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我が最強は、無力な君の為にある  作者: 姫神さくや
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第十一話 全てを滅ぼす極光

 ――第三小都市。


 俺が第三小都市にやってくると、周囲は慌しかった。


「おお、やっと救援が来てくれたか!」

「おい、他の奴はどうした!」

「悪いが俺だけ。連絡は来ていないのか?」

「嘘だろ! あの話は本気だったのか!」


 俺が転移装置から現れた事に喜んだと思った次の瞬間、目の前の男は他に救援が無い事に怒り狂う。

 事前に話は聞いていたようなのに、それを冗談だと思えるとはなんともお気楽な奴だ。


「おい、ここの責任者はどこだ」

「俺がこの第三小都市の責任者だ!」


 まさかこのお気楽野郎が責任者とは、もしかしてこの都市郡は人員不足なのか?

 まあいい。俺はその事は考えないようにして、自分の意見を伝える。


「一つ提案がある。俺に任せてくれれば向かってきている魔物を一撃で葬れるかもしれない。ただ、この小都市一個分程の焦土が出来上がる事になるから許可が欲しい」

「ふざけるな! そんな事出来る訳が無いだろ! 仮に出来たとしても許可できるか! 奴の進行方向には貴重な資源もあるんだぞ! そんな規模の焦土が出来たらどうなると思う!」


 期待はしていなかったがこの反応か。まあ、最悪の場合は無許可で奥の手を使う事になるだろうが、その場合は被害規模を考えると、色々と面倒な事になるだろう。場合によってはそのままこの都市郡を追い出されるかもしれない。

 だが、仮にそうなったとしても、俺にとって一番大切なのはリリィだ。中央大都市の状況も分からない以上、状況によってはその後の事なんて考えていられない。

 俺はその時には躊躇せず奥の手を使う覚悟をして戦場に向かった。

 そして、そこで見たものは……。


「実物を見ると迫力があるな」

「そんな事を言っている場合ですか!」


 ここまで俺を案内してくれた男にそう言われながら、俺は小高い丘で目の前の魔物集団を睨む。

 そこにいたのは多種多様な魔物の軍勢。その数も問題だが、一番の問題は魔物の軍勢の中央にいる巨大な芋虫型の魔物の存在だ。

 その大きさは第三小都市の半分ほどのサイズであり、その身体からは一定時間ごとに新しい魔物が生まれてくる。

 その速度は大体十秒に一体のペースだ。

 もしあれがその速度を常に維持できるなら、あいつは一日に八千以上の魔物を産み落とす事になる。

 そんな速度で魔物が産み出されたら、この大陸から魔物がいなくならないのも納得だ。全部とは言わないが、今まで倒してきた魔物にも、あいつが産み出してきたものが含まれていたのかもしれない。


