お姉ちゃんとお買い物
ディナーのお店は決めてあるの。時間も決めてあるから、それまでちょっとお買い物に付き合ってくれるかしら。
え、お代? 流石に自分の分は自分で出すわよ。結構高いものを買う予定だし、これぐらいはね。それとも、プレゼントしてくれるの?
……最初から期待なんてしてないわよ。あなたの財布事情ぐらい、姉としてしっかり把握しているわ。二人分のお金がちゃんと入っていたのは、意外だったけどね。
何よ、意外そうな顔して。どうかしたの?
もしかして、私が最初からあなたにタカるつもりだったと思ってるの?
流石にそんなことはしないわよ。あなたが二人分持ってきてる保証なんて、どこにもないしね。……途中でATMに行くのも、雰囲気ぶち壊しで興ざめでしょう?
最初は冗談のつもりで言ったのよ? どうせ一人分のお金しか用意してないだろうって思ってたから。そしたらホントに二人分持ってるんだもの。どうせだから、今日は甘えることにしちゃったわ。
……なに、今更前言を翻すつもり? 一度頷いたんだから、最後までカッコつけてみなさいな。
うん、それでよし。
それにしても、意外よね。あなたがそんなに用意してたなんて。もしかして、最初から二人分払うつもりでいたの?
流石にそれはないか。もしかして、貯金とかしてないのかしら?
貯金はちゃんとしないとダメよ。いつ何が起こるか、わからないんだから。少しは計画性を持って生きなさい。これは人生の先輩としての助言。まあ、私とあなたとじゃあ、二歳しか変わらないのだけれどね。
しっかりなさい。弟のあなたがだらしないと、巡り巡って姉である私が苦労することになるんだから。家族の縁なんて、そう簡単に切れるものではないしね。
まあ、この様子なら、もうしばらくはあなたと縁を切る必要はないみたいね。この調子で、好きな女の子をちゃんと支えてあげられるようにするのよ。
うん、それでいいわ。
ところで、気になる服があるんだけど。試着するから、見てくれない?
ええ、あなたでいいわ。生まれてからこの私がずっとそばに居たんだもの。目は肥えているでしょう?
これでも私は、自分の価値をしっかり見極めているつもりよ。一日だけでもこんな美人の隣に居られること、誇りに思いなさい。
なによ、そんなに自分のことが信用できないの?
あなたのこと、嫌いじゃないし、それなりに信頼もしているわ。そうじゃなきゃ、こうして一緒に遊んだりなんてしないでしょう? 女の子って生き物は、無防備に見えても結構考えてるものなのよ。
あなたは正真正銘、私の血の繋がった実の弟なんだから、少しは自信持って生きなさい。あなたにそれだけの価値が有ること、私が保証してあげるから。
それで……この服なんだけど。前から気になっていたけれど、値段が気になって買えなかったのよね。でも今日はあなたのおかげで予算が増えたから、思い切って買ってしまうわ。
ちょっと試着してみるから、待っててね。
……ふぅ、うん……よしっ。
どうかしら。それなりに似合っていると、思うのだけれど。
……そう? ありがと。それじゃあ、これ買うことにするわ。
なあに? 買ってくれるの?
……無理しなくていいわよ。ほら、値段見てみなさい。……青くなったわね、ちょっと面白かったわ。
あなたに負担かけていることは承知しているし、それに今日一日はかけるつもりだから。これぐらいは、自分でね。
言ったでしょ。あなたのおかげで買えるのだから、気負うことはないわ。むしろ、感謝してるぐらいよ。……でも、そうね、その男気は評価してあげてもいいわね。
ご褒美、楽しみにしてなさい?
ええ、期待するだけなら勝手よ。その期待がどこまで叶うのかは、保証しかねるけれどね。
さて……と。次のお店はあそこよ。あなたも来る?
……バーカ、こっちは下着のお店よ。それとも、あなたの分も買ってみる? あなたに似合いそうなの、私が選んであげるわよ。
ふふ、それじゃあ、ちょっと待っててね。それとも、あなたもどこかでお買い物、する?
そう。それなら、終わったら連絡入れるわね。
待ち合わせは……そうね、時計塔でいいかしら。
ええ、それじゃあね。
……。
ごめんなさい、待たせちゃったわね。ちょっと時間がかかっちゃって。……どんなのを買ったのかって? 秘密よ、スケベ。
それで……あなたは何を買ったの?
へえ、可愛い小包じゃない。あなた、いい趣味してるわね。
……え、プレゼント?
これ、結構するやつじゃない? 本当にいいの?
……ありがと。開けてみていい?
これは……へえ、イヤリングなんて、ホントいい趣味してるじゃない。流石は私の弟ね。
ええ、私の趣味にも合っているわ。それに……もしかして、買ったお洋服に合わせてくれたの?
そう、なかなか気が利くじゃない。それじゃあ……早速着替えてみようかしら。トイレで着替えるのは、ちょっと迷惑かもしれないけれど……誰もいないし、いいわよね。
それじゃあ、ちょっと着替えてくるから。待っててね。
……。
……どうかしら。
うん……ありがと。大切にするわ。
ところで……これを聞くのはちょっと野暮かもしれないけれど、あなた、お金大丈夫なの?
……すっかり忘れてたって顔してるわね。はあ、再三言ったことじゃない。全く、計画性がないんだから。こういうところも、似てるかなあ。
ほーら、そこのATMでさっさとおろしてきちゃいなさい。それとも、今更私の財布に頼るの?
よろしい。せっかくちょっとカッコいいと思ったんだから、最後までカッコつけてみせなさい、ね?




