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7,力を持つ苦悩

 ●エリシアside●



 ここはヒマワリさんの家。というよりお城。


 ここで、ハイネは自分の力を底上げするために修行中である。ちなみに今日で二日目だ。

 まあ二日目だから当然だけど、全く成果がない。

 私もそろそろ飽き始めたころ。

 するとヒマワリさんが突然。


「サクラ。どうせならその子をあなたの学校に入れなさいよ。ここじゃあ暇だし。街を歩かすのは危険でしょ?」


 という提案をだした。


 サクラは私の顔を眺めながら、しばらく考える。


「あまり乗る気がしない。話を合わせるのが面倒だし。ヒマワリがなんとかしてくれるなら別にいいけど」

「しょうがないな~。可愛い妹のためにやってやるかー」


 ヒマワリさんは両手を前に出し、掌を上に向ける。


「登録ナンバー。4、8、6、5。記憶改ざん。適応レベル3......」


 すると右手の人差し指で空中に何か書き始めた。

 そして『パンッ!』と一回だけ手を強く叩く。


「よし!今から三日後。エリシアは体験入学として、サクラと同じ学校の生徒になりました。これでしばらくは、ユカリ......じゃなくて、ローズたちの脅威から、サクラが守ってくれるでしょ」


 突然のことでよくわからなかった。


「つまり、ヒマワリが魔法を使って、エリシアを学校に通えるようにしたの。全く......くえない姉だ」


 それを聞いて、すごく嬉しかった。

 私の世界で、学校は貴族の子供だけしか通えないほど、学費が高いのだ。

 それに、学習面はアンドリューが教えてくれるので、学校には一度も行ったことはない。

 だからすごく憧れだった。


「ありがとう!ヒマワリさん!これでサクラと一緒に勉強できるね!」

「うん。よろしく」


 サクラは無表情に言った。


「それよりヒマワリ。ローズの脅威ってどういうこと?......確かに昨日はエリシアと私は一緒にいたけど、こういう時はユカリに警戒するべきじゃ......」

「あれ?わからないの?死んだよ。ユカリは......」


 まるで普通の会話のように、ヒマワリさんは自分の姉妹の死を告げた。


「え?あのとき確か逃げて」

「そのあとすぐ殺されたよ......」


 その話はあまりに世界観の違う話で、実感がわかなかった。でも、昨日の出来事があってから、その話は、自分にも関係のある話なんだと思った。


「用済み。と判断したんじゃないかな?ローズが自分でユカリを排除したみたい」

「どうしてわかるの?」


 疑問に思って私は思わず質問する。


「魔法の力よ。なんならエリシアちゃんの恥ずかしい所も見てあげようかなあー」

「ヒマワリ。さりげなくセクハラしない」


 ヒマワリさんとサクラはそう言ってはぐらかす。

 もしかしたら、ここは深く問い詰めるのはダメなのかもしれない。

 だから私はあえて詳しく聞くのをやめた。


「さあさあ、ついでにサクラの家も、ここと繋げちゃったから、帰って学校に行く支度をしてきなさい!」


 ヒマワリさんは私の肩に手を置いて、押すように歩かせる。

 そして大きな部屋を出ると、すぐ向かい側にあるドアの前に立たせる。


「どうぞ、おかえりなさ~い」


 そしてドアを開けるとそこには......。



「す、すごい!サクラの家についちゃった!」


 私が出た所は、昨日見たサクラの部屋にある押し入れからだった。


「おかえり、エリシア。変わった所からお帰りですね」

「おお、アンドリュー!お留守番おつかれ!」


 私のすぐ横に、サクラの机があり、そこにアンドリューが座って本を読んでいた。

 するとヒマワリさんが、サクラの部屋に入った。そしてアンドリューを見る。


「なに、このかっこいい子!私の好みー」

「バカ、ヒマワリ」


 そしてヒマワリさんが、アンドリューに抱きつこうとしたとき、サクラが後ろから平手で頭を叩く。


「いたーい!いきなりなにするの!」

「勝手に私の部屋に繋げないで。私の結界が、ヒマワリの通路に魔力吸われて崩れたわ」


 サクラのあまり感情の入っていない怒りに、ヒマワリさんは笑ってごまかす。


