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8,迷いと覚悟

 

 ●エリシアside●



「よし!とうちゃーく!」



 私は踊るようにサクラの部屋のドアを触る。

 え?さっきまで寂しそうに歩いていたって?

 私は辛いことに関しては、一分で忘れるタイプだ。だから今は、友達が出来たことで嬉しさがいっぱいだ!


「ただいまー」


 私は思わず笑いそうな顔を抑えて、部屋に入る。


「おかえり、エリシア......」

「おかえりなさい」


 部屋にはアンドリューとハイネがいる。

 アンドリューは相変わらず本を読んでいるが、ハイネに関しては......。


「ってハイネ!どうしたの?」


 ソファーで辛そうな表情で寝込んでいた。


「うん?ああ。ちょっと張り切りすぎた」


 どうやら修業がより大変になったのかもしれない。

 とりあえず今はそっと休ませておこう。

 と、それよりも。


「すごく良い匂いがするねー。この匂いはズバリ、おかあさん直伝シチュー。アンドリューオリジナル!」


 そう言いながらキッチンにある鍋のふたを開ける。

 その瞬間、鍋の中につまっていた匂いの成分が一気に部屋に広がる。


「うーん!おいしそう!早くたべたーい!」

「ちょっと待ってください。あと二人が来てから一緒に食べましょう」


 すると、タイミングよくサクラとヒマワリが帰ってくる。

 そうかー。ヒマワリさん、出かけていたのか。


「ただいま~!」

「......」


 ヒマワリさんは、はいていたスリッパを脱いで、そのままアンドリューの所に向かう。


「帰ってきたよー!ダーリン!」


 そして抱きつく。これが三日前からの日課。というより挨拶みたいなものだ。

 そして本当ならここでサクラが停めに入るが、サクラは、そのまま二人を通りすぎて、いつも寝ている部屋に入っていく。


「あれ?サクラ。アンドリューがシチュー作ったよ、食べないの?」

「いい。少し疲れた......」


 そしてサクラは部屋のドア閉める。

 とても静かだ......。


「ごめんね。エリシアちゃん。少しそっとしておいてほしいの。さっき来るときに色々あってね......」


 さすがに心配になった。さっきもそうだが、サクラの様子がおかしい。

 といってさすがに思いきって聞くのもまずいがしれない。


「大丈夫よ。サクラのことは任せて」


 私の心配そうな様子を知ったのか、ヒマワリさんは私を安心させるように笑顔で言う。


「は、はい。お願いします......」


 ここは一番付き合いの長いヒマワリさんにお願いすることにした。




 と、いうことで。


「いただきまーす!」


 サクラには悪いけど。私はこの極上シチューをいただくとしよう!