「それで作戦は前回と一緒なのか?」

「はい……」


 俺の質問に対して、案内の男は言い辛そうに話す。

 あの後、偉そうな男と少し話し合ったのだが、結局は前回と同じ戦法で行くと一方的に宣言された。

 因みに、後方の奴らは前回の時に比べて数が半分以下になっている。中央大都市からの救援がいないので仕方が無い。


「大丈夫なのですか……?」


 流石にこの扱いに対して罪悪感があるのか、案内の男は申し訳なさそうにこちらを伺ってくる。

 正直言ってこの扱いに関しては、不満ばかりなのだが、この人に言っても仕方がない事なので、大丈夫だとだけ伝えて下がらせ、魔物の軍勢を睨んだ。

 それにしても数が多い。前回と同じように戦っていたら魔力が足りなくなるだろう。


「取りあえず、あのデカブツを何とかするか……」


 途中で魔力切れになるにしても、あの芋虫型の魔物だけは早く倒さないと状況が悪化し続ける。俺は、他の魔物は可能な限り無視し、芋虫型も魔物を優先的に狙う事に決める。


「我が身、魔を絶つ剣となれ」


 俺は剣を掲げ、魔物の軍勢に向かって駆け出した。

 それに合わせて、後方から魔道具の光が降り注ぐ。それは前回と同じ事だが、今回はその中に俺の存在を無視した強力な魔道具が含まれていた。

 流石にその魔道具の直撃をまともに受ければ、俺も無傷では済まないかもしれない。それを考えると、前回の時は俺に考慮してくれていたのだろうか。

 そんな事を考えながら、俺は邪魔な魔物を蹴散らしていく。

 殴りかかってくる巨大な猿型魔物の腕を切り飛ばし、跳びかかって来る狼型の魔物を切り裂き、火を吐いてくる蜥蜴型の魔物を衝撃波で吹き飛ばし、くちばしを突き刺そうとしてくる鳥型魔物を掴んで地面に叩きつけ、俺はひたすら芋虫型の魔物へと向かう。

 周囲では後方からの砲撃で爆発が起こり、小型の魔物は空を舞い、多種多様な魔物の肉片が周囲に飛び散る。

 その戦果は前回と比べて素晴らしいものだが、今回は俺が魔物の殲滅ではなく芋虫型の魔物を倒す事を優先しているので、生き残った魔物達の一部は後方の奴らの方へ向かってしまう。

 俺はその事に気が付いていたが、正直言ってそちらに気を使っている余裕は無かった。


「食らえ!」


 俺はやっと辿り着いた芋虫型魔物に向かって剣を振るう。

 振るわれた剣は思った以上にあっけなく芋虫型魔物の身体を引き裂いたが、次の瞬間、その傷は元々無かったかのように消えてしまった。


「再生能力か!」


 魔物の中にはこういった特殊能力を持った個体もいるが、この巨体に再生能力が合わさると厄介だ。こうなると早速奥の手を使いたくなるが、もう少しだけ様子を探ってみる事にする。

 全身に点在する目のような物を潰し、えぐるように肉を裂き、収束した魔力を体内で爆発させる。そうやって芋虫型の魔物を痛めつけながら、母体を守る為に集まってきた魔物を殺し、更に何度も攻撃を繰り返すが、攻撃した次の瞬間には傷は跡形も無く消えている。

 色々と試した結果、この芋虫型の魔物は攻撃と防御能力こそ皆無だが、その再生能力は俺が今まで見てきた魔物たちと比べても桁違いの強力さであり、最早普通の方法では倒す事は不可能だと分かった。


「無理だな……」


 俺はそう結論をだして、芋虫型の魔物から離れ、後方にいる奴らの下へと走り出した。

 逃げる俺を追ってくる魔物もいたが、俺の速さについてこれる固体は無く、俺はそんな魔物たちを引き離して、偉そうにしている男の下に辿り着く。


「ひっ! 何を考えている! 命令に逆らうのか!」


 偉そうな男は、俺がやって来たのを見て、任務を放棄したと思ったのだろう。怯えと怒りが混ざった表情で怒鳴ってくる。

 俺はそんな男の反応を無視して、一方的に今からする事を告げる。


「このままあいつを倒すのは無理だ。だから奥の手を使わせてもらう。巻き込まれたくないなら俺の後ろに下がってろ!」

「奥の手!? 何をする気だ!」


 偉そうな男は俺に掴みかかってこようとするが、追いついてきた虎型の魔物が俺に跳びついて来たのを見て、そのまま逃げだした。

 俺は跳びかかって来た虎型魔物を地面に叩きつけ、首を折ってその息の根を止めながら周囲を見回す。周囲には接近した魔物と戦う同業者がちらほらと見受けられるが、中には既に息絶えている者もいる。