「えへっ。許してね!」

「くそ姉貴」


 サクラの重い一言にヒマワリさんの心から「ドスッ!」という音が聞こえそうになった。


「ごめんなさい!今すぐに張り直しますので......」


 落ち込みながら言うと、そのまま手で空間になにかを書くように動かし始めた。


「その方が、ハイネを鍛えてくれる先生ですか?」


 アンドリューが聞いてきた。


「うん!ヒマワリさんだよ。本当にすごいんだよ!小さなお部屋に住んでいるのに、そこのクローゼットと大きなお屋敷をくっ付けて、自分のお家にしてるんだって。ほかにもいろいろ魔法の仕掛けがあって、本当に、もう夢の国だよ!」


 私の説明が理解できなかったのか、いまいちの反応だ。いや違う、アンドリューは基本あまりいいリアクションはしてくれないから、内心は驚いているのだと私は考えた。

 うん!きっとそうに違いない!


「エリシアの言っていることはわかりませんが、それほどまでに魔法の力を知り尽くしている方であることは間違いないみたいですね」


 結局私の一生懸命伝えようとした説明がわからなかったらしい......。

 なんだか切ないが、とりあえずこの話は置いておこう。

 それよりも。


「ねえアンドリュー。私ね、サクラと学校に行こうと思うんだ。いいかな?」

「学校ですか?」


 アンドリューは複雑な顔をしている。

 きっといろいろ心配事とかもあるんだろうな。

 でも、やっぱりどうしても行ってみたい、皆と勉強して。皆といっぱい話して......。


「責任はもちろん私たちが取るわ!ね、サクラ!」

「勝手に話進めないで......」


 サクラは嫌そうな顔はしていないけど、迷惑そうな、微妙な顔をしている。


「それでしたらお願い出来ますか?僕も出来ればエリシアに、こちらの世界について学んでいただきたいので、僕としては歓迎です。ですが学費や手続きなどが不安ですね......」

「大丈夫!それも私が全部済ませたわ!」


 アンドリューの心配そうな言葉に、ヒマワリさんは胸を高く、どや顔で言う。


「そうですか?ではお願いしま......」

「ありがとう!アンドリュー!!」


 これで正式に私の入学が決まった。

 舞い上がるほどに嬉しくて、思わずアンドリューに抱きついた。

 するとヒマワリさんも私たちに抱きつこうとした。若干いやらしい目で......。


「いいねえ。兄妹仲が良くて......私も混ぜてー!」

「ヒマワリ。いい加減にして」


 サクラがため息をつきながら、ヒマワリさんの頭を鷲掴みにして止める。



 ●●●●●



 それから二日間。学校に行くための準備で忙しかった。

 筆記用具やカバン。制服なども色々そろえる必要もあるし。前日に校長先生に挨拶などで学校に行ったりとハイネの修行を見るどころではなかった。

 でも、その忙しさがすごく楽しかった。そしてすごく待ち遠しい気持ちにもなった。


 そして、学校当日になった......。



 ●●●●●



「今日からしばらくの間、特別体験入学として、エリシア・クロイムさんがこのクラスに入ります。クロイムさんは日本の学校が初めてという事なので、皆さんしっかりサポートしてください」


 今日から私は、『桜英(おうえい)中学校』の生徒になった。同じクラスにはサクラもいて、すごく楽しそうです。


「エリシア・クロイムです!よろしくお願いします!」


 私が挨拶すると、クラスの人達は皆拍手して迎えてくれた。

 ちなみに私の席はサクラの一つ後ろと、すぐ近くになった。

 たぶん、これもヒマワリさんのおかげなのかもしれないなあ。


 そして私は指定された席に座ろうとしたとき。


「よろしくね。私、進藤奈央(しんどうなお)


 隣の席にいる子が、声をかけてきた。


「あ、よろしくー!エリシアです」


 そして私はその子。奈央と握手する。



「それではホームルームを終わります」


 そう言って先生は教室から出ていった。

 それと同時に、周りの席にいる生徒。主に女の子たちが私の席に駆け寄る。


「ねえ、エリシアちゃん外国人?すごく綺麗!」

「どこから来たの?」

「部活どこに入るか決めた?」


 なんかすごい勢いで質問されている!

