表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が最強は、無力な君の為にある  作者: 姫神さくや
12/15

第十二話 シオンの戦い リリィの想い

■シオンの見る世界


「大丈夫リリィ?」

「うん、大丈夫だよ」


 リリィの護衛を行う事になった私は、まず最初にリリィに貴重品を集めるようにと言った。

 上の連中はまだしばらくは安全だと断言していたが、私の両親はそういった言葉を信じて妹と一緒に死んだので、そんな言葉は信じる事が出来ない。だから、このまま都市の外に逃げようと考えていた。

 ちょうど隠れ家に使えそうな倉庫の鍵は盗んできてあるし、最悪の場合はそこにある物を使って更に遠くへ逃げる事も出来る。もし数日間何も無ければ……、その時はその時考えれば良い。とにかく今は少しでもリリィを安全に守れる場所に移動したいのだ。

 私のこの行動についてはレンにも言っていないけど、あいつならどうせリリィの匂いでも嗅ぎ分けてやってくるに違いない。詳しい説明はその時にでもすれば十分だ。

 まあ、レンならリリィさえ賛成してくれれば納得するだろうし、問題は無いだろうと私は考えている。 


「お金、結構貯まってるのね」

「レンってあんまり買い物とかしないから。お金使うの面倒って言って全部ここにしまってたよ」


 レンの働きっぷりは分かっていたけど、稼いだお金は殆ど使う事無く余っていた。これだけあったら、一般人はいったい何回人生を遊んで暮らせるだろうか。

 浪費するタイプの人間では無いと思っていたけど、これだけ稼いでそのままというのも珍しい。

 しかし、お金は多すぎて運べそうに無い。私は難なく持ち運べるだけお金を回収し、後はそのままにしておいた。まあ、何事も無ければ後でこっそり回収すれば良いし、何かあればお金なんて気にしていられない。


「後は……」

「これも持って行って良い?」


 リリィが見せてきたのは、一緒にプールへ行った時の水着だ。ご丁寧に私の分もある。そういえば、貸し出しも出来るのにまた行くかもしれないからとそのまま買い取ったのだった。


「まあ、それくらいなら」

「ありがとう、シオンさん」


 私と自分の水着を大事そうに鞄にしまうリリィを見ていると、何だが愛おしく感じてしまう。

 そうして、リリィと二人で最低限必要な物を回収すると、私はリリィを連れて家を出た。


「リリィ、これからさっき話した通り、この都市から出て暫く歩いた所にある倉庫に行くわ。そこに魔道自動車っていうものがあるから、それに乗ってレンの帰りを待ちましょう」

「お外かぁ、何年ぶりだろう……」

「疲れたら背負ってあげるから大丈夫よ」

「うん……」


 リリィは本当に体力が無い。たぶん都市の外に出る前には歩き疲れてしまうだろう。だから私はなるべく荷物は置いて、リリィを持ち運ぶつもりで準備していた。

 さて、問題はどうやって防壁にいる警備員を説得するかだ。

 リリィはレンを縛り付ける為の足枷だ。勝手に連れ出す事は許可されていない。私がこのままリリィを連れて都市の外に出ようとすれば、警備員に取り囲まれるだろう。

 私一人ならその状態でも簡単に逃げられるけど、リリィが一緒ではそうもいかない。私は鞄に入れたお金を確認し、これで説得出来なければ警備員を殺してでも外に出ようと心に決めた。


「さあ、行くわよ」

「うん、シオンさ……ん……?」

「え……?」


 歩き出そうとしたリリィは、突然空を見上げて唖然とする。

 私がそれに釣られてリリィの見ている方向を見ると、空から複数の何かが降ってきた。


「きゃああああ!!!」

「なんだ!」

「足がああああ!」

「誰か! 娘が下敷きに! 助けて!」


 轟音と共に落下したその複数の何かは、巨大な金属の塊だ。一個一個が家一軒分はある巨大な金属の塊が次々周囲に落下してくる。

 まさかこれは、例の魔物の攻撃!