 俺は、どうせこうなるなら最初から命令を無視するべきだったと後悔しながら、地面に剣を突き立てた。


「今から特大の魔法を放つ! 死にたくない奴は俺の前に立つな! 魔力収束結界展開」


 突き刺された剣を中心に、巨大な魔方陣が形成される。

 この魔方陣は俺の魔力を呼び水にして、空気中に漂う魔力を集め、俺が体内に保有する以上の魔力を使用して魔法を放つ事を可能とするものだ。

 俺はその力を使用し、大気中に漂う魔力をありったけ収束していく。

 明らかに何か危険な事を始めた俺に向かって、襲い掛かってくる魔物もいたが、そいつらは収束された魔力の光の余波に触れるだけで、塵になって消えていく。

 そんな光景を目の当たりにした周囲の人間は、俺に対して化け物を見るような目を向けて逃げ出して行く。まあ、それが賢い選択だ。


「森羅万象等しく灰燼と化せ」


 俺は、逃げ出す人間がちゃんと後方に逃げている事を確認し、目の前の芋虫型の魔物に目を向ける。

 ああ、お前はいい相手になりそうだったんだが、タイミングが悪かった。中央大都市の事がなければ気が済むまで戦いたかったが、今は俺も急いでるんだ。この一撃で終わりにする。


「斬魔流戦闘術奥義」


 そして、収束された魔力は放たれた。


「極光陣!」


 収束された魔力は上空へと放たれ、芋虫型の魔物の上空で小都市と同規模の魔方陣を形成。その魔方陣と同じものが芋虫型の魔物の周囲の地面にも形成され、光が上空の魔方陣から降り注いで来る。

 そして――。


「終われ」


 轟音と光が周囲に広まり、風が吹き荒れ、範囲内の物が消滅していく。

 そして、風が止み、光が消えた時、俺の目の前には何も無い焦土が広がっていた。

 その焦土の範囲は第三小都市よりも少し大きいかもしれない。この奥義を使う事自体があまりにも久しぶりだったので、思っていたよりも被害が大きい。もしかすると、俺の力が上がった所為で威力が増したのかもしれない。

 まったく、手加減が一切出来ない癖に勝手に威力が上がるのはやめてもらいたい。


「何だよこれ……」

「とんでもない事をやりやがった……」

「本物の化け物だ……」


 逃げ惑っていた同業者達は、呆然としながらその光景を眺めている。

 そうやって呆然としているのも良いが、芋虫型の魔物が消えただけで、周囲にはまだまだ魔物の生き残りがいるので、いつまでもジッとしている暇は無い。そう言おうとした瞬間、一人の男が喚きだす。


「おい! あの男を今すぐ殺せ!」

「何言ってるんだ。状況が分かってないのか?」


 騒ぎ始めたのは現場を任されている偉そうな男だ。そいつは俺に魔道具を向けると、容赦なくぶっ放してきた。

 その攻撃自体は難なく弾く事が出来たが、それを見た周囲の奴らが同じように魔道具を向けてきたので、困った事になる。お前ら魔物を倒せよ。


「何を考えている」

「それはこっちの台詞だ化け物! 今の魔法は何だ! あんなものが使えるなんて聞いてない!」

「使う機会も説明する機会もなかったからな。別に隠していた訳じゃない」


 この場にいる人間の中にだって、他の人間に言っていない隠している何かはあるはずだ。特にこの手の仕事をしている人間は本来自分の使える手札をベラベラと喋ったりはしないのだから、隠している事も多いだろう。

 俺はそう説明するが、相手は人の話を聞く気が無いらしく、無視される。


「うるさい! そっ、その魔法を使えば、俺たちの都市をたった一撃で吹き飛ばす事も出来るんだろう! そんな危険な奴を生かしておけるか!」

「そうだ! そうだ!」

「こいつの気まぐれで俺たちは皆殺しにされるかもしれないんだぞ!」

「ここで殺す!」


 確かに俺は、この奥義を使えば小都市くらい簡単に消し飛ばす事が出来る。だが、俺には当然そんな事をするつもりは無いし、そんな事をする理由も無い。

 しかし、それを証明する方法は無く、この場で相手を納得させるのは不可能に近い。

 正直に言えば、この状況は奥義を使う上で覚悟していたものなのだが、まさか周囲に魔物がいる状態なのを無視してまで俺を攻撃してくるとは思わなかった。せめて俺をうまい具合に利用してやろうというくらいの余裕は見せて欲しいものだ。


