プロローグ
2500年。
人々は節目の年をまさに「地球」をあげて祝った。
人間が地球から活動の場所は宇宙へと移し、太陽系の惑星は昔で言うところの「世界一周旅行」と同程度の扱いで旅行に行くことが出来るようになっている。
宇宙へ容易に飛び立てる技術が確立したことから、惑星内を飛び回る飛行機は安価なものとなり、自動車と同じ感覚で広く一般に普及した。
空港は宇宙港へと姿を変え、J〇Lなどは空の足から宇宙の足へと姿を変えた。
地球外の惑星で採掘される未知の鉱石や様々な資源。
無限に広がるとも思われた人類の未来。
「宇宙の覇者」とも思えるような感覚に、誰もが陥っていた。
広い宇宙から見れば、人が足を広げた範囲は米粒よりも小さいと言うのに。
2502年。
人が初めて宇宙へ昇ったときのように、誰しもが空を見上げた。
声高ではないが「人類以外の知的生命体」の存在を指摘した一部を除き、自らを宇宙の覇者として疑わなかった人々はあまりにも圧倒的な光景に乾いた笑いを上げるしかなかった。
太陽系に展開していた地球軍とも呼べる「国際連合軍(United Nations Forces)」こと「UNF」からの通信が一斉に途切れ始めてから、僅か数日。
母なる惑星、地球の上に空一面を覆うような巨大物体が出現したのが、2502年の12月1日。
後にその日は「悪夢の日」とも「革新の日」とも「人類最後の日」とも呼ばれるようになる。
巨大物体の出現が確認されてから数時間後。
どのような技術を使ってか、地球の空一面に「機械」、「アンドロイド」とも取れるような人物?が出現した。
明らかに映像とわかるそれから、機械音とも取れるような音が流れる。
機械音は徐々にその声音をかえていき、最終的には人語と取れるところまで改善される。
言語を一瞬にして適応させるというあまりに突拍子もない技術に気づいていたのはどれだけ居るのだろうか。
そんなことは置いておき、その人物から一方的な要望が伝えられる。
「我々はあなた達の未来であり、そして絶望である。 我々は現在のあなた達同様、過去に肉体を保持していたが適応の過程で肉の身を捨て、機械生命として姿を変えた。 頑強な体は過酷な環境を乗り越え、マシンが発達する速度と同様に我らを進化させた。 が、進化の先に我々が得た答えは合理であった。 突き詰めていった結果、無駄はそぎ落とされ、種としての「遊び」が無くなり、最早何者に変わる余地もない。 「遊び」がない、つまり、我というものが無くなった結果、我が種族は個を止め、同一となった。 様々な歴史から多様性を失った種族は、緩やかにではあるが滅びに向かっていく。 既に我が種族の命題はただ一つ。 肉の身を再び得ることである。 永遠とも思われた旅の中、我が種族との【同化】に耐えうるあなた達をやっと見つけた。 これより、我らの身を転換させ、あなた達との同化を開始する。」
所々平易な表現ではあるが、こちらの言語に合わせたばかりなのだろう。
だが、言葉遣いとは裏腹にあまりにも一方的な物言い。 同意を求めることすらしない。
圧倒的なまでの力の差を見せつけられ、恐慌こそ起こるものの抵抗など出来るはずがない。
言葉が終わったと同時に、巨大物体から光の雨と表現することしか出来ないものが広がり、逃げることなど出来ない速さで人々に降りかかる。
それはわずか数秒で終わり、空を見上げていた人々は誰とも知れない隣の人物と目を合わせた。
「何も起こらないじゃないか・・・」
と、一人が声を発した、フラグをたてた瞬間に「すべての人に等しく」激痛が訪れる。
壊れたラジオのようにただただ絶叫をあげる人々。
後に高名な科学者が言っていたことではあるが、【同化】がなされて体が変質していく痛みであるのだとか。
延々と続くと思われた激痛が「何もありませんでしたよ」と言わんばかりにあっさりと引いたあと、誰ともなしに人々は自らの手を見る。
何か自分に変化が起こると手を見るのはなぜなのだろうか。
「赤い血潮~」と歌にうたわれるような手ではない。
誰もが同一というわけではなく、個人によってその様相は異なるが、だが、誰もが等しく今までの人以外のものになっていた。
ある者は右腕一本そのものが「ター〇ネーター」?と言われるほどに機械的なものへと変質し、あるものは「キカ〇ダー」?と言われるほどに顔半分がメタリック。
さすがに「ガ〇タンク」?と思われるものは居ないが、背中から美しい機械の翼を生やしたものまで居た。
自らの、周りの姿を見て再び起こる絶望の絶叫。
最早、ただの人ではなくなったことをこれ以上ないほど見せつけられる。
母親は自らが腕に抱く赤子の姿を見て、この世の終わりともとれるほどの絶望を浮かべる。
中には「キタ」と呟きながら、キラキラした目で自分の体を見る者のいる。
全世界で起こった「人類の終焉」。
2502年12月1日。
人類は「人」から「機人」へとその姿を変えた。