「うん!美味しいわ!アンドリュー君って料理も出来るんだね。私、また惚れちゃった」


 ヒマワリさん。アンドリューをベタ誉め。

 妹である私も鼻が高いよ。


「本当にうまい......」


 ハイネも満足そうだ。


「エリシア。ハイネ。後で重要な話があるので、少し時間良いですか?」


 突然、アンドリューがすごく真剣な顔で言う。


「うん?別にいいよ」

「あ、えっと。私は......」


 ハイネは少し戸惑ってヒマワリさんを見る。


「うん。今日は終わりよ。それにアンドリュー君の話は、たぶん修業よりも大事なことだと思うし」


 ヒマワリさんの返事にアンドリューは安心すると、「ありがとうございます」といって自分の作ったシチューを口に入れる。




 ●サクラside●



 ベッドの上で寝ころがり、天井を眺めながら考えていた。


 本当に大事なことが何なのか......。

 愛莉と奈央は、三人でずっと一緒にいられて。そしてずっと私たちに生かされることが、本当に幸せを感じるのだろうか。

 そもそも人の幸せとは何なのか。


 考えるごとに何もかもよくわからなくなる......。


「ちっ。私はどうすればいいんだ......このままローズと......」


 そして目を閉じる。


『あの子達は今後の将来で、誰かに深い傷を付けられるかもしれない。将来が不安で苦しんでいるかもしれない。そんな暗い未来から救えるのは貴女だけよ』


 その言葉が鮮明に浮かぶ。


「わたしだけ......」



 ●エリシアside●



 夕ごはんも終わり、すべて片付けが終わると、そのまま皆はテーブルを囲んで座る。


「それでどうしたの?アンドリュー」


 アンドリューは真剣な表情を浮かべると、突然懐から一つのメスを取り出す。


「な、なにをする......っ!」


 ハイネがアンドリューの様子に疑問を持つが、突然次の出来事に言葉を失う。


 アンドリューは突然、自分の腕をメスで切った。

 その切った腕からは、ゆっくりと血が流れる


「なにをしてるのっ!?」


 私も思わず怒ってしまった。

 自分の身体に傷をつけるアンドリューなんて見たくなかったからだ。


「すみません、エリシア。自分の身体を大切にしてくださいって言ってたのですが。実際に見せないとわからないので......」


 すると、アンドリューは切った腕の傷を私たちに見せつけた。


「えっ!嘘だろ!?傷がなくなってる!?」

「え?きずが?」


 すると、血がついていたが、それを拭き取ったとき、そこには何もなかった。

 まるでさっき傷をつけたことが嘘だったように。


「どうしたんだ!?お前の身体。なにが」


 ハイネはあまりの出来事に言葉が上手く出ない。


「プリエルさんの言ったこと。覚えてますか?」


 プリエルくん?えっと、確か......。


『異世界に行くには、それなりの代償が必要なんだ。つまり、異世界に行く時に『時空』を渡らないと行けない。そして、その対価は『時間』......。』


「人間としての『時間』が代償。つまりは私たちは人間ではなく、化け物になった。ってこと?」


 私は思ったことを聞いてみる。

 しかし、アンドリューは顔を横に振った。


「『時間』ですよ。時間が僕らをこの体質にしたんです」

「どういうこと?」


 ここにいる皆は理解できず、代表で私が聞いてみる。


「つまり、人間には必ず『生・老・死』というのが存在します。簡単に説明すると、母親のお腹から産まれ、歳をとり、いずれ死に至る。これが人間の運命です」


 皆がうなずく。


「そして僕達はその『生・老・死』のルールから外れてしまった。ってことです」

「その、しょうろうし?これが人間としての時間で、それが無くなったからアンドリューは傷ついても死ぬことはなく、直ぐに治ったの?」


 とりあえず頭の中で整理できたことを言ってみる。


「はい、まさにその通り。ですがこれは僕だけではなく、エリシアとハイネも同じことです」

「だからあの時ハイネに飛ばされてもけがしなかったんだ」


 私はこの世界に来たときのことを思い出した。


 すると、ハイネはなにか考えているのか、自分の手を見てぼーっとしている。そして......。


「つまり、私たちは歳をとらないし、死ぬことも無い。そういうことなのか?」

「はい。僕達は真の意味で『不老不死』です」


 ハイネは不安な表情を浮かべる。


「まあ、そんな深く考えなくていいよ」


 突然ヒマワリさんが言い出した。

 そういえば不老不死に関してはヒマワリさんもサクラも同じだったけ。


「そうね。アドバイスするなら何も考えず呑気に過ごすことが一番!私みたいに自分の家でゴロゴロして過ごすのも良いし、私の一つ上の姉のように色んな世界を周るのもいいわね」

「ヒマワリさんの一つ上のお姉さん?」


 どういう人か聞きたいので、聞いてみた。


「そうよ。ギンナって名前なんだけど、本当気まぐれな子で、時々私に会いにきては、またどっかの国にいっちゃうのよね」

「ふーん、そうかあ。じゃあ会えるかわからないね」


 旅をする者で、永遠の命を持つ。という私たちと同じ立場の人。

 その人からアドバイスを貰いたいだけに会えないのは少し残念だ。


「なんだかハイネには申し訳ないことをしてしまいましたね。本来なら僕達兄妹だけでの旅でしたが、巻き込んでしまいました......」

「え、いや私は別に。私が望んでついてきただけだ」


 二人とも、今知ってしまった現状に戸惑っている。

 そんな中、私は別の意味で嫌な気持ちになっていた。


「アンドリュー。私たちの為にこうやって身体を張ってくれるのは、ありがたいと思っているよ。本当にありがとう......でも」


 私はさっきアンドリューが傷つけた腕を優しく握る。


「自分の身体を傷つけたらだめ。アンドリュー言ったよね、自分の身体は自分のものだけじゃないって。お父さんやお母さんや、色々お世話になった人たち。みんなのものって。だから大切にしてって......」