 どうしよー。さすがにこんないっぺんに言われたらー......。そうだ!サクラ、ヘルプ!


 前にいるサクラは、席を立ち上がってどこかに行ってしまった......。


 みすてられたー!この裏切り者ー!

 って言いたいけど、それを質問の嵐が許さなかった。


 そして五分後......。


「はい、みなさん!席についてー!」


 先生の授業が始まる合図で、質問してきた皆は席へと戻る。

 やっと授業が始まる......。もう体も心もへとへとだよ。

 だけど、これが皆と勉強する。ということなんだなと思うと少し嬉しくなった。




 ●ヒマワリside●



 今日で修行は五日目。

 一向にハイネの銃弾は剣を貫く様子も傷をつけることもできない。

 それでもハイネは折れることなく、撃ち続けている。


「はぁ...はぁ...」

「少し休みなさい。疲れていたらうまく魔力を込めることもできないわ......」


 ハイネは悔しそうな顔で、しゃがみこむ。

 同じ態勢で長時間、銃を撃つのはかなり体に負担が掛かる。さらに慣れない魔力への意識は、より体力をうばう。

 ハイネの体はかなり疲労していることは間違いない。


「少し、おしゃべりしましょ。どうせだからあなたたちのことも聞きたいし」


 そう言ってハイネを、用意していた椅子に促す。


「あ、はい......」


 ハイネは重い体を動かして、椅子に座る。

 そして沈黙が続く。


「お疲れさま。あまり恐い顔をしないで、リラックスよ」


 なんて言っているが、焦る気持ちはわからなくもない。

 私のもとへ修行を頼んできた人たちも大体今の段階で諦める人が多かった。

 むしろハイネは大した執念とも言っていいものだが......。


「ハイネ。今日で五日間やってきたけど、いまだ感覚は掴めていない。でしょ?」


 ここは正直に言う。

 ハイネは今までの人間の中で、根性や心意気はあっても、才能というより成長があまり良くないのだ。

 でもこの事は、本人が一番わかっている。


「はい。貫こうにも、全然イメージがわかなくて」

「いや、イメージじゃないよ」


 私がそういうと、ハイネは少し驚いたように私の顔を見る。

 私は、少しヒントをあげる必要があると思った。


「あなた。なにかのトラウマ。もしくは自分の力に関しての引っ掛かりがあるんじゃない?」


 ハイネはただでさえ白い肌の顔をさらに蒼白にしながら、戸惑う。

 図星のようだ。


「あまり言いたくはないけど、もしもこの魔法の力を身に付けるのが恐いんだったら、修行は中止して。たぶん時間の無駄だよ......」


 この子には悪いけど、魔法は『心』に大きく作用される。

 心が不安定な状態で魔法を覚えようとしても、逆効果が生まれる。場合によっては危険なことも。だったら再確認する必要がある......。


「もう一度聞く。修行を続けたい?」

「......わたしは」


 ハイネはうつむきながら考え始める。

 しょうがない。これを聞くのも失礼だけど、もしかしたら何かのヒントがあるかもしれない......。


「ハイネは、何のために強くなろうと思ったの?」


 私が聞いてみると、ハイネはさらにうつむいた。

 やばいな。すこし思いっきり過ぎたかな......。最近の若い子はデリケートだからなあ。


「初めて。私は戦う理由ができたんだ......」


 口を開いてくれた。私は少し安心する。


「きっかけは、私と一緒にいたエリシアだ。あの子は私には持っていない強さを持っている。初めてあの子の本音を聞いた時、そう思った」

「エリシアちゃんが?」

「ああ。本当に不思議だった......。なんというか......私の目標。という感じがした」


 目標。確かにエリシアちゃんには何か不思議な感覚を覚えた。でも彼女自身にそんな力が......。

 エリシアの顔を浮かべて、しばらく考える。それでもハイネは話を続けた。


「人生には全て意味がある。あいつはそう言ったんだ。それを聞いたときさ。ずっと前にいた一番仲の良い友達のことを思い出したんだ......私たちの仲を切り裂いたあの出来事にも、やはり何か意味があるのかなって。確証はない......でも、ずっと今まで通りになったら、もう二度とイリヤには会えないって思った。だから私は、変わりたいからエリシアとともに一歩踏み出したかったんだ」