「あああああああああああ!!!」

「死ねえええええ!」


 どうするか迷っていると、状況に耐えられなくなった奴らが、襲い掛かってくる。

 俺は剣を振りかざして襲い掛かってくる二人を、魔力で保護し切れ味を消した剣の腹で殴って吹き飛ばしてやり過ごすが、周囲の人間にはそれが斬り殺したように見えたらしく、人殺しという叫びと共に、魔力の光が降り注いでくる。

 おいおい、お前らがやろうとしている事は人殺しじゃないのかよと言いたくなったが、どうせ言っても無駄だと分かりきっていたので、降り注ぐ攻撃を防ぎ続けた。

 そうして暫くやり過ごしていると、接近してきた魔物が俺を攻撃してくる奴に襲い掛かる。どうやら、俺ばかりに夢中で隙だらけだったので狙われたようだ。


「危ない!」

「うわあああああ!」


 俺はそいつを助けようと手を伸ばしたが、そいつは魔道具を振り回しながら俺から逃げた。

 その結果、そいつは後ろの魔物に気が付かず噛み殺され、魔道具を発動させたまま振り回した所為で、周囲の人間にも被害が出る。

 それを見ていた周囲の奴らは更に騒ぐ。


「こいつ! ケントを魔物に向かって突き飛ばしやがった!」

「しかも、人の魔道具を利用して俺たちを殺そうとしやがったぞ!」

「化け物め!」

「殺せ!」


 それを見た瞬間、俺は諦めた。これはもうどうしようもない。

 例えこの場で耐え続けて相手が攻撃をやめても、こいつらは俺を人殺しとして他の人間に報告するだろう。そうなれば中央大都市にいるリリィは人質に取られ、俺は拘束するのも危険だと言われて処刑されるかもしれない。

 そうなれば、残されたリリィがどうなるか。確かな事は、良い結果にはならないという事だ。

 それは駄目だ。許されない。

 自分が死ぬだけならともかく、リリィが苦しむのは耐えられない。

 だから俺は……。


「すぅ……」


 ここにいる奴らを蹴散らしてでも、すぐに中央大都市にいるリリィを連れて逃げる事を決心をする。

 今まで快適に暮らしていたこの都市郡だが、俺にとってはリリィがいる事が重要であり、それが不可能ならこの都市郡に未練は無い。

 ただ、一つ心残りなのはシオンの事だ。

 あいつにはリリィも懐いていたし、俺もシオンの事を気に入っていた。

 出来れば一緒に来て欲しいとは思うが、それは無理だろう。詳しく聞いた事は無いが、あいつはこの都市郡に思いいれがあるように見えたし、俺達と違って住み慣れた場所を捨てる理由も無い。

 だからきっと、シオンとはお別れになる。その事が思っていた以上に俺の心を揺さぶった。

 しかし、もうそれ以外に選択肢の無い俺は、その感情を押さえ込んで、周囲の奴らを睨み、威圧して距離を取らせる。

 そして、なるべく誰にも被害を与えずに逃げれるように考えながら、足を踏み出そうとした瞬間、偉そうな男の持っていた通信用の魔道具から、慌てたような大きな声が響いてくる。


『緊急連絡! ちゅっ、中央大都市が攻撃を受け、転移装置が破壊されたもよう! 繰り返す! 中央大都市が攻撃され、繋がりも絶たれました!』


 通信用の魔道具からそんな言葉が漏れ出した瞬間、俺を含めそこにいる人間は現在の状況も忘れて一人残らず固まった。

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