 私は小指を立てて、少し怒った感じでアンドリューを見る。


「だからアンドリュー。約束して!もう、自分を傷つけるのはやらないって。自分が言ったことを守れないアンドリューは、嫌だからね!」


 すると、わかってもらえたのか、アンドリューは私の小指を小指で握り返す。


「本当にすみません。約束します、自分を傷つけることはしないと。絶対に守ります」


 アンドリューは申し訳なさそうな顔で私を見る。


「うん!やくそくー!」


 私は、さっきまでの不老不死の話にはとくに疑問を持つこともなく、この話は終わることにした。


 それどころか、不老不死なんて凄いじゃん!無敵じゃん!たくさん冒険できるし、もう最高だよ!文句なしだね。


 なんて考えている自分であった。




 ●ローズside●



 目の前には、一人の少女が眠っている。

 高級そうなベッドと、周りに張られたたくさんの荊。

 そしてそんな造りのベッドが、この部屋にはいくつかあり、その全てに。男女や大人子供関係なく人間が眠っていた。


「もうすぐ......もうすぐ私のものになるわ」


 すると後ろから気配がする。


「ローズ様。お呼びでしょうか?」


 その気配の正体は、白い短髪に青い瞳と小柄の体格。

 私を一番慕ってくれて、すごく真面目の大切な妹。『ガーベラ』だ。


「ガーベラ。三日後に私たちは計画を実行しようと考えているわ。でも、もしかしたら問題が起こるかもしれない。だからそれまでは力を温存しておいてね」

「はい。かしこまりました」


 ガーベラは深くお辞儀をすると、そのまま姿を消した。


「マリー。残念だけど、あなたの望んだ形にはならなかったわ。でもあなたの望んだ、私たちディーヴァと人間との共存も、そろそろ叶う......」


 私は目の前で寝ている少女の頭を撫でる。


「この子もサクラと永遠に結ばれて幸せになれる。なんてすばらしいのかしら」


 その少女はサクラの大切な親友。

 私から見て、将来はとてもきれいな女性になれると想像ができる。


「さて、始めよう。私たちの世界を造り出す宴を......」



 ●サクラside●



 朝はあまり眠れなかった。

 いや、そもそも私たちは眠る必要もない。

 ただ消費する魔力を最小限に抑えるように、眠っているにすぎない。

 だけど、寝ることは私にとっては日常茶飯事であるため、あまり気分が良くない。



「サクラ。最近元気無いね。あまり無理はしないでね」


 通学路を一緒に歩いているエリシアは、私に心配そうな声で言ってきた。

 ちょっと気を遣わせすぎたのかも......。


「大丈夫。ちょっと考え事してただけ。ローズとの関係をどうするべきかって......」


 ここは正直に話してみる。


「ふーん。ローズってサクラのお姉ちゃんだよね。どうしてケンカしてるの?」

「ケンカ......いや、ケンカじゃないよ。むしろローズは私と仲良くしたいみたい......」

「だったらどうして?」


 どうして......そういえばどうして私はローズが苦手なのか......。

 たしかに、私の友人を連れ去っていった。

 昨日は私を無理やり連れていこうとしていた。

 でも、本当は人間と私たちの仲を良くしようとするために、私が必要だったからだ。


 そうだ。私とローズの仲が悪いのは、私自身のせいじゃないか......。だったら私からローズと仲良くなって、一緒に歩むべきでは......。



「エリシア。私、言うね。ローズにごめんって......たぶん、それで私たちが仲良くなれるかもしれない」

「そっか。じゃあちゃんと仲良くなってね」


 エリシアは笑いながら言った。

 その笑いを見ると、なぜか罪悪感のようなものを感じた。


 よく分からない。なにを迷っているのか......。

 そして、エリシアには言っておかなければならないことが口から出てくる。


「エリシア。もうそろそろ異世界に行ったほうがいいよ」


 なぜそんなことを言ったかわからないけど、これで罪悪感が紛れるように感じた。


「うーん。そうだなー、とりあえずハイネの訓練が終わったら、たぶん行くかも......」


 寂しそうに言っているが、なぜ私がそんなことを聞くのかは聞いてこなかった。

 たぶん、エリシアもここに居すぎてはいけないと感じているのかもしれない。


 でも、エリシアはそんな寂しさも飛ばすように、無邪気に通学路を走った。


