もうっ……。そういう時だけ察しがいいんですね。貴方。貴方のそういうトコ、今に限って言えば、大っ嫌いですよ……」

「そいつぁどーも……」


  佐倉さんは戦意を完全に喪失したのか、俺を一応は信じてくれたのか、

  壁にもたれかかる俺を見上げて、少し笑ってくれた。

  俺はといえば、悪いがこれくらいの言葉を返して、軽く微笑み返してやることくらいしか、余力がない。


「……こっそり、私の部屋まで行きましょう。応急処置くらいなら心得てます。これくらいしか、できないですけど……」

「はは、信じてくれんのか? ありが–––––」


  ありがとう、そう返そうとした、その時、


「その必要はないわよ。咲」


  突然、凛とした声が聞こえた。

  反対側の廊下の奥から、人が歩いてくるのが見える。

  俺たちより4、5歳くらいは上だろうか。引き締まった顔で凛とした雰囲気を持つ綺麗な女性。

  黒髪っていう日本人らしい髪色だけど、あそこまで深いと、逆に印象的。


「その子を医務室まで連れて行きなさい。正しく処置をすれば、回復するでしょう」

「リーダー、いいんですか? 指令の方は……」


  リーダー、ということはこの女性、佐倉さんの上司的な何かか。指令ってことは、やはり俺を殺せ、みたいな命令が出ていたのか。

  そんでおそらく、尾っぽにひらひらしたもの付けるにつけまくって佐倉さんを焚きつけたのか。

  いやそうとしか考えられない。


  ……なんで一般市民殺そうとしてんだよ。


「……ああ、その事については、ボスから話があるから、司令室まで行きなさい。今はその子を早く医務室に–––––––って、気絶してない? その子」

「へっ? 天龍くん? ちょっと天龍くんっ!?」


  話してる内容はあまりよく分からなかったけど、助かったっていうのはなんとなくわかった。

  そう思うと急に力が抜けて–––––––、

  意識がプツンと切れた。

次回、タイトル回収(予定)。

重大なネタバレな様な気がしないでもない。

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