第八話 天才科学者
仕事終わって家に着いたら23時過ぎてて、更新が途切れてしまうかと思いました。
ちゃんと、朝出勤前に投稿しておけばよかったです。
■とある異世界転生者が見る世界
俺は天才だ。この世界ではそういう扱いをされている。
生まれてからすぐに文字を理解し、この世界に存在しない様々な知識を披露する俺は神の御使いとまで言われ、持て囃されている。
そんな俺の正体は異世界転生者だ。
俺は元々日本という国で研究員をしていた。
研究内容は様々な機械の発明、後は人工知能の開発だった。
元の世界ではその人工知能の開発を進めていくうちに、俺の才能に嫉妬した奴らに迫害され、研究員の地位を剥奪されて、個人で研究を続けた結果、予算がなくなり餓死した。
しかし、この世界では俺の持つ知識は唯一無二の存在で、惜しみなく援助を受け、研究を続ける事ができていた。
まあ、定期的に成果を出さなければならないので、ある程度知識を小出しにしたり、転移装置などの研究もしなければならなかったが、一番成果を出したい人工知能の研究は常に続けられ満足していた。
そして今日。その成果が実って、魔法と科学の融合により、人工知能を搭載した兵器が誕生した。
「凄いですねジーニー様」
「だろう」
ジーニーというのはこの世界での俺の名だ。なかなかに気に入っている。
そして、俺を持て囃す隣の男の名はアレン。助手としては優秀な男だ。特に俺への尊敬の眼差しを常に忘れないのが評価できる。
そして、第六小都市近くの荒れ果てた大地に立つ俺たちの前にあるのは、太い腕を持った二足歩行のドラゴンといった見た目の金属の塊だ。
俺達はこいつの稼動実験をする為、適当な理由をつけてコッソリと都市から抜け出してきていた。
まあ、今頃都市では俺が行方不明になって騒ぎになっているかもしれないが、科学の発展の為には致し方ない事だ。
「よし、立ち上がれアルティメット・マシーナリー・ドラゴン!」
「おお!」
俺の声に反応して、五メートルの巨体が立ち上がる。
本来、この世界の魔道具――魔力で動く道具全般は、人間が魔力を注ぎ込まなければ動かないのだがこいつは違う。このアルティメット・マシーナリー・ドラゴンは大気中の魔力を吸収し、自分で物事を考え半永久的に動き続ける事が可能だった。
どこぞの馬鹿はもし勝手に暴れたら危険だなどと騒いでいたが、そんな事は絶対にありえない。何故ならこのアルティメット・マシーナリー・ドラゴンに搭載された人工知能は、天才であるこの俺が作ったものだからだ。
「よし、アルティメット・マシーナリー・ドラゴン! あそこにいる奴らを皆殺しにしろ!」
『了解しました』
命令を受けたアルティメット・マシーナリー・ドラゴンは、流暢な人工音声で返事をしつつ荒野を走り、魔物の群れへ突撃する。
アルティメット・マシーナリー・ドラゴンには様々な兵装が搭載されているが、目の前の魔物程度が相手であれば、四肢を振り回すだけで一方的に勝利してしまう。
だが、暴れるうちにその金属の体には傷が付き、自分の力で自分の体を壊してしまっていた。
「ああ、破損が!」
「大丈夫だ。見ていろ」
そう言った俺の目の前で、アルティメット・マシーナリー・ドラゴンの体に付いた傷が、見る見るうちに塞がっていく。これは、普通の回復魔法とは少し異なり、魔力を物質に変換する事で行っている現象だ。
「おお! 自動回復まで!」
「それだけではない。このアルティメット・マシーナリー・ドラゴンの体は自己進化、自己再生、自己増殖の能力を持っている。よって傷が直っただけではなく、あの体は戦う前よりも進化し、強化されているのだ」
「そういえば、心なしか体もたくましくなったように見えます!」
「はっはっはっ! そうだろう! そうだろう!」
いや、流石にあれだけの戦いでは目に見える程の進化はしていないと思うが、そう思い込んでいるのならば思わせておこう。
それは良いとして、結果は上々だ。
アルティメット・マシーナリー・ドラゴンは問題なく魔物との戦いを終わらせ、戦闘前よりもその性能を若干ではあるが向上させた。後は戦わせるだけでどんどん進化していく。
そして、ゆくゆくはあのレンとか言う男を押しのけて、俺の作った兵器がこの世界の究極存在として君臨し、それを開発した俺の名は永遠に語り継がれる事になるのだ。
そうすればもう、日常に使える魔道具や、中途半端な兵器の魔道具などを発明しなくても、誰も文句を言わなくなる。あとは更に高度な人工知能の開発に人生を費やせるのだ。
「さあ! アルティメット・マシーナリー・ドラゴンよ! 次の魔物を見つけ、一匹残らず殺し尽くすのだ!」
アルティメット・マシーナリー・ドラゴンには魔力索敵装置も搭載されているので、これだけ命令すれば次の魔物へ向かって行くと思ったのだが、何故か動かない。
もしかして故障か。いや、そんなはずはない。天才の俺が作るものには間違いは無いのだ。
『魔物とはどんな存在ですか?』
立ち尽くすアルティメット・マシーナリー・ドラゴンからそんな質問が飛んでくる。
なるほど、そういえば今まで俺は、アルティメット・マシーナリー・ドラゴンに魔物について具体的に教えておらず、先程もあそこにいる奴らを皆殺しにしろと命令していた。その為に、自分が戦っているものが何かを理解する機会が無かったのだろう。
しかし、魔物についてどう説明したものか。下手に説明すると家畜と魔物の区別が付かなくなる可能性もあるので、わかりやすく説明する必要がある。
「そうだ」
俺はもっともわかりやすい魔物と他の生物との区別の仕方を思いつく。
「体内に魔力を保有している生物、それが魔物だ! お前は人間を守り、その魔物を皆殺しにする為に生まれたのだ!」
この世界には元の世界にいたような犬猫や、豚や牛の様なものも存在するのだが、それらは体内に一切魔力を保有していない。この世界において魔力を保有している生物というのは、魔物と人間くらいのものなのだ。よって、それさえ分かっていればなんの問題も無い。
「あの! ジーニー様!」
俺が説明を終えると、突然アレンが焦った表情を向けてくる。こいつはどうしたと言うのだろうか?