「じゃあサクラとの学校生活を一秒でも長く味わおう!」


 私はそんなエリシアの様子を見て思う。

 ハイネの言うとおり、本当に強い子なんだなって。



 ●●●



 それからのエリシアと奈央と一緒に過ごす日々はすごく貴重で楽しい時間となった。


 学校で勉強したり、放課後には買い物したり。

 翌日の休日には、近くの遊園地で遊びにも行った。

 なんだか友達と過ごすことがこんなすばらしいことだと、初めて感じることができた。

 エリシアもこの世界での最後の思い出が出来てよかったと思う。



 そして......。



 日曜日の朝。


 私たちの......世界の審判の日がやってきた。


 審判の日か。大げさかもだけど、今日の夜。私とローズが、この世界を変える。人間と私たちの平和と幸せのために。



「おはよーサクラ」


 エリシアは眠そうな顔で言ってきた。


「うん」


 私は素っ気なくうなずく。


「えへへ、今日の約束。お願いね」


 エリシアの言う約束は、今日の休みの時間を使って勉強を教えるという約束だ。


「わかった」



 そして、起きたらまず、アンドリューが作ってくれた朝ごはんを食べ。それからすぐに勉強を始めることにした。


 エリシアは、最初はあまり勉強が好きそうではない印象だったけど。かなり積極的で、教えるとすぐに覚えてくれるので、奈央に教えるよりは遥かに教えやすかった。

 もしかしたら、日頃の教育のおかげかもね。

 と、ふとアンドリューを見て思ったのだった。


 ●●●


「ふうー!終わったー...ってもう三時だ!」


 エリシアは背伸びしながら驚いていた。

 時間を忘れるほど勉強が好きって、今時珍しいわ。


「ごめんね、サクラ。なんかだいぶ時間取っちゃたね」

「別にいい。暇だったから......」


 私はそう言いながら、出掛ける準備を始める。


「どっかいくの?」


 その質問に首だけでうなずく。

 すると、なぜかエリシアは微笑んだ。


「そっか、頑張ってね!」


 エリシアのその言葉の意味が、私とローズの仲直りをする応援。と悟った。

 その瞬間。私の中に隠れていた罪悪感がよみがえってきた。


「うん。行ってくる」


 私はエリシアの顔を見るのが怖かった......。

 だから私は顔をふせながら、部屋を後にした。



 ●●●●●



 人間とは何?

 なんで過ちを犯すの?


 それは愚かだから。

 だからこそ、私たちがその愚かさに見合った生き方をさせる。

 それこそが、人間と私たちの仲を保つ唯一の方法......。



 商店街にたくさんの人。

 今日の夜から。ここにいる者は全員、私たちのもの......。


 なんだろう。そう考えて普通は嬉しいのだろうか?

 でも、私は全然嬉しくない......。



「サクラ。姉様がお待ちだ、一緒に来い」


 その声は、久し振りに再開した、ガーベラだった。

 ガーベラは人ごみの中から現れて、私の耳元で呟く。

 すると突然手を握られた。

 


 そして瞬きをした瞬間には、私がさっきまで立っていた所とは別の場所に立っていた。

 辺りを見渡すと、町並みが広がって見える。

 そして自分の立っている所は、ちゃんと平らに舗装されたコンクリートだ。

 そこから考えて、今いるところは何かのビルの屋上というのはわかった。



「よく来たね。サクラ」


 ローズの声だ。

 振り向くと、少し離れたところにローズがいる。

 よく見るとその足元には、大きく赤い何かで書かれた魔方陣がある。


「十年くらいかしら。私たちにとって十年は短い時間だけど、やっとこのときがやってきたわ」


 ローズは今まで見てきた表情よりも、幸せそうな表情で言う。


「さあ。こっちにおいで。今から儀式を始めるわ」


 私はなにも言わず、手招きするローズへと向かっていく。


 すると突然、ビルにあるドアが思いっきり開く音か聞こえた。


「待って!サクラ!」


 それはエリシアの声だった。

 走って来たのか、息切れになりながら私を見ている。


「えっ?エリシア、どうやって......」


 本当に不思議だった。

 なぜ、まるで私がここにいることをわかっていたかのように来ているのか。


「はぁ...はぁ......ダメだよ。本当に仲良くしたいなら、ちゃんと思いを伝えないと」


 えっ?......思いを伝える?


