宇宙人襲来
人類は未曾有の危機に直面していた。
突如、宇宙より飛来した未確認飛行物体の編隊が、警告もなく世界各地に攻撃を仕掛けたのだ。いわゆる宇宙人の侵略である。
このSF紛いの出来事は、初めのうちこそ一笑に付されていたが、世界中の大都市が次々と壊滅していく現実に直面し、誰しもがパニックに陥った。
各国の空軍や海軍は即時応戦したが、宇宙人の円盤型戦闘機は遙かに高性能であり、全く相手にならなかった。
業を煮やした核保有国は、敵母艦へ向けての核攻撃を決断。地球への環境汚染も辞さない、まさに最終手段であった。
だが、敵の巨大母艦を包み込む、目に見えない防御シールドのせいで、それすらも通用しなかった。宇宙人の脅威的な科学力の前に人類は為す術もなかったのだ。
やがて侵略は最終段階を迎えた。宇宙人による地上への降下だ。
その模様は衛星中継を通じて全世界にライブで報じられることになり、生き残った者たちは悲嘆に暮れ、絶望に顔を覆った。
宇宙人の母艦は細い三脚のようなものを伸ばし、広い荒野の上に着陸した。そして、艦底の一部がエレベーターのように降下する。
その上には見たこともない、おぞましい生物が乗っていた。皮膚は緑色で、全体がイボで覆われており、眼は蛇のような禍々しさを感じさせ、口はサメのような鋭い歯が並んでいる。見るからに凶悪な面構えだ。そんな宇宙人が光線銃のような物を手に持ち、ついに地球の大地に降り立つ。
こんな怪物のような宇宙人によって人類は滅ぼされてしまうのか、と誰もが希望を失いかけたとき、奇跡が起きた。
大地を踏みしめるように歩き始めた宇宙人の一匹が、いきなり爆発で吹き飛んだのだ。さすがの宇宙人も、これで生きていられるはずがない。味方の爆死に、宇宙人たちは周囲の警戒を強めた。
だが、またしても爆発が宇宙人を吹き飛ばした。それは次第にあちこちで起き始める。しかし、宇宙人は何処から攻撃されているのかさっぱり分からず、右往左往していた。
至る所で発生する爆発に巻き込まれ、宇宙人の地上部隊はその戦力をおよそ半数にまで減らした。ものの五分もしないうちにである。恐慌に陥った宇宙人たちは撤退を余儀なくされた。
地上部隊の回収を終えた宇宙人たちの母艦は成層圏へと離脱した。それは世界各地で待機していた宇宙船も同様で、地球から急速に離れて行く。きっと思いもしなかった地球人の反撃に恐れを為したのだろう。
しかし、当の地球人たちにも何が起きたのか、さっぱり分からなかった。あれは地球側の攻撃ではない。ただ、宇宙人の撃退に成功したのは事実であり、誰もが歓喜したのは間違いなかった。
こうして人類最大の危機は回避された。
もしも、宇宙船の着陸した場所が、あの荒野でなければ、彼らが撤退することはなかったかも知れない。なぜなら――
偶然にも宇宙船が着陸したのは、長年、民族紛争が続く某国――その地雷原のド真ん中であった。紛争は泥沼化しており、すでに地雷を設置した者たちも、何処にどれだけ埋めたのか、そのすべてを把握していないだろう。
「何テ危険ナ星ナンダ……コレデハ我々ノ占領ガ成功シテモ、安心シテ外ヲ出歩クコトモ出来ナイデハナイカ……」
宇宙人の司令官は遠ざかる青く美しい地球を眺めながら、野蛮な原住民族たちを苦々しく思った。