 そう思ったのも束の間、金属の塊から金属の蜘蛛が這い出してくる。どうやらこれは攻撃ではなく輸送手段のようだ。


「こんな方法で防壁を超えてくるなんて……、こんな情報聞いてない……」


 元から情報の少ない相手だったが、少なくとも防壁を破壊する前にこんな事をしてくるという話は無かったはずだ。

 いや、そもそも第六小都市が攻撃されてからまだ一日くらいしか経過していない。いくらなんでもここまで辿り着くのは早過ぎる。

 もしかすると別の相手か、あるいは第六小都市を襲ったのが予想を遥かに上回る化け物だったのかもしれない。

 やっぱり、上の連中のまだ安全という言葉は信用できないものだ。


「シオンさん!」


 そんな事を考えていると、私たちの近くにも金属の塊が落下してきて、金属の蜘蛛が近づいてくる。私はその相手に対して、魔力で空中に作り出した剣を撃ち込み串刺しにする。

 すると、金属の蜘蛛は突然爆発した。

 何事かと思っていると、周囲の金属の蜘蛛達が周りの人に跳びついて自爆しているのが見える。なるほど、こいつらはこうやって命と引き換えに私たちを殺そうとしているのだ。魔物の中には様々な固有の能力を持っているものがいるが、自分の命を引き換えにする魔物というのはとても珍しく、そして厄介だ。


「おぇ……うぅ……」

「リリィ!」


 周囲で人が死んでいくのを見て、リリィが口を押さえて座り込む。

 人間の焼ける臭いが漂ってくるここは、私にとっても辛い環境なのだ。部屋に引きこもって平和な生活しているリリィには衝撃的過ぎる光景だろう。

 私はリリィに自力で歩かせる事は諦め、そのままリリィを背負って走り出す。

 その時、都市の中央付近で一際大きい爆発音が響いた気がしたが、そんな事を気にしている余裕も無かった。


「くっ!」


 私はなるべく安全な道を進もうとするが、周囲に落下した金属の塊の数は多く、次々と金属の蜘蛛が現れ襲い掛かってくるので安全な道など無かった。なので私は、そいつらを振り切る事は不可能だと判断して、目の前の敵を倒して最短ルートを進む事に決める。


「時間よ止まれ!」


 私が時間停止の魔法を発動した瞬間、周囲の時間が停止する。

 時間が停止したのを確認すると、私は空中に生み出した魔力の剣を見える範囲にいる金属の蜘蛛に撃ち出す。

 魔力の剣は私が撃ち出してから少し進むと、時間停止の影響を受けて停止するけど、時間停止を解除した瞬間、魔力の剣は動き出し、金属の蜘蛛を一斉に串刺しにする。

 複数の爆発が響く中、私はリリィを背負ったまま防壁の方へ走る。


 時間停止の魔法。この魔法は強力なものだけど欠点もある。それは、時間停止中は例え触れたとしても生物に干渉する事が出来ないという事だ。

 攻撃の際は相手が避けられない様に攻撃を準備するという方法でどうにでもなる欠点だけど、リリィを背負っている今、その欠点は私をどうしようもないくらい苦しめる。

 私は時間停止を連続で半日くらい発動する事も出来るので、自分一人なら時間を停止した状態で楽に逃げられる。しかし、時間停止中はリリィを動かせなくなるので、一緒に逃げる事は出来なくなるのだ。


「時間よ止まれ!」


 私は防壁に向かって走りつつ、度々時間を止めて周囲の金属の蜘蛛を倒していく。

 相手自体は簡単に倒せるので問題は無いけど、とにかく数が多いのでなかなか前に進めない。しかも、都市は落下してきた金属の塊の所為で倒壊している場所も多く、思っていたルートが使えない事も多い。