 私は自分の思いに従って、ローズと歩むことを選んだ。エリシアはなにを言って......。


「さっき、サクラが出掛ける時、すごく暗い顔をしていた。ただ怖いのかなって思ったよ。でも、なんだか違うような感じがして......。だから急いで来たんだ」


 ローズはエリシアを見ると、少し興味ありげにうなずく仕草をする。


「ふーん。貴女、不思議な力を持っているようね」


 ローズはエリシアのことについて、少しだけ感づいたらしい......。


 エリシアはそれでもお構い無く続ける。



「サクラはお姉ちゃんと一緒にどうしたいの?それって、本当に良いことなの?ちゃんと考えないと、サクラだけじゃなくて、周りの人たちも苦しむことになるかもしれないんだよ!」



 周りも......。

 わからない。本当に正しいことはなんなのか......。


 でも、これだけは言える。



 私は『考える』ことから逃げていた。



「サクラ。あまり考えたらだめよ。辛くなるのは貴女なんだから......だから」

「愛莉は学校の先生。奈央は警察官」


 突然の私の言葉にローズは言葉をつまらせる。


「みんなそれぞれやりたいことがある。私は信じたい、人間のことを......まだ人間のことはよく分からないけど、ここ数年一緒にいた二人を見ていてわかった。人間はたくさん過ちを犯すし、誰かを傷つけるかもしれない。でも、彼らにはすごい力を持っている。魔法を使うことなく世界を変えていける力が。だから......私は信じる!人間を、人類の可能性を!」


 ローズは黙っていた。

 でも、その表情は少しずつ変わっていく。不気味な笑いに......。


「まったく。貴女もマリーも、どうして人間を信じるだの、夢をどうなの、言うのかしら......それではまた、その人間とやらに殺されるわ!」


 するとローズの背中から荊のツルが伸びて向かってきた。

 それは私を捕まえるために襲ってくる。

 私は急いで刀を出すと、それを防ぐ。


「だから貴女は私のもとへ来るべきよ。無理やりでも連れていくわ......」


 さらに何度もツルが襲いかかってくる。

 一つ一つの、動きが早い。

 たぶん、一瞬でも油断したら捕まってしまう。

 私は全身の神経を集中させて、動きを全て防いだ。

 でも、このまま防ぐだけでは捕まるのも時間の問題。どうすれば......。


 その時、状況が突然変わる。それは悪い方向へと......。


 私の少し離れたところにいたガーベラが、ゆっくりとエリシアの方へと向かっていた。

 そして懐から、自分の武器である、白色の突きに特化した剣。レイピアと呼ばれるものを、エリシアに突きつける。


「お前は邪魔だ。消えろ」


 そしてガーベラのレイピアはエリシアの胸に刺さろうとしていた。


「くそっ!」


 私は自分の刀を思いっきりガーベラに投げつける。

 そして私は無防備状態になると、ローズの放った太いツタが、私の腹部に直撃する。


「......っ!」


 お腹にあるものが全て吐き出しそうな苦しみを感じる。

 意識も失いかけた。

 でも、ここで失うわけにはいかない......。


「エリシア!逃げろ!」


 私は叫んだ。

 そして、ヒマワリから貰った最終兵器を、使うため、目を閉じながら呪文を言う。


「光るは星。弾けるはラムネの泡!」


 すると、私の投げた刀は突然眩しい光を放つ。


「なっ!?」

「まぶし!なに?」


 どうやらガーベラとローズは光をまともに見たらしい。たぶん、二人は今、目が見えていない......。


 今のうちに、私はもう一つのヒマワリから貰った呪文を唱える。


「行きは楽し、帰りはさびしくさようなら。......エリシア、またね......ありがとう」


 私はエリシアの所に全力で駆け寄る。

 そして、私はエリシアの肩を掴む。


「えっ!?サクっ......」



 その瞬間、エリシアがその場から突然消えた。


 これ以上はエリシアを巻き込むわけにはいかない。

 この勝負は、私が着ける!



