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我が最強は、無力な君の為にある  作者: 姫神さくや
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第九話 シオンの決意 終わる平穏

■シオンの見る世界


 昨日は楽しかった。心のそこからそう思っていた。

 最初はリリィに嫌な思いをさせてしまった事への罪悪感から断る事が出来なくて、そのまま行ってしまったけど、楽しそうに笑う二人を見ていると何故かこちらまで楽しくなってきて、気が付くと自然に笑えていた。

 レンはなんというか、まるで出来の悪い弟みたいで放っておけないし、リリィは……、どことなく死んだ妹に似ていて、あの子が大きくなっていたら、彼氏を作って、こうやって紹介してくれたのかなと思ってしまい、色々と思い出してしまった。

 そして、リリィの最後の言葉。


『シオンさん、今日は一緒に遊んでくれてありがとう。なんだかお姉ちゃんが出来たみたいで楽しかった』


 あの一言は止めだったのかもしれない。私はもう、あの子の事が愛おしくてたまらなくなっていた。

 その後にレンが言った言葉もあいつにしては意外で、私の心によく響いた。

 ああ、もう駄目だ。私は例えあの二人を殺すように命令されても、実力とか関係なく絶対にあの二人を殺せない。

 そうだ、いっそあの科学者が発明したアレを盗んで三人で逃げるのも良いかもしれない。アレがあればリリィだって長旅に耐えられるはずだ。

 しかし、もしそうなれば、急に戦力が減ったこの都市郡は危険に晒されるかもしれない。

 でも、それで良いのかもしれない。私達はレンに頼り過ぎた。誰か一人を頼りにした都市は、その人間がいなくなれば簡単に崩壊する一代限りの欠陥都市になる。だから、この都市はここでレンに頼る事をやめて、生まれ変わるべきなのだ。


「それが良い」


 私は自分の考えが間違いの無い物だと確信した。

 そうなると色々と準備が必要だ。まずはアレが置いてある倉庫の鍵を盗んで……。そんな事を考えていると、いつの間にか会議室に到着する。

 はあ……、急な呼び出しは億劫だ。どうせまたレンをこき使う為の伝令係りになれと命令されるに決まっている。

 私はため息を付きながら扉を開けた。


「状況はどうなっている!」

「第六小都市の転移装置は沈黙状態のままです! おそらくは完全に破壊されたと思われます!」

「通信用の魔道具を使ってはどうですか!」

「あれは都市間の通信が出来るほど有効範囲は広くない! そんな事も知らんのか!」

「偵察部隊はどうだ!」

「転移装置無しだとどう頑張っても往復で二日はかかります! すぐには無理です!」

「他の小都市の偵察部隊はどうだ!」

「現在確認中です」

「ジーニー様はどうした!」

「現在行方が分かりません! どうやら助手の方と外へ出掛けたらしいのですが……」

「はあ!?」

「第六小都市を襲った魔物の特徴はわからんのか!」

「実際に目撃した者の話では、金属の化け物とだけ……」

「もっと詳しい情報を聞け!」

「転移前に受けた傷が原因で先程死亡しました」

「クソッ!」


 そこはいまだかつて見た事が無いほど慌しく人々が走り回る場所になっていた。


「遅いぞシオン!」

「クライブ!」


 予想外の光景に固まっていた私は、クライブに呼び寄せられ現在の状況を確認する。

 その内容は驚くべき事だった。


「第六小都市に突然魔物が現れ、都市の防壁を破壊。現在は転移装置が破壊され確認が不可能だが、防壁を破壊する魔物を援護無しに撃退できる戦力はあそこには無い。おそらくは……」

「そんな……」


 この都市郡が造られて以降、小都市の防壁まで魔物が辿り着く事は何度もあった。

 しかし、小都市の防壁は強固な物であり、破壊されるよりも前に援軍が到着し、全ての小都市は今まで難攻不落の要塞都市となっていた。

 その小都市のひとつが落とされた。しかも、防壁は魔物が確認されてから数分で破壊されたそうだ。

 本来、魔物が近づけば偵察部隊がその姿を確認し、余裕を持って撃退できるはずなのだが、何故かその際偵察部隊から連絡は無かったらしい。

 その状況で考えられる事は二つ。その魔物に偵察部隊に発見されずに移動する能力があるか、偵察部隊が連絡前に皆殺しにされたかだ。

 小都市との連絡用の魔道具を持っている偵察部隊が、連絡も出来ずに殺されるなど間違いだと思いたいが、防壁が短時間で破られた事を考えると、無いとも言い切れない。


「それで、今後はどうするの?」

「あの男を向かわせる」

「でしょうね……」


 この状況で私が呼ばれた事を考えれば、それ以外にはありえないだろう。結局こいつらはレンに頼る事しか出来ないのだ。

 いや、それは私も同じか。これから私はリリィからあの男を取り上げて、状況も分かっていない死地へと送り出すのだから。


「それで、どうやって送り出すの? 他の小都市を経由するにしても――」

「緊急連絡! 第三小都市に、前回の魔物襲撃時に観測された数十倍もの魔物が接近中との連絡が届きました!」

「はあ!?」


 突然現れた男の発言により、私の思考は停止してしまう。この男はいったい何を言っているのだろう。


「ふざけるな! 第三小都市は数日前に万に届く魔物を退けたばかりだぞ! それの数十倍だと!」


 それは、この場にいる全員が思った事だった。緊急連絡を伝えてきた男も、そう言われる事を予想していたのだろう。状況を詳しく説明する。


「それが、魔物の群れの中に小都市の半分程の大きさがある巨大な芋虫型の魔物がおり、その魔物が多種多様な魔物を産み落としながら移動しているそうです」

「小都市の半分! 多種多様な魔物を産む魔物! 信じられるか!」


 魔物がどこから来て、どうやって増えるのかは謎とされているが、生物である事を考えれば、同種の雄と雌の間が子供が出来るという形で間違いないと思われていた。しかし、今の報告が本当なら、多種多様な魔物はたった一体の魔物に産み出されていたという事になる。

 それは、今まで考えられてきた常識を覆す事実だった。


「全て真実です! おそらく前回の魔物襲撃はその魔物が産み出した魔物の軍勢の一部だったのでしょう。このままでは第三小都市だけでなく、第二、第四小都市も魔物の群れに飲み込まれると思われます……」

「神よ……」


 ただでさえ第六小都市が壊滅していると予想されているのに、ここに来てこんな馬鹿げた話が出るなんて本当にふざけている。ああ、こんな事ならもっと早くあの二人を連れてこの都市郡から離れるべきだったのだ。


「それで……、私はどうすれば良いの」

「ああ……」


 レンがどれだけ強くても、レンの身体は一つしかない。ちょうど反対の位置にある第六小都市と第三小都市に同時に向かわせる事など不可能だ。だから、決断しなければならない。


「第六小都市は現在状況不明だ。もしかすると都市を攻め落とした魔物はそのままその場所にいついている可能性もあり、今後の危険度も不明だ。しかし、第三小都市の方は今行かなければ確実に落ちる。それだけは防がねばならない……。よってあの男は第三小都市へ向かわせ、それ以外の腕利きを第六小都市方面へ展開させる事とするべきだ」


 結局その意見が採用され、私はレンの元へと走る。

 レンの元に辿り着くまでの間、私はずっとその判断が正しいのか考えていたが、答えは出なかった。

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