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お姉ちゃんと水族館

 あら、可愛い……。これ、クマノミかしら?

 え、ナンヨウハギ? ああ、そういえばこっちは相棒の方だったわね。十年以上前の映画だから、あんまり覚えてなかったわ。この前も間違えちゃったし。

 あ、ハリセンボン。

 ふふ、こっちは間違えないわよ。見た目そのままの名前だしね。

 こっちの派手な魚は、確か……カサゴだったかしら。一度見たら、忘れられないわよね。これは。

 ……細かい名前までは覚えてないわよ。別に、魚が好きなわけじゃないしね。

 ほら、次に行きましょ? ここのメインは、やっぱり川魚よ。

 そんなの見てて面白いのかって……あなた、結構失礼なこと言うのね。今の飼育員さんに聞かれてたら、嫌な顔されてたわよ。

 ……それにね、女の子と行く水族館っていうのは、面白いとかつまらないとか、そういうものじゃないの。まあ、あなたにはわからないでしょうけど……。

 もう、やっぱりあなたとじゃあ、雰囲気は出ないわね。横顔は似てるのに、どうしてこんなに違うのかしら……いいえ、こっちの話よ。あなたには関係ないわ。

 なに、気になるの? 別れた男の話なんて、別に聞いても面白く無いと思うけどね。

 なあに、やっぱりやめとくの? まあ別に私も話したかったわけではないし、どっちでもいいけどね。

 ほらほら、次行きましょ。川魚だって、結構愛嬌があって可愛いのよ? タナゴとか。

 普段からその辺の川にいるって言われても、全くそんな気がしないのよね。川魚って、遠目から見るぶんにはみんな同じに見えるもの。

 それでも、じっくり見てみると面白い……最初に受けた印象と比べると、なかなか楽しめるものよ。

 ほら、こっちこっち。ウグイって、奇抜な色遣いにも見えるけれど、よく見るとなかなか綺麗な色をしているのよね。

 それにこっちは――ふふ、ほらやっぱり、あなたも結構楽しんでるじゃない。血は争えないモノね。

 それと……こっちに居るのは珍しい魚よ。なんだか人の名前みたいよね。やっぱり、第一発見者とか、そういうのが由来なのかしら?

 へえ、これはゲームでも見たんだ。そっちでも、珍しいの?

 ……作中の単位で言われても、私には全然わからないわ……。ああ、いいのいいの。解説しないで。別にその話がしたいわけではないから。

 それにしても……大きいわね。住んでる家の近くの川にこんなおっきな魚が居たら、きっと楽しいでしょうね。

 ……確かに、おっきなコイは居たわね。すっかり忘れてたわ。コイも確かに大きいものね。

 ほら、覚えてる? 昔参加した……なんだったかしら。とにかく、あなたがおっきなコイを捕まえようとしてたわよね。結局網が壊れちゃって、捕まえられなかったみたいだけれど……。

 後で父さんから聞いたんだけど、あれ、私にくれようとしてたみたいね?

 え、違う? ……ふふ、照れ隠しなんて私には通用しないわよ。何年あなたを見てきたと思っているの。わかりやすい癖ぐらいなら、大体把握してるわ。

 まあ、私はコイなんて貰ってもちっとも嬉しくないんだけどね……。あんなのウチじゃ飼うことなんてできないし、コイは臭みがあって素人調理じゃあまり美味しくならないと聞いたわ。

 あら、これでも、その話を聞いた時はちょっと嬉しかったものよ。モノの価値はどうであれ、女の子は贈り物が好きな生き物なの。

 ふふ、少し賢くなったわね。その調子で、女心を研究して……いえ、やっぱりなんでもないわ。忘れてちょうだい。

 もう、しつこいわね。しつこい男は嫌われる。基本中の基本よ。

 まあ、私に嫌われたいのなら……それでもいいかもしれないけどね。

 ……そう? ふふ、それでよし。素直で従順な受け答えは、なかなかポイント高いわよ。年下なんだから、ちょっとぐらい可愛げがあったほうが……ね。

 ところで、さっきから何か言いたそうにしてるけど、どうしたの?

 わかるのかって、そりゃあね。何年あなたの姉をしてると思っているの?

 それで……へえ、そろそろ入場料分を払って欲しい、ねえ。生憎だけど、アレは別に建て替えてもらったわけじゃないわよ。

 わからないの? 普通、こういうところの代金は全額男が持つものよ。

 横暴だーって……まあ、そうね。横暴ね。でもいいの。あんたも男なんだから、デートの作法ぐらい学んでおいて損はないと思うわよ。

 ……ふふ、よろしい。一応聞いておくけど、今日一日遊べるぐらいの手持ちはあるんでしょう?

 そう、それなら安心ね。

 ほら、その分いい思いはさせたげるから、さ。

 どんなって……そうね、たとえば……こうかな。

 ほら、こうして腕を組んでると、なんだか恋人同士みたいじゃない?

 それがなんでいい思いなのかって……こんな美人の彼氏役ができるんだから、少しは喜んで見せたらどうなの? 私、これでも結構モテるのよ?

 他には何かないのかって? それはその時までのお楽しみ、ってね。すぐにネタばらししちゃったら、面白く無いでしょ?

 あなたは良くても、私はあまり好きじゃないのよ。ネタばらし。……楽しみにしてたマンガのオチをバラされたの、今でも忘れてないんだからね?

 ……あれは仕返しだった? ふん、今更あなたの事情なんて話されても、知らないわ。男女を問わず、過ぎた事の言い訳は見苦しいものよ。

 へえ、素直に謝るんだ。まあ、今は気分もいいし、許してあげる。一応言っておくけど、次はないわよ? もし、また同じようなことをしたら……地面に頭こすりつけたって、許してあげないんだから。

 うん、それでよし。素直で従順な受け答えは、何度やっても構わないのよ。

 ……で、一通り回ってみたけど、何か気に入ったお魚は居た?

 ふーん……ピラルク……ね。確かに大きくて、インパクトあったわよね。……そういうのを選ぶところは、似てるのよね。いえ、なんでもないわ。

 え、私? そうね……私はやっぱり、グッピーかしらね。ネオンテトラもいいわ。やっぱり、熱帯魚は綺麗で可愛いもの。何度見ても、目を引くのよね。……飼うのは、難しいんでしょうけど。

 ところで、そろそろお昼ね。ここのレストラン、美味しいのよ?

 そりゃあもちろん、あなたの奢りだけど。どうかしたの?

 ……ええ、それでいいのよ。ようやく自覚が湧いてきたみたいね。

 今度は、ちょっと高いの頼んじゃおっかな。

 あら、そんな顔したって無駄よ? あなたも男なんだから、さっさと腹をくくりなさいな。

 食べたらもう一周。もう一度、熱帯魚を見に行きたいわ。

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