 それは少女一人の、すこし切ない願い。でも、もしかしたら本人にとってはすごく辛いことなのだ。

 力を持つ者の苦悩。

 それは私たちにとってはいたいほどわかってしまうものなのだ。


 そして、ハイネにとってエリシアは希望の光。


 そんなエリシアを、自分の持っている力で護りたいと、強く願っているのだ。

 うん!合格ね。動機は申し分無し!

 だったら責任持って強くしてあげないとね!


「よし!じゃあ、まずは精神統一ね。魔法の修行が詰まったら、まず心から磨きあげるのが一番の近道よ」


 そう言ったとき、ハイネは嬉しそうな笑顔を初めて見せた。

 どうやら中止される。ことに心配していたらしい。すごく安心してさっきまでの緊張が和らいでいた。

 それにしても、やっぱり笑ったら結構可愛い。


「はい!よろしくお願いします!」

「うんうん。一緒に頑張ろうね」


 ただ、彼女の成長率は、お世辞でも良いとは言えない。でも、もしかしたら化けるかもしれない......。

 私が恐れるほどに強く。

 そう考えながら、私はハイネともう一度修行を続けるのであった。



 ●エリシアside●



「エリシアー!こっちー!」


 クラスメイトで隣の席の奈央は、私を呼びながら手を振っている。


「うん!まってー!行こう、サクラ!」


 後ろから少し早歩きで着いてくるサクラに、手招きする。


「あんたたちはよくそんな無駄に体力あるわね」

「なに言ってんの!学生たるもの、元気こそが最大の武器である。って私のばーちゃんが言っていたんだよー」

「ほほう。何とも心強いお言葉!」


 と、私たちは学校の放課後ライフを楽しんでいた。

 やっぱり学校は最高だね!

