最終話 愛してくれて、ありがとう
本日三話目の投稿になります。
ご注意ください。
静寂に包まれた中央大都市だったが、しばらくすると瓦礫が押しのけられる音と、人の声が聞こえてくる。どうやらあの戦いの生存者がいるようだ。
俺は建造物から飛び降り、生き残りを見つけるとそちらに近付く。
「ひっ……! 化け物……!」
しかし、目が合ったその生存者は俺に対して恐怖に染まった目を向けてきた。ああ、別にこの都市の住民に感謝される為に戦った訳ではないけど、この反応は傷付くな。
「こないで……!」
「分かった……」
俺はそれだけ呟いて、その生存者を置き去りにした。正直言って今の俺は魔力の残量が空っぽの状態で、あの場に残っても大した事は出来ない。なので無理して残る気にもなれなかった。
そして、同じように怯える様子で俺を見つめる生存者達の前を素通りして、都市の外へ出てその場に座り込んだ。
「疲れた……」
正直な感想だ。
俺の人生の中で、ここまで魔力を消耗したのは初めてだった。裏奥義を習得した時だって、もっと魔力の残量には余裕がある状態で練習したのだ。本当に魔力が空っぽになるという事がどれだけ不安な事か俺は今思い知らされている。
今の俺は何の魔法も使えない。例えば今、シオンに時間停止の魔法を使われたらそのまま時間を停止されてしまうだろう。
そんな状態で防壁の外に座り込むのは危険な事だが都市の中よりはマシだ。あそこじゃ誰に逆恨みされて殺されるか分かったもんじゃない。
そんな風に考えながらうな垂れていると、視界に人影が映りこんでくる。
「お疲れみたいね」
「頑張ったもんね、大丈夫? あと、助けてくれてありがとう」
そこにいたのは、俺に変わらず優しい目を向けてくれるリリィと、最近急に前より優しくなった気がするシオンだった。
二人を見ていると、何故か心が軽くなったのを感じる。どうやら俺は思っていた以上に人に感謝されない事が辛かったらしい。二人が純粋に感謝したり心配してくれたりするのがうれしかった。
そして、二人がくれた優しさから、俺は自然と涙を流していた。
「くっ……」
「どうしたの? 痛いの?」
「その手、痛そうだものね。回復魔法を使う余力も無いの? 痛み止めは持ってるけど効くかしら……?」
そんな風に話す二人を、俺はまとめて抱きしめる。リリィはそんな俺に何も言わず、ただ頭を撫でて「頑張ったね」と呟いてくれて、シオンは恥ずかしがりながらも離れないで「あなたは、よくやったわ」と言ってくれた。
俺はその言葉がうれしくて、この大切な人達を絶対に手放したくないと思った。
「お前達は本当に、最高の女だよ……」
「ちょっと私は……!」
「えへへ、そうでしょ」
その一言を聞いてシオンはギョッとした顔をするが、リリィが笑っているのを見て、「リリィが良いなら」と言って元の顔に戻る。今のはどういう意味なのだろうか。
そして、俺はその状態のまましばらく二人の温もりを感じていたが、いい加減に離れろとシオンに言われ、仕方なく地面に腰を下ろす。
「それで、どうなの?」
「ああ、少しは回復した」
まだ回復魔法を使える程は魔力が戻っていないが、ある程度戦える程度は魔力が回復した。そして、そのお陰で精神状態も安定してくる。そうするとさっきまでの行動が急に気恥ずかしく感じてきて、顔が赤くなるのを感じながらこれからどうするのかを尋ねてみた。
「それについて相談したい事があるの」
そう話すシオンについて行き、俺達は都市から少し離れた場所にある倉庫に辿り着く。そこはなんと言うか、研究室のような場所だった。
「ここは?」
「変な物がいっぱい」
「そうね、変な人が変な物を作る場所ってところね」
詳しく聞くと、ここは中央大都市に住んでいた科学者の隠れ家らしい。何で態々都市の外にそんなものがあるのかと疑問に思ったが、その科学者は相当な変人らしく、そういった理解不能な謎の行動をよくしていたそうで、これもその一つらしい。
因みにその科学者は、ドラゴンの襲撃が発覚する前から行方が分からないらしく、もしかしたらここにいるのかと考えたそうだがもぬけの殻だったそうだ。
「そういえば、あのでっかい奴は誰かが作ったものらしかったんだが、もしかしてその科学者が作ったものだったりしないか?」