『了解しました。人間を守る為に該当する生物。目の前の魔物を皆殺しにします』
そう言いながら、アルティメット・マシーナリー・ドラゴンはアレンの頭を掴む。こいつは何をしているんだ?
そう思ったのも束の間。俺の目の前でアレンの頭が握り潰された。
「はへ……?」
非現実的な光景を目の当たりにして、俺の思考が停止する。
この世界は俺の元いた世界に比べて危険にあふれた世界だが、それでも俺は人が死ぬのを目の当たりにした事は無かった。だから、何が起こっているのか理解が追いつかなかった。
しかし、この天才の頭脳はすぐに自分の過ちに気が付く。先程の説明では人間も魔物という事になってしまうのだ。
普通に考えれば人間は例外だという事ぐらい分かりそうなものだが、残念ながらアルティメット・マシーナリー・ドラゴンは人間という単語を学習していない。だから、人間を守りと一言添えても、目の前にいるのが守るべき人間だと判断できなかったのだろう。
ならば今俺のするべき事は一つ。間違いの訂正だ。天才である俺は、間違いだってしっかりと修正できるのだ。
「アルティメット・マシーナリー・ドラゴ――!」
俺の天才の頭脳は、無駄に長くしてしまったその名を言い切るよりも前に、ただの肉の塊になったのだった。
◆◆◆
■とある人工知能が見る世界
二体の魔物の殺害を完了。あまりにも弱い為進化は不可能。
もっと効率よく魔物を殺す為には、更なる進化が必要。
よって、より強い魔物との戦闘が必要。
しかし、魔物の強弱の判断方法が不明。創造主は自らを魔物だと宣言し、魔物を殺すように指示。ワタシがそれを遂行した為に創造主への確認は不可能。
検討の結果、より多くの魔物と戦う事でデータを得る事が最適と判断。
この付近には魔物が大量に生息する場所が七箇所存在。
そのうち、最も近い魔物の生息地を襲撃し、魔物を皆殺しにする事を決定。移動を開始。
移動中、魔物の集団を発見。
「何だあれは」
「魔物か」
「いや、でもなんかおかしくないか?」
「新種の魔物なのかもしれないだろ」
「とにかく第六小都市に連絡を……」
魔物が移動を開始。追撃し、皆殺しにします。
「うわ! こっちに来る!」
「何でバレたんだ!」
「知るか!」
「おい! 俺たちがあいつを引き付ける! お前は連絡を――!」
「わか――!」
魔物達が何かをする前に、レーザー砲にて攻撃。全ての魔物が蒸発。
周囲に更に魔物の集団を発見。戦闘を続行。
魔物の集団を皆殺し完了。
続いて巨大な魔物の巣へ攻撃開始。
頑丈な壁が存在した為、レーザー砲の威力を向上させ破壊。
巣の中央にある施設から魔物が逃走しているのを確認。該当施設を破壊。
残りの魔物を皆殺しにする為戦闘中。
強い魔物も多数おり、戦闘能力の向上を確認。
多くの魔物を倒す為の方法を検討。
自己増殖能力を使用し、小型の分身体の製造を開始。
進化の役に立たない魔物の排除を開始。
分身体を倒す強い魔物を優先的に排除。
度重なる攻撃により防御能力が向上。
度重なる破損により自己再生能力が向上。
全体的な攻撃力が向上。
一度により多くの魔物を殺す為、肉体を巨大化。
進化、進化、進化……。
「魔物の反応無し」
魔物の皆殺しを完了しました。
これで、ワタシは更に進化する事が出来ました。
こうして進化を繰り返し、ワタシは人間を守る為の力を手に入れるのです。
そういえば、創造主がおっしゃっていた人間とは、いったいどんな存在なのでしょうか。
ワタシは何を守れば良いのでしょうか。
きっと、こうやって魔物を殺し続ければ、いつか守るべき人間とも出会えるでしょう。
ワタシはいつか人間と出会い、人間を守る為、こうして魔物を殺し続けるのです。