 ちなみに、今私は、この町の案内をしてあげると奈央に言われて、色々な所へと連れていってもらった。

 その見せてもらった所は全てが新鮮で、今まで味わったことのない楽しさがたくさんあった。


「最後に、私たちのとっておきの場所を見せてあげる!」


 奈央にそう言われて連れてこられたのは、建物がいっぱいあったところから離れて、草むらと山が広がる場所。

 私よりも小さい子供たちが、お母さんらしき人と手を握って歩いていく。

 もしかしたらここは大きな公園なのかも。


「よし!ついた!......とエリシア、ちょっと待って」


 そう言うと奈央は私に近づいて、突然両手で私の目を隠した。


「えっ!?な、な、なに!?」

「へへっ、いいからいいからー」


 奈央はそのまま私を歩かせるようにゆっくりと前へ押していく。

 何も見えない状態で歩くのは、ちょっと恐いな。


「さあ!エリシアちゃん!桜英中学へようこそ!」


 その瞬間。私の目の前に光が広がった。

 そして次に映ったのは、とても大きな木だった。


「えっ、これっ......なに?」


 その迫力のある木。そしてその木から生えているのは、葉っぱではなくて、薄いピンクにも近い、けどなにか変わった色の綺麗な花(?)だった。


「あれ?見たことない?桜だよ。桜の木」

「さくら?」


 私は真っ先に、後ろから歩いてくるサクラの顔を見る。


「そうだよね~、サクラって名前は本当にうらやましいよ。私もナオなんて普通な名前じゃなくて、サクラって名前が良かったな~」

「あんた、とりあえずナオという名前の人たちに謝りなさい......」


 そんな二人の会話もあまり聞こえず、私はずっと桜の木を眺めていた。


「どう?すごいでしょ?」

「うん!すごいよ!」


 私は思わず感動して、体全体で表すように手を広げた。


「よし!花見だあ!」


 奈央はそういうと、カバンからたくさんのお菓子と、三本のジュースを出した。

 それを見てサクラはため息をついた。


「サクラ、エリシアの歓迎会はじめるよ!」

「どうぞ、はじめて」


 サクラは素っ気なく言うと近くにあるベンチに座る。

 私たちもサクラの側に座り、全員でジュースを持つ。


「では、エリシアちゃんが桜英中学への入学に、カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 こうして、私の歓迎会及びお花見会は楽しく無事に迎えるのだった。

 ただひとつ気になることは、サクラがいつも以上に表情が堅かった。

 さすがに心配になって、私が聞いてても、「大丈夫。これでも楽しんでいるから......」と言うから、あまり気にしなかった。



「じゃあね。また明日ー!」


 辺りは薄暗くなり、夕日が沈みそうな時間になった。


「うん!またね、なおー!」


 私は帰っていく奈央に手を振ると、そのままサクラと一緒に帰り道を歩く。


「よかったー。友達がこんな早くできたなんて嬉しいよ!」


 今、本当に踊りそうなくらい、私の気持ちは浮かれていた。


「よかったじゃない。私もうるさい人があと一人欲しかったところよ」


 相変わらずの真顔ジョーク。

 あまり関わりがなかったら、私はサクラの人間性を疑うね。まあ、人間とは呼べないけど。

 いや、私にとってはサクラは人間だよ。ヒマワリさんも。こんな親切な人が化け物なんて私は認めない!


