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我が最強は、無力な君の為にある  作者: 姫神さくや
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第一話 生きててくれて、ありがとう

最強主人公を書きたくなって作りました。

お話は殆ど完成しておりますので、完結まで毎日更新します。

楽しんで頂けるとうれしいです。

 それは六年前の出来事。

 14歳になったある日、俺は師匠に修行だと言われ、よく分からない魔法によって突然見知らぬ土地に転移させられた。

 転移させられたそこは、それまで暮らしていた平和な土地とは違って、たくさんの魔物が跋扈ばっこし、常に死の危険が付き纏う場所だった。

 ただ、師匠に教わった様々な技術が助けてくれた為、自分でも驚くくらい早く俺はその環境に慣れた。

 それからしばらくが経ち、俺はある都市に辿り着く。


「酷いなこれは……」


 そこは魔物がひしめく都市。

 そこには人間の姿など無く、ただただ廃墟に群がる魔物だけが存在していた。


「防壁が破壊され、魔物に蹂躙されたか……」


 今目の前にあるのは魔物を退ける為の巨大な防壁。

 ここに来るまでの都市で同じものを何度か見ているが、それらは巨大な魔物の一撃すら耐える強度を持っているように見えた。

 しかし、目の前の防壁は無残に崩れ去っており、至る所がただの瓦礫になっている。

 どれだけ頑強な防壁であろうと、立て続けに攻撃を受ければ耐えられるはずも無い。おそらくこの街には防壁に取り付いた魔物を排除できる戦力が無かったのだろう。


「この状態だと、防壁が突破されてから一週間は過ぎてるな……。生存者はいないか」


 俺は正義の味方ではない。

 見返りも求めず、誰かを救いたいと思っている訳ではないし、誰も救えなかった事を悔いたりもしない。

 だけど、せめて死者にひと時の静寂を与えたいと思った。


「ピギュッ! ピギ!」

「グギャッグギ!」

「ビュプッ!」

「黙れよ……」


 俺の存在に気が付いた魔物達が、一斉に俺の方に向かってくる。その数は千や二千では済まず、更に次々と増えていく。

 襲い来る魔物の殆どは大した力も無いような魔物だが、中には人間の十倍はあろうかという巨人型の魔物も混ざっている。おそらくあの辺りが防壁を破壊した魔物なのだろう。


「ギャアアアアアアアアアアア!!!」

「黙れって言っているだろうが!」


 俺は最も早く襲い掛かってきた頭部から触手を生やした狼型の魔物を右手に持った剣で斬り捨てる。

 この程度の魔物ならばここに来るまでで散々殺した為、今では目を瞑っていても相手できるほど俺の実力も上がっていた。


「クキイィィィィイィイイ!」

「うるさいんだよ」


 上空では鳥型の魔物がギャアギャアと騒いで風の刃を飛ばしてくる。そんな魔物に対し、俺は魔力を纏わせた剣を振るう。

 空を切り裂くように振るわれた剣からは魔力の刃が放たれ、風の刃も鳥型の魔物も等しく切り裂いた。


「オオオオオオオォォォオオ!」

「図体だけでかい臆病者が……!」


 俺の技を見て警戒心を強くしたのか、巨人型の魔物はその場で立ち止まり、近くにあった瓦礫を掴んで投げ付けてくる。

 投擲された自分の体よりも大きな瓦礫を回避した俺は、そのまま他の魔物を無視して巨人型の魔物に向かい、地面を蹴って上空に跳ね上がると、巨人型の魔物の首を剣の一振りで跳ね飛ばす。

 ゆっくりと倒れていく巨人型の魔物の体を蹴って、俺は次の魔物へと向かう。

 それからどれくらい戦っただろうか。

 百の超えてからは戦いではなく作業のような感覚になり良く覚えていないが、気が付くと俺は全ての魔物を殺し尽くしていた。


「はぁ……はぁ……」


 普段は戦闘が終わっても息など乱れないのだが、この数を相手にするのは初めてであり、流石に息苦しさを覚えた。


「はは……自己満足の為になにやってんだ俺は……」


 そう、これは自己満足だ。

 今この瞬間魔物を殲滅しても、しばらくすれば他の魔物が集まって来てここを根城にするだろう。この街を復興するつもりでも無いのならば、こんな事をするのに意味は無いのだ。