「あらら。あの子帰っちゃったのね。まあ貴女がいれば問題ないわ。でも、その前に......サクラにはお仕置きをしなくちゃ。ね?」


 ローズは、獲物を定めたような、鋭い瞳で笑みをうかべた......。



 ●ヒマワリside●



 突然のことだった。


 戦闘訓練部屋。私たちがいるこの部屋に突然、サクラの魔力の道が繋がった。するとその道からエリシアが表れる。


「サクラぁ!」


 エリシアは、目を瞑りながら、焦っていた。


「なに?どうしたの?サクラ!?」


 まるでなにか眩しいものをみたかのように、目を薄く開けながら、叫んでいる。


「エリシア。落ち着いてください」


 アンドリューがゆっくりと声をかける。


「え!?アンドリュー、どうしてここにいるの?サクラは?サクラのお姉ちゃんたちは?」


 その言葉で大体理解した。


 サクラは私があげた目眩まし用魔法式を発動させて、二人の視界を一時的に麻痺させて、その間にエリシアを転送魔法でここに飛ばした。



 つまり、サクラは今、ローズと戦っている。『たち』と言うから、たぶんガーベラも一緒だ。

 さすがにまずいな......。


 エリシアも徐々に落ち着き、今の現状を理解し始めた。そして。



「おねがい......サクラを助けて......」


 エリシアが私の前で初めて涙を流しながら助けを求めてきた。


 こんな幼いのに、人のために涙を流せるなんて、すごく優しい子なのね。



 するとハイネがエリシアの方による。



「エリシア。どこだ?サクラのいるところは?」


 ハイネのその言葉に思わず驚く。


「ちょっとハイネ、なにをする気?」

「私に、行かせてください!」


 ハイネは、迷いなく言った。


「だめよ!今行ったら、やられるわ。あなたたちはここで待ってて。私が今すぐ......」

「おねがいします!私たちも行かせてください!」


 それはハイネではなく、エリシアのおねがいだった。

 さすがに困ってしまった。


「なんだか、私たちが行かなきゃいけない気がするんです。私たち三人が......」


 すると、ハイネが地面に刺さった大剣に向かって銃を構えると、そのまま引き金を弾いた。

 その瞬間、今までになかった『轟音』とも呼べる銃声が部屋に響いた......。


 そして数秒後。


 突然、強い風が私たちの身体を押した。


 私とアンドリューは大丈夫だが、エリシアは思わず尻餅をついた。

 この威力は今までハイネが撃ってきた弾の中でも遥かに強い。


 どうやらこの子は本番に強いタイプのようだ。


「ヒマワリさん、お願いします。私たちも行かせてください」


 ハイネは銃をしまうと、私に頭を下げる。


「わかったわ。私も準備したらすぐに向かうから、今のうちに戦いの準備をしなさい」


 そう言うとエリシアとハイネは、少し安心しながらも、緊張した顔つきで二人はサクラの部屋へ走っていく。



 全く......。私が行くつもりだったのに、これじゃあ戦えないじゃない。


 そう思いながら私は自分の剣を持ち上げようとした。

 しかし、その剣はちょうど真ん中辺りからきれいに折れており、持ち上げても刃の部分が地面に刺さったままだ。

 それはさっきのハイネの一撃が貫通したという証拠である。


 ローズ......あなたは人間を愚かで弱い、哀れな生き物って言ったよね。でもさ、改めて気づいたよ。

 私たちの誰もが壊すことのできなかった剣を、あの子は本気の一撃できれいに壊した。


 本当......人間って、おもしろい!

 思わずそう感じちゃった。



 私は折れてしまった刃の部分を取り出す。



 これは、修復に苦労するわね。

 しょうがない、ここは私の優秀な弟子に任せますか。






ここまで呼んでいただきありがとうございます。

少し遅くなりましてすみません......

もう少し更新を早くするようにがんばります!

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