「エリシア、先に帰ってて。学校に忘れ物をしたから取ってくる」


 私が心の中での葛藤を続けていると、サクラが突然言った。


「え、うん。私も一緒に行く?」

「いや、本気で走って行くから、エリシアは先に行ったほうがいい」


 それはつまり、私の数倍の速さで走っていくということだ。

 まあつまり私は足手まといってことだね。


「わかった。じゃあ先に帰っとくね」


 私は寂しい気持ちを抑えて帰り道を歩き出した......。



 ●サクラside●



 どうやらエリシアは先に行ってくれたようだ。

 私はそのまま立ち尽くし、少し深呼吸して、気持ちを落ち着かせる


「久しぶりね。ローズ......」


 すると、近くにあった木の影から一人の女性が出てきた。


「あらら、ばれちゃったわー」


 少し陽気な笑顔で出てくる女性。赤くて長い髪。そして赤い瞳。男女問わず魅了する美しさ。

 それが私の知っている姉の一人であることを、すぐにわかった。


「久しぶりね。サクラ......しばらく見ない間に、また人間の色に染まっちゃって......」


 どうやら私の学校の制服姿をみて思ったんだろう。すごく残念そうな顔で言う。


「別にそんなことは私の勝手でしょ?」

「ふふっ、そうね。貴女の勝手だわ。でも、わたくしとしてはあまり好ましくないわね。少し指導しなければいけませんわ......」


 するとローズは、右手を差し出し、手のひらを私に向ける。

 思わず身構えるが、それに反してローズは余裕の笑みを浮かべる。


「やっぱりサクラは、最高の妹よ」


 そう言うと、手のひらから突然一輪のバラが出てきた。

 それはローズにとって、相手を仲間として歓迎するという合図だ。


「ど、どういうつもり......」


 少し焦ってしまったが、なんとかして冷静さを装うことにした。


「ふふっ。わたくしは貴女を歓迎いたしますわ。貴女がいなければわたくしの『野望』は果たせないですもの......」

「野望?」


 それは予想外だった。

 というのもローズにとっては、どんな野望でさえ『ローズの力』で簡単に叶えられると考えていたからだ。

 それを私が必要ということに、少し驚いたのだ。


「そうよ。まあ一言で言えば......『人類家畜化計画』って名付けようかしら」

「かちく!?」


 その言葉に私は驚愕した。


 そう。私たちはあまり食事をとる必要はなく、その代わりに、人間の中に眠る魔力を引き出し、それを喰って生きている。

 私も普段は、学校の生徒たちから有り余った魔力を少しずつ貰って生きている。

 だが、ローズの言う『家畜』はそんな生易しいものではない。

 人間はある意味では魔力も原動力として生命を保っているため、魔力を失えば生命力も失って、死に至る。

 それをローズは、人間たちの魔力をむしりとって、その人間の人生などお構い無しに殺せる。

 そんな世の中にしたいと、私は簡単に想像がついた。


「でも、この計画には貴女が必要不可欠なの。サクラ......」

「私はいい」


 そうだ。それでいいはずがない。人間でもそれぞれ生きたい人生がある。

 それを私たちの勝手で壊してはいけない。


「それよりローズ、愛莉を返して。彼女は関係ない」


 そういうと、ローズが突然不気味な笑いをみせた。


「あの子は預かっているだけよ。貴女が私の所にくるんだから、あの子を危険な目に合わせたくないじゃない?なんなら、さっきいたあの子たちも預かるほしいかしら?」

「そんな勝手なことを言わないで。私はあんたと組む気はないし、友達の安全を任せたおぼえもないわ」


 すると、ゆっくりとローズがこっちに歩いてくる。


「そうね。確かに貴女が来なければ、私の野望は叶わないし。このままだと私はただの誘拐犯だわ」


 ローズはある程度近づいてくると、私を抱き締めようとするように、両手を手前に広げる。


「でもさ、貴女は友達がなによりも大切でしょ?」

「そ、それは......」


 図星である。

 今思えばここまで人間と仲良くなったのは、愛莉と奈央のおかげだ。

 そんな友達が大切じゃないわけがない。


「でも、その子達がもしも、野蛮な人間たちに傷付けられたら?殺されたら?貴女はそれでもこの子達を放っておくの?」

「......」


 私は何も答えられず、ただ立ち尽くしていた。とその時、ローズの右手が私の頬に触った。


「ね。私と一緒に支配しましょ......この世界を、そして好きなお友だちと幸せに暮らして。私たち『ディーヴァ』が全てを動かしていきましょ」


 すると突然胸が熱くなった。

 でもそれは熱すぎない、気持ちのいい熱さ。

 そしてその気持ちよさは段々登ってくる。


「な、なに......っ!」


 そして突然、衝撃の走る快感が襲ってくる。


「さあ、サクラ。このまま私のものになりなさい。貴女は私の中で、最高の妹よ」


 ローズの淡々と言った言葉は耳に入らず、ただその心を持っていかれそうな感覚に耐えていた。

 よく見ると自分の胸には普通より一回り大きいバラの花が咲いている。


「あっ、ぅ......たす......けて」


 思わず情けない言葉が出てきた。


「ふふっ。もうちょっと待ってね。もうすぐ貴女を支配することが......」


 と、その時。ローズが何かに気づき、急に後ろに下がった。

 その瞬間、胸から咲きでているバラが何者かの手によって引っこ抜かれる。

 バラが取れたと同時に、体を支配していく快感が突然消えた。


「サクラ。ごめん......少し遅くなった」


 目の前には、右手だけが異様な形になって、その手でバラの花を掴んでいるヒマワリの姿があった。


「ヒ、ヒマワリ......」


 ヒマワリは、手に持っているバラをその場に捨てると、私を心配そうな表情で私を見ている。

 そしてその表情をおし殺して、ローズへと振り向く。


「ローズ。まだ復讐を考えているの?」


 復讐......。

 その言葉には何となく心当たりがあった。


「復讐?まさか。私はね、この世界の成り立ちを正したいから、サクラの力が必要なの。貴女もできれば手伝ってもらいたいわ。ヒマワリ......」

「断る。貴女が何を企んでいるかわからないけど、こうやって妹に無理を許容させるのは、私はあまり賛成できないわ」

「そうね......確かに貴女たちには説明しなきゃね。私が理想とする世界の姿を」


 ローズは懐からある本を取り出す。

 そこには『ディーヴァ研究議事録』という題名の本だ。


「懐かしいわね、ヒマワリ。私たちの苦しみが産み出した一冊の本。六十年前の悲劇。この頃の私は、本当に愚かだった」

「そうね。このときのローズは酷かった......もちろん、私もあのときは怒りに任せてローズを止めることはしなかった。仕方がないと言ったらそうかもしれないけどね......」


