黎明の夕刻
この話は夏葵と碧が出逢う前の話です。
ずっと、目覚めを待っていた。
綾。
また、貴女に逢える。
そうだけで、この永い眠りの苦痛も刹那の喜びに変えられる。
貴女は、また私に微笑んでくれるかしら?
あの真夏の太陽にも負けないくらい眩しい笑顔で……。
太陽が海に沈みゆく。
そして茜色に染まる海の波打ち際に一人の女性が打ち上げられた。
水色の長い髪、端正な顔立ち、華奢な体、水色のサマードレスを身を包んだその姿は人魚姫のようだ。
その女性は誰かが目覚めさせてくれるのを待つように静かに眠りについている。
眠る女性に藍色に光る蝶が幾羽も集まり、浴衣を着た少女に姿を変える。
白髪の長い髪、藍色の瞳、幼いながらを整った顔立ち、雪のように白い肌は雪女のよう。
少女は女性を優しく抱きかかえ、涼し気な声で女性に話しかける。
「いつまで寝ているの? そろそろ起きなさい」
女性は人魚姫が人として目覚めるように、雪女の少女に抱かれてゆっくりと瞼を開く。
「おはよう……藍」
水のように透き通った声、その声を聞いた少女、藍は嬉しそうに微笑む。
女性は少女に微笑みを返して、夕日を見つめた。
沈みゆく夕日は今日の終わりと、これから始まる黎明を告げていた。