「えっ? 誰かが作った? ……まあ、それが本当だとしても、あの変人が犯人って事は無いでしょう。作った兵器で自分の暮らしていた場所を破壊するなんて、流石にそこまで頭がおかしい人では無いはずよ」
「だよな。すまん、忘れてくれ」
もしかするとそうなんじゃないかと思ったが、頭の良い科学者が、あんな訳の分からない勘違いをした奴を生み出すのもおかしな話だ。きっと俺の勘違いだろう。
だとすると、ドラゴンを作ったのは誰なのかという疑問も生まれるが、それは俺には関係のない話だ。俺の仕事は戦う事であり、犯人探しではないのだから。
「ほらレン。あなたに見せたいものはこれよ」
「これは……」
そんな事を考えながらシオンについていくと、倉庫の奥で一つの金属の塊を発見する。それは大きな長四角の箱に四個の車輪を付けたような物で、なんというか馬車のような物だった。
ただ、その馬車のような物には馬が引く為の部分は無く、どうやって動かす物なのかは分からない。
「何だこれ?」
「えっと、魔道自動車だって」
「魔道自動車?」
「そう、魔道自動車よ!」
シオンは突然興奮したようになりながら、その魔道自動車というものを両手を広げ、何かを紹介するようなポーズを取ってアピールしてくる。
「この魔道自動車は席に乗っている人間の魔力を使って車輪を回し、前に進む事が出来る魔道具よ。しかも、本体への衝撃を吸収する仕掛けや、車輪に形を変えて悪路でも走れる様になる仕掛けがしてあってどんな道でも進め、更にはある程度は自動修復されるという夢の乗り物なのよ!」
「へえ……」
「凄いな……」
「でしょう!」
俺には何故シオンがこんなにも生き生きして、こいつについて語っているのか理解できないが、それはリリィも同じらしく、少し遠くを見ながら話を聞き流している。
「んで、こいつでどうするんだ」
「決まってるじゃない。これからはこれに乗って旅をするの。そうすればリリィも疲れずに移動出来るでしょう」
「あっ……、シオンさん……」
シオンの説明を聞いて、リリィはうれしそうにする。しかし、この話には問題がある。
「それは有難いが、俺はこんなもの――」
「ただ、これを動かせるのは製作者を除いて、こっそり動かして遊んでいた私くらいよ。だから、これに乗りたければ私も旅に同行させてもらう事になるわ」
「シオン、お前……」
シオンの顔は本気だった。本気で俺達と一緒に来ると言っているのだ。その申し出は俺にとって思い描いていた理想のような物で、これは本当に現実なのかと疑ってしまう。
「シオンさん、ずっと一緒にいてくれるの……?」
「もちろんよ、リリィ……!」
二人はそう言い合うと、仲睦まじく抱き合った。もしかして、こいつら予め示し合わせてたんじゃないか。そう思ってしまうくらい二人の息はピッタリだった。
ああ、こんなお膳立てがされたら反対する事なんてどうせ出来はしない。俺は恥ずかしさから頭を掻きながらシオンに言った。
「一度こんな便利な物知ったらきっと二度と手放せなくなる。だからシオン、一度同行を始めたら、何があってもお前を手放したりしないからな。ずっと一緒にいてくれよ」
なんだか顔が熱い。これはまるでプロポーズみたいだ。シオンもそう思ったらしく顔を赤くしている。
そして、顔を赤くして見つめ合う俺たちを見たリリィは、笑みを浮かべながら近付き、俺の耳元で囁いてくる。
「レン……、シオンさんに手を出す時は、私にも一緒に手を出してね……」
「なっ……!」
俺が更に顔を赤くして、そのまま離れていったリリィの顔を見ると、リリィは頬を赤く染めながらも少し不安そうに笑っていた。
俺はその笑顔を見て、今まで先延ばしにしてきた想いを正直に伝えなければいけないと思った。そうしなければきっと、この先リリィはこの笑顔をし続ける事になるから。
「リリィ、シオンは確かにいい奴だ。だけど、俺が世界で一番大好きな女はお前だよ。だから、手を出すのも……、そして、結婚するのもお前じゃないと駄目だ」
「レン……。うん……、ありがとう」
「ちょっと待って、二人はいったいどんな内緒話をしていたの? 何で手を出すとか出さないとかの話になってるの? そして、何で私はふられたみたいになってるのよ!」