 こういう時レンならリリィを抱えて瓦礫や屋根の上を走って逃げるのだろうが、生憎私は人一人を背負って屋根の上を跳ねて走れるほど人間をやめていない。


「ごめんなさい……」

「気にしないでいいわ」


 リリィは自分がいる事で私に負担がかかっている事を気にしている。だけど、これは私が望んでしている事なのだ。だから気にする必要なんて本当に無い。

 私のその想いが伝わったのか、リリィは「ありがとう」とだけ呟いて、私にしがみつく腕に力を込めた。しかし、その力は弱弱しいもので、私の中のこの子を守らなければという想いを更に刺激する。


「はぁ……はぁ……やっと防壁まで着いた……」


 数え切れないほどの戦いを繰り返し、私は防壁まで辿り着く。

 しかし、何度も道を変えて移動した所為で、その場所は出入り口である門から遠く離れてしまっていた。

 都市の外にはこの防壁を超えればすぐに出られるのに、分厚い壁は私たちを行く手を遮って目の前に存在する。

 ああ、いつもは頼もしいと思えるこの防壁を憎いと思う日が来るとはね。私は怒りを込めて防壁殴りつけてから、一番近い門の場所を記憶から呼び起こし、移動を開始しようとした。


「シオンさん! あれ!」

「えっ? 嘘……でしょ……!?」


 リリィが指差したのは、向かって左側にある防壁の上だ。その場所には本来は空しか無いはずなのに、今は巨大な金属の何かが見えていた。

 私が嫌な予感に苛まれているとその予感は的中し、その金属の塊が見えている防壁周辺が、溶けた鉄の様に赤く染まり、轟音と共に弾け、防壁の向こうから光線の様なものが飛び出てきた。

 その光線は目の前の防壁を破壊しただけでは止まらず、反対側にある防壁すら破壊し、この中央大都市に二つの大きな出入り口を造り出した。


「はは……ははは……」


 もう笑うしかない。それは絶望的な光景だ。

 防壁を壊し、都市に侵入してきたのは全長100メートルを超える巨大な金属の塊。

 その見た目は子供の頃に読んだ本に出てくる竜にどことなく似ているもので、二本の足で地面に立ち、四本の腕を掲げ、六枚の羽を広げて、体中から触手のような物を生やした異形の化け物だった。

 その異形の化け物は都市内部に侵入すると、触手を周囲に広げ、その先端から先程のものに比べては小さな光線を放つ。

 しかし、小さいと言ってもその光線は都市の建築物を次々と破壊する威力を持ち、周囲が瞬く間に焦土と化していく。

 そんな異形の化け物に対し、生き残っていた防衛戦力が攻撃を仕掛けている光景も見えるが、その攻撃は殆ど化け物の周囲に張り巡らされた見えない何かに阻まれ四散し、一部攻撃は命中して傷を与えるもその傷はすぐに修復され、次に同じ攻撃が命中した時は傷さえ付かなくなる。

 ああ、なんだろうこれは。いったい何が起こっているのだろうか。この大陸で一番安全だと信じられていたこの都市は、一瞬でこの大陸一番の地獄に変わった。


「シオンさん」

「――っ! ごめん」


 あまりの光景に呆然としていた私の意識をリリィが引き戻してくれる。そうだ、私はこの子を守らないといけない。どんな状況でもそれだけは忘れてはいけないのだ。


「とにかく門を目指して――!」


 そう叫んで移動しようとした私の視界に、化け物から生えた触手の一本が近づいてくる様子が映る。


「隠れて……!」

「うん」


 私の放つ魔力の剣はそれほど威力の高いものではない。その為、おそらくはあの化け物から生えた触手を破壊する事は出来ないだろう。

 いや、仮に破壊できても、その事があの化け物に伝われば、光線の雨が降り注いでくる可能性もある。だから私は、近くの建物の横に詰まれた荷物の影に隠れてやり過ごす事を選ぶ。

 その時、近くで複数の人間の悲鳴が聞こえ、触手はそちらの方に襲い掛かる。金属の蜘蛛の動きを見ていた時にも思っていたけど、あの化け物はより多くの人がいる場所を優先して狙うようだった。