「ふぅ……まあ良い。駄賃として適当に何かを貰って行こう。そうすれば無駄じゃ無かった事になる」


 自分は報酬の為に魔物を殲滅した。そう自分自身に言い訳をしながら、俺は何か無いかと比較的形の残っている家の扉を開けた。

 その選択は偶然だった。

 その家を選んだ事に意味は無い。

 だが、その選択はきっと運命だった。


「埃っぽいが外よりはマシか」


 俺が選んだ家はなかなか頑丈な造りをしており、多少魔物に傷付けられているが倒壊するような危険は無いように見えた。

 俺は掘り出し物を見つけた気分になりながら台所らしき場所へ向かう。


「うわ……」


 しかし、そこで一気に気が滅入る。

 目の前に広がっているのは乾いた血だまりと食い散らかされた人間だったものであり、近くには女性の物らしき破れた衣服が転がっていた。

 その姿はあまりにも無残で、俺はそれを見ていられなくなり目線をそらした。


「ん、メモ……か?」


 そらした目線の先に、俺は一枚の紙切れを見つける。

 それは、散らばった紙を咄嗟に手に取り、血を使って殴り書きしたような文字で、殆ど読めないような文字だったが、なんとなく意味だけは理解できる。


【地下……娘……助け……】


 そのメモは、自分が死ぬ直前に命がけで書いた、誰かの為の言葉だった。


「落ち着け俺……、この街が魔物に襲われてから何日が経っている……。生きているはずが無い……。また余計に落ち込む事になるだけだ……」


 口ではそう言いながらも、俺は期待していたのかもしれない。この絶望的な状況で、助けられる命があるのではないかと。

 繰り返すが俺は正義の味方ではない。こんないつ書かれたかも分からないメモに従わなければいけない理由も無い。

 だが俺は、助けられるかもしれない命を見捨てられるほど冷酷ではなかった。


「地下ってのは……ここか」


 覚悟を決めた俺は、地下への入り口を探す。すると、台所の倒れた食器棚の下に入り口があるのを見つける。おそらくはメモを書いた人物が、魔物から隠す為にやったのだろう。

 俺は、その食器棚をどけて、地下への入り口を開いた。


「ここは……食料の保管庫か?」


 そこに広がっていたのはそれなりの広さを持った空間だ。暗くてよくは見えないが、おそらく台所と同じ程度の広さはあるだろう。

 しかし、暗い。おそらく今開いている入り口を閉じればこの中は漆黒に染まってしまう事だろう。そんな空間で、子供が一人で何日も生活する事が出来るのだろうか。

 俺がそんな絶望的な事を考えていると、突然物音が聞こえた。


「だ……れ……? おかぁ……さん……?」

「なっ!」


 それは紛れも無く、少女の声だった。

 そして、声のした方向へと視線を向けると、そこにはボロ布に包まってこちらを見つめる、痩せて汚れた少女がいた。

 生きている。そう、少女は生きているのだ。


「ごめん、俺は君のお母さんじゃない。ええと、俺はレン。君のお母さんに頼まれて助けに来たんだ」

「助けに……来てくれた……」


 俺の声に反応して、少女は汚れてしまった金色の髪を揺らしながらヨロヨロと歩いてくる。

 しかし、ずっと暗闇にいたからだろう。外の光がまぶしいようで、小さな両手で自分の青い目を擦っていた。


「治療魔法は得意じゃないんだが、気休めにはなるだろう。ほら」

「あ……」


 俺は少女の頭に手の平を乗せて、様々な症状を癒す魔法を使用した。すると少女は少しらくそうな表情をして、まっすぐこちらを見つめてくる。


「私の……王子さま……」

「なんだって?」


 目が見えるようになった途端、意味不明な事を言い出す少女に、ついつい状況も忘れて素っ気なく返してしまう。

 しかし、少女は気にした様子も無く、笑顔で答えてくれた。


「王子さま……だよ。おかあさんが言ってたの……。良い子にして、静かに待ってればステキな王子さまが……私を助けに来てくれるって……。あなたが王子さまなの……?」


 少女は母親の残したその言葉を信じ、この暗闇でずっと一人で待っていたのだろう。

 周囲を見回してみると、暗闇で必死に飲み物や食料を探した跡もあり、少女が希望にすがりつく様に生きてきた事が伝わってきた。


「ああそうだ。俺が君の王子様だよ。遠くに行ってしまった君のお母さんの代わりに迎えに来たんだ。だから、一緒に来てくれるかな?」


 だから俺は、少女の母親の最後の言葉に込められた想いと、少女の信じた希望を叶える為にそう声をかけた。

 すると少女は少し悲しそうにしながらも、笑顔で俺の手を握ってくれる。


「うん……、よろしくお願いします。私の……王子さま……」


 少女の年齢はおそらく10歳くらいであろうが、この街の状況や母親がどうなったかなどは理解しているのだろう。母親に会いたいなどと我侭は言わず、素直に俺について来た。

 台所に出る時、俺はなるべく少女に母親だったものを見せないようにし、家の中を探して浴室で少女の汚れた体を洗い、比較的無事な衣服に着せ替える。


「最後にさようならをしようか」

「うん……、バイバイおかあさん。今まで育ててくれて……ありがとう……」


 その後、使えそうな少女の荷物を回収すると、俺達は家の前で一礼し、そのままその場を後にした。少女は目に涙を溜めつつも、泣きじゃくる事はしない。

 この子は本当に強い子だ。俺も、この子のように心の強さを身に着けなければいけないと感じてしまう。


「そうだ。君の名前と歳を教えてもらっても良いかな?」


 本当はもっと早く聞いておくべきだったのだろうが、俺も余裕が無かったらしく、完全に忘れていた。

 今更名前を聞いた事に少し恥ずかしさを覚えている俺に、少女は笑顔を向けて答えてくれる。


「はい、私の名前はリリィ。九歳です」

「そうか、良い名前だ。それに歳の割にしっかりしている」

「ありがとうございます」


 俺は自分よりも五歳年下の少女を連れて、この廃墟を後にした。

 その時は辛い出発だと思ったが、今にして思えばあの日の事は大切な思い出でもある。

 何故ならその日、俺は世界で一番大切な人に出会ったのだから。

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