なんだか騒がしい奴がいるが、俺達はその声を無視して抱き合った。六年前に会った時はとても小さかったその身体は、今では随分大きくなったが、それでも俺にとってリリィは小さくて、可愛くて、儚くて、世界で一番大切な少女だった。
「俺と結婚しよう、リリィ……。本当は、ずっとこれを言いたかったんだ」
「はい、私はレンと結婚します……。私も、ずっと言ってもらえるの待ってたんだから……」
俺達が抱き合って口付けを交わす中、シオンは「もうどうにでもして」とだけ呟いて、魔道自動車を動かす為の準備を始める。
その時のシオンの顔が、何故かとてもうれしそうだった事が、俺にとって印象的だった。
◆◆◆
「はやーい!」
「俺が走った方が速いぞ」
「あなたと比べないでよ!」
その後、シオンが激怒するまで甘い時間を堪能してから、俺達は魔道自動車に乗り込んで外の世界を駆け抜けていた。
ちょっとした冗談で俺の方が速いと言ったが、この魔道自動車の速度はなかなかのものだ。正直肉体に負担をかけるよな事をしなければ、俺でも易々と追い抜く事は出来ないだろう。まったく、世の中にはまだまだ俺の知らない便利なものがあるんだな。
「そろそろ見えてくるわよ」
「本当か?」
「私、第三小都市って見るの初めて」
現在俺達は、俺の希望もあって第三小都市の近くまでやって来ていた。
中央大都市については、もう俺が出来る事は何も無いと思っていたが、魔物を倒さずに放り出してしまった第三小都市が、その後どうなったか気になっていた。だから、この都市郡から離れるついでに確認しておこうと思った。
まあ、生き残っていた魔物の種類的に、第三小都市の防壁がすぐに破られている様な事は無いだろうから、防壁の周囲の魔物を蹴散らせばそれで終わりだと思っていた俺の目の前に、予想外の光景が広がっていた。
「うおおおおおおおおお!!!」
「俺達の勝利だ!」
「ただの人間を舐めるな!」
そこに立っていたのは魔物ではなく、勝利の雄たけびを上げる人間達の姿だった。
「あの混乱状態から勝ったのか……」
「どうやら、小都市を最大限利用して篭城戦をしたみたいね。まあ、元々あなたが来るまではああした戦い方が主流で、態々遠くまで出向いて戦うのは余計な被害を生むって言われてたからね」
「そうか……」
どうやら俺は勘違いをしていたらしい。自分は強い、だからこの都市郡は自分がいないと成り立たないと傲慢な事を考えていた。だけど実際は、俺がいるから彼らは自分を鍛える事や、まともな作戦を考える事をやめてしまっていたのだ。
でも、俺がいなくなった事で彼らは自分の力を最大限に生かして戦う方法を思い出し、ああして自ら勝利を手にした。だから、これからは彼らだけでも、ああして戦って勝利し続ける事が出来るだろう。少なくとも俺はそう信じている。
「まあ、そう信じて安心したいだけかもしれないけどな」
「ん? なんか言った?」
「なんでもない」
それだけ言うと、俺は世界で一番可愛いリリィの肩を抱き、身体を傍に寄せる。すると、リリィも俺に身体を預け、俺の手に優しく自分の手を重ねてくる。
「ねぇレン。私良いお母さんになれるかな」
「お前なら世界一良い母親になれるさ、リリィ」
「急ブレーキかけてやろうかしら……」
そうして、俺達三人は長い間暮らした都市郡を離れ、道なき道を進む。
この先に何が待っているのかは分からないが、きっと悪い事にはならないだろう。だって俺の傍には世界で一番愛しい存在がいてくれるのだから。
「レン、こんな無力な私を愛してくれてありがとう……」
泣いているのか笑っているのか分からない表情でそう話すリリィの頬に優しく触れながら、俺は初めて出会った頃を思い出しながら冗談めかして言った。
「愛しのお姫様、気にしないで下さい。だって、我が最強は、無力な君の為にあるのですから」
「ふふっ、何それ変なの」
「はははっ、俺もそう思う」
涙を拭いながら笑うリリィを眺めながら、俺はこの幸せが永遠に続く事を願ったのだった。
「ありがとね、私の王子様……」
――完。
皆様お付き合い頂きましてありがとうございます。
このお話はこれにて完結となります。
短くて起承転結を意識したお話というのをイメージしながら書いたのですが、ちゃんと出来ていたでしょうか。
ご感想なども頂けるとうれしいです。
それでは、ここまでお読み頂いてありがとうございました。
また、どこかでお会いしましょう。