「はぁ……はぁ……」


 ここまで移動した事の肉体的疲労と、精神的ストレスによって私の身体は今までの人生で一番消耗していた。

 そんな私を繋ぎとめてくれるのは、私の手を握るリリィの温もりだ。私は例え自分がどうなったとしても、この温もりだけは守らなければいけない。


「リリィは大丈夫……?」


 声を出すのも危険だと分かっていたけど、身体を落ち着かせる間の沈黙に耐えられなくなり小声でリリィに尋ねる。そんな私に対し、リリィは手を握る力を強めていつもと変わらぬ笑顔で大丈夫だと答えてくれた。


「リリィは怖くないの?」


 その笑顔が本当にいつもと変わらないものだったから、私はそう尋ねてしまった。

 自分では戦う事も、満足に動き回る事も出来ないリリィにとって、この状況は相当な恐怖を感じるもので、下手をすればそのまま気が狂って暴れだしてもおかしくない。

 それなのにリリィは今は落ち着いた様子で私に寄り添っている。だから少し気になってしまったのだ。


「怖いよ。でもね、私は前にもっと怖い目に会った事があるから、これくらい大丈夫」


 今のこの状況は、私が思いつく限りで最低最悪な状況だ。それを超える恐怖というのを私は想像できない。そう考えていると、リリィは小さな声で昔話をしてくれる。


「私の産まれた故郷はね。私が九歳の時に魔物の大群に襲われて、壁が壊されて、魔物に滅ぼされちゃったの……」


 私は今まで、リリィが何故この都市に流れ着いたのか聞いた事は無かった。この大陸で旅をする人間の過去など、レンの様な力を持った者の場合を除いて殆どの場合が暗いもので、気安く聞いて良いものでは無いからだ。

 そして、その考えは正しく、リリィの過去は明るいものではなかった。


「お外に魔物が沢山現れた事はお母さん達も知っていたみたいだけど、みんなしばらくすれば倒されて大丈夫になると思ってたみたい。だから、家に篭って安全になるのを待ってたの。でも、気が付くと壁は壊されてて、戦う人もいなくなってて、周りは魔物だらけになってた」


 リリィは目を瞑り、その時の事を思い浮かべるように顔を斜め上に向ける。私はなんと言って良いのかも分からず、その横顔をただ眺めていた。


「その時、お母さんがね。私を地下室に隠して、上から何かを乗せて入り口が開かないようにしたの。その時は凄く怖かった。地下室は明かりも無くて、真っ暗で、自分の指も見えなかった。だからお母さんに怖いって叫んだんだけど、お母さんは静かにしているようにって怒鳴って出してくれなかった」


 リリィだって今はそれが母親にとって辛い選択であった事は理解しているだろう。だけど、九歳の少女にはその状況は恐ろしくて仕方が無かったはずだ。


「それで、お母さんは静かにして待っていれば、いつか素敵な王子様が助けに来てくれるから、それまで待ってるように言ってくれたんだ。でも、そのすぐ後にお母さんの悲鳴が聞こえて、叫び声と何かを食べてる音が聞こえてきて、しばらくすると何も聞こえてこなくなった……。私はその間、口を押さえて震えている事しか出来なかったんだよ……」


 それからリリィは何日もその恐怖に耐え、時々聞こえてくる物音に怯え、地下室にある食料を手探りで探しながら生きたらしい。

 何も見えないから、取りあえず口に入れて食べられるものかどうか確認していたらしいけど、腐った物や食べ物ではない物を口に入れてしまう事もあったと話してくれた。

 その時の笑顔は弱弱しいもので、その状況がどれだけリリィを追い詰めたのかを教えてくれ。


「その時、私はね……。お母さんの事を恨んだんだ。私がこんな想いをするのはお母さんの所為だ。お母さんは王子様が助けに来てくれるなんて嘘をついて私を苦しめてる。お母さんなんか大嫌いって……。本当はお母さんの事……大好きだったのに……」