 この時......。

 六十年前の悲劇は私も知っている。

 でも、このときは私が生まれる前であったため、本で読む程度しか分からない。


 六十年前。私の姉たちは、人々から『ディーヴァの娘達』と呼ばれていた。

 その理由というのは、ヒマワリいわく、私たちの母が昔、民衆を自分の歌声で魅了し、やがて『歌姫』という意味を込められディーヴァと呼ばれるようになった。

 そして、姉たちはそんな母の力を受け継ぎ、ディーヴァとして生きていこうとした。

 しかしその矢先で、とある人間たちが皆を『生物実験』のため、無理やり研究所に連れていかれた。

 本を見る限り実験の内容は、軽いものから。酷い実験まで様々だが。全体的には目を塞ぎたくなるものばかりだ。

 たぶんそんな出来事が、ローズを人間嫌いにしてしまったのだと私は思っている。


「人間は愚かな生き物だ。自分の欲のために他人を傷付ける。だけど、軽く叩けば簡単に壊れてしまうほど弱い。私はそんな人間が嫌いだった。でもね、なぜか知らないけどあいつらは私たちと全く同じで、感情を簡単に表に出せる。笑ったり悲しんだり怒ったり......。私はそんな彼らに、情が芽生えちゃったわ」


 すると、ローズの右手に青い炎が現れる。

 その炎は『人の魂』だとすぐに気づいた。


「これも全部この子のおかげよ。この子が私に情を植え付けた。最初はこの子もね、魔力を食べたとき、すごく泣いていたわ。未知なる感覚に恐怖を感じたんでしょうね......でも、三日くらいたつと、食われることに喜んじゃっているのよ。まるで家畜みたいにね」

「ローズ姉。まさか......」


 ヒマワリは嫌な予感をして、ローズに問いただす。


「そうよ、この子と同じ人間を人類全体に広めるの!そうしたら、私たちは不自由なく生きられ、人間たちも幸せになれる!これこそ私の理想郷!どう?すばらしいでしょ?」

「本当。貴女のありがたい野望はすばらし過ぎて呆れるわ。行こうサクラ。ローズ姉はイカれてる」


 私は愛莉を助けたい気持ちもあったが、今は退避するべきだと思い、ヒマワリについていこうとした。


「愛莉ちゃんも、奈央ちゃんも、さっき一緒にいたあの子も。ずっと一緒にいられるのよ?」


 その言葉で思わず立ち止まる。


「いい?あの子達は今後の将来で、誰かに深い傷を付けられるかもしれない。将来が不安で苦しんでいるかもしれない。そんな暗い未来から救えるのは貴女だけよ」


 私は思わず振り向く。


「私だけ?」

「そうよ。サクラはとても強くて賢い子。貴女こそ私の理想郷を建てるに相応しい逸材だと信じているわ。だから一緒にやりましょ、愛莉ちゃんや奈央ちゃんたちの為に......」


 すると突然ヒマワリが私の腕をひいた。


「行くよ!あんまり本気にするな!こいつはただのシスコンやろうなだけだ」


 そう言われると、私はそのままヒマワリに引っ張られながら、帰り道を辿った。


「楽しみにしてるわ......」


 ローズはそう呟いて、姿を消した。

 それでもヒマワリは早い足取りで帰り道を歩く。まるでローズから一秒でも早く離れたいようだ。

 そんなヒマワリに私はただついていくしかなかった。



  そしてそのまま、いつもの帰る道を歩く。

  何か心に引っ掛かる気持ちを残しながら......。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

少し書くペースが遅くなってる気がする......。

よし、がんばろう。ってことで今後もよろしくお願いします。

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