 話しながら、リリィは顔を歪めながら瞳に涙を浮かべる。それは、自分の罪を告白する時の様な辛そうな表情で、リリィがその事をどれだけ後悔しているのか伝わってくる。


「それで、もう無理だって思って、何もかも諦めちゃいそうになった時、物音が聞こえてきて急に周りが明るくなったの」


 その光景を見て、リリィは魔物がついに自分を見つけたのだと震えたそうだけど、明かりの向こうに人影が見えて、本当に誰かが助けに来てくれたのだと理解したらしい。

 それはきっと、リリィにとって奇跡のような光景だった事だろう。


「レンはね、私がその時、あなたは王子さまですかって聞いたら、そうだって答えてくれたんだ。そのおかげで私のお母さんは嘘つきにならなくて……、私はお母さんを大好きなままでいられた……。それが凄くうれしかった」


 それは今まで聞く事の無かった二人の馴れ初めの話だ。レンの事は分からないけど、少なくともリリィはその瞬間、恋に落ちていたのだろう。

 それを証明するかのように、辛い過去を話しているはずのリリィの表情は、恋する乙女のようになっていた。


「あの時私は、絶対に助けなんか来ないと思っていたけど、レンは私を助けてくれた。だから、レンが必ず助けに来てくれるって分かってる今は、あの時に比べて全然怖くないんだよ」


 レンは現在第三小都市で戦っているはずだ。しかも、おそらくは初めの頃の爆発で中央にある転移装置は破壊されているだろう。

 この状況でレンが助けに来る事は無理だと口に出しそうになったけれど、私はその言葉を飲み込んで、「そうね」とだけ呟いた。

 私も、心のどこかであいつなら助けに来てくれるんじゃないかと考えていたのだ。

 しかし、そんな妄想を続ける事も叶わず、近くから金属の蜘蛛が歩く音が聞こえてくる。


「――っ! 逃げるわよ!」

「うん!」


 金属の蜘蛛は倒せば爆発する。その光景を見れば、おそらくあの触手もこちらの動きに気が付くだろう。そうなればどれだけの攻撃が飛んでくるか分からない。

 あの触手の一本が放つ光線でも、私には防ぐ手段が無い。避ける事は時間を停止すれば可能だが、その際は確実にリリィを見捨てる事になる。そんな事は死んでもごめんだ。

 私はリリィを背負い、金属の蜘蛛を避けて走るが、目的地まで半分も進む事が出来ずに、金属の蜘蛛に囲まれる。


「くっ! 時間よ止まれ!」


 そのまま金属の蜘蛛を倒さなければ、結局はこいつらに殺される事になる。私は仕方なく魔法を発動し、金属の蜘蛛を殲滅した。

 しかし、予想通りその音に反応し、触手の一本がこちらに先端を向けてくる。


「あぁ……」


 触手の先端に光が集まっていく光景を眺めながら、私は自分の最後を覚悟した。

 せめて、リリィだけでも逃がせればと思ったけど、一人で死ぬ事への恐怖が私の動きを鈍らせ、リリィの温もりを手放す事を拒絶してしまった。

 ああ、私は最低だ。あれだけリリィを守ると誓っておいて、結局最後は自分の感情を優先してしまった。

 私は自分が死ぬ事よりも、リリィを守れなかった事を悔い、ここにはいないレンに懺悔しながらその瞬間を待つ事しか出来ない。


「大丈夫だよ……」


 そんな私の耳元で、リリィは優しく呟く。この状況で何が大丈夫なのか。私がそう思った瞬間、空の彼方から一筋の光が飛来してくる。

 そして、その光はまっすぐに、私達の目の前にいる触手に突っ込んだ。


「俺の女に手を出すんじゃねぇぇぇええええ!!!」


 頑丈な化け物の一部を、たった一撃で粉砕したその光から聞こえたそれは、無力な少女を愛した、世界最強の男の叫びだった。


「ねっ、助けに来てくれたでしょ」

「そうね……」


 その時の私はきっと、レンと初めて出会った時のリリィみたいな気持ちを味